井出草平の研究ノート

ゲーム障害 Gaming disorder

WHOの診断基準であるICD-11が策定されたのでゲーム障害を訳出した。 icd.who.int

原文

Description
Gaming disorder is characterized by a pattern of persistent or recurrent gaming behaviour (‘digital gaming’ or ‘video-gaming’), which may be online (i.e., over the internet) or offline, manifested by: 1) impaired control over gaming (e.g., onset, frequency, intensity, duration, termination, context); 2) increasing priority given to gaming to the extent that gaming takes precedence over other life interests and daily activities; and 3) continuation or escalation of gaming despite the occurrence of negative consequences. The behaviour pattern is of sufficient severity to result in significant impairment in personal, family, social, educational, occupational or other important areas of functioning. The pattern of gaming behaviour may be continuous or episodic and recurrent. The gaming behaviour and other features are normally evident over a period of at least 12 months in order for a diagnosis to be assigned, although the required duration may be shortened if all diagnostic requirements are met and symptoms are severe.

Exclusions
Hazardous gaming (QE22)
Bipolar type I disorder (6A60)
Bipolar type II disorder (6A61)

日本語訳(私訳)

6C51 ゲーム障害

ゲーム障害は、オンライン(すなわち、インターネット上)またはオフラインである可能性のある持続的または反復的なゲーム行動(「デジタルゲーム」または「ビデオゲーム」)のパターンによって特徴付けられ、1)ゲームに対する制御の障害(例えば、発症、頻度、強度、期間、終了、状況); 2)ゲームが他の生活上の利益および日常活動よりも優先される程度にゲームに与えられる優先度を高めること。 3)否定的な結果の発生にもかかわらず、ゲームの継続または拡大。行動パターンは、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的または他の重要な機能領域において重大な障害をもたらすほど重大である。ゲームの行動パターンは、連続的または一時的かつ反復的かもしれない。ゲームの行動および他の特徴は、通常、診断を割り当てるために少なくとも12ヶ月の期間にわたって明らかである。しかし、すべての診断要件が満たされ、症状が重篤な場合は、必要な期間が短縮されるかもしれない。

検定の早見表

f:id:iDES:20171108132326p:plain

どのような分析・検定をすればいいかがかかれている。 こちらの書籍から。

Statistical Rethinking: A Bayesian Course with Examples in R and Stan (Chapman & Hall/CRC Texts in Statistical Science)

Statistical Rethinking: A Bayesian Course with Examples in R and Stan (Chapman & Hall/CRC Texts in Statistical Science)

書籍のタイトルを見てわかるように、この本はベイズを勧める本である。 本の趣旨は「頻度主義は煩雑だ」と示すための図だが、逆に頻度主義の分析の早見表になるのではないかと思って掲載してみた。

この書籍はそこそこ評価が高いようだ。確かに、頻度主義への疑問から始まり、私たちがよく使う分析法に言及していくので、いい本だと思う。日本語でこのレベルの書籍がでるとベイズ受けもずいぶんよくなる気がする。

日本語でSPSSの統計分析早見表を作っている方がいたのでリンクを貼っておく。 http://www.team1mile.com/asarin/hus/2009/quick_ref_stat.pdf

抹消結果を伴った潜在クラス分析の方法の比較

潜在クラス分析の潜在変数を独立変数として使う場合には、いくつか方法がある。最も簡便なのは、潜在クラス分析の中に、従属変数を組み込んでしまう方法である。

パス図で示すとこの方法が合理的であることがわかるだろう。

f:id:iDES:20170910182835p:plain

近年になって一部の統計パッケージに実装されるようになった抹消結果(Distal Outcomes)を伴った潜在クラス分析であるDCAT法やBCH法を使う選択肢もある。詳細は、以前のエントリーを参照。現在は、DCAT法やBCH法が推奨されている。

この2つの推定法がどの程度違いがあるのかを検証してみたいと思う。

  • モデル1 通常の潜在クラス分析。
  • モデル2 潜在クラス分析の中に組み入れた分析。上記の図に相当するもの。表では独立変数をDistal Variablesとして表記。
  • モデル3 DCAT法。表では応答確率とオッズ比を併記。

分析に使うのは、以前のエントリーと同じく、犯罪種別の潜在クラス分析である。婚姻ステータスを潜在変数の従属変数として設定している。従属変数の婚姻ステータスがカテゴリカル変数であるため、DCAT法を使用する。 分析の詳細はこちらを参照。

結果

結果の詳細は下部で示す。まずは結果をまとめる。
通常の潜在クラス分析(モデル1)と婚姻ステータスを従属変数とした抹消結果の推定(DCAT法)を用いたモデル3の応答確率(probability)は完全に一致している。また、フィッティングを判断する指標の数値も一致している。抹消結果を設定することによってクラス分類は影響を受けていない。

潜在クラス分析において、共変量や抹消結果を組み込んだ時に、もともとの潜在クラスの分類に影響を与えることがあり、時にはクラス数が変化してしまうこともある。これは分析をする上での悩みどころであるため、DCAT法は分析者にとつてはありがたい。なお、フィッテングの指標が完全一致しているということは、2ステップでの推定であるからである。

潜在クラスの中に従属変数を入れ込む方法(モデル2)と通常の潜在クラス分析(モデル1)を比較すると、クラス割合と応答確率は一致はしていない。詳細は下部の表を見てもらえるとわかるが、大きく異なるわけではなく、応答確率の小数点第3位以下で数値が変化している程度である。分析の重要な部分に影響を与えるほどの変化はない。この方法でも特段問題はなさそうである。

モデル2とモデル3の抹消結果/変数の応答確率は一致している。抹消結果を伴う潜在クラス分析(モデル3)は独立変数を潜在クラス分析の中に組み入れる方法(モデル2)の上位互換ととらえることができる。

DCAT法(モデル3)ではオッズ比(95%信頼区間)を利用して5%水準の有意差が見ることができる。検定で有意差を示すことができると、論文でも説得的に論を展開できるため、非常に有意義である。

まとめると、潜在クラス分析の中に従属変数を組み込む方法(モデル2)でも分析に問題はないが、DCAT法を使うと、ノーマルな潜在クラス分析と同じ応答確率が得られる結果が得られるという利点がある。また、潜在変数である各クラスと従属変数の有意差も示すことも利点である。もし、DCAT法やBCH法が実行できる環境であるならば、これらの方法をとるのが望ましいだろう。

フィッティング

モデル1 モデル2 モデル3
ΔG2 1043.653 1576.245 1043.653
Δd.f. 472 980 472
BIC 62480.379 70859.684 62480.379
Entropy 0.665 0.665 0.665

クラス構成割合

モデル1 モデル2 モデル3
クラス1 0.20471 0.20407 0.20471
クラス2 0.26878 0.23642 0.26878
クラス3 0.11204 0.11138 0.11204
クラス4 0.41447 0.44813 0.41447

モデルごとの指標(顕在変数)の条件付き応答確率

クラス1

モデル1 モデル2 モデル3
PROPERTY 0.141 0.141 0.141
FIGHT 0.177 0.179 0.177
SHOPLIFT 0.389 0.384 0.389
LT50 0.236 0.236 0.236
THREAT 0.236 0.361 0.358
POT 0.950 0.944 0.950
DRUG 0.520 0.519 0.520
CON 0.190 0.187 0.190
GOODS 0.093 0.091 0.093
Single(Distal Variables) 0.203
Single(Distal Outcomes) 0.203
0.847[0.693-1.035]

クラス2

モデル1 モデル2 モデル3
PROPERTY 0.234 0.232 0.234
FIGHT 0.494 0.495 0.494
SHOPLIFT 0.259 0.259 0.259
LT50 0.172 0.169 0.172
THREAT 0.640 0.632 0.640
POT 0.311 0.308 0.311
DRUG 0.021 0.017 0.021
CON 0.335 0.335 0.335
GOODS 0.095 0.095 0.095
Single(Distal Variables) 0.317
Single(Distal Outcomes) 0.317
1.538[1.288-1.838]

クラス3

モデル1 モデル2 モデル3
PROPERTY 0.773 0.771 0.773
FIGHT 0.721 0.718 0.721
SHOPLIFT 0.833 0.832 0.833
LT50 0.688 0.686 0.688
THREAT 0.797 0.796 0.797
POT 0.882 0.881 0.882
DRUG 0.534 0.531 0.534
CON 0.629 0.629 0.629
GOODS 0.599 0.598 0.599
Single(Distal Variables) 0.333
Single(Distal Outcomes) 0.333
1.658[1.365-2.014]

クラス4

モデル1 モデル2 モデル3
PROPERTY 0.015 0.015 0.015
FIGHT 0.075 0.072 0.075
SHOPLIFT 0.051 0.050 0.051
LT50 0.037 0.037 0.037
THREAT 0.066 0.066 0.066
POT 0.184 0.183 0.184
DRUG 0.007 0.006 0.007
CON 0.060 0.060 0.060
GOODS 0.001 0.000 0.001
Single(Distal Variables) 0.231
Single(Distal Outcomes) 0.231
1.000[1.000-1.000]

抹消結果(distal outcomes)を伴った潜在クラス分析

抹消結果を伴った潜在クラス分析(Latent Class Analysis with distal outcomes)とは、潜在変数を独立変数にした分析のことである。今回はMplusを使用して分析を行ってみたい。

f:id:iDES:20170921174454p:plain

まとめると以下のようになる。

表1 カテゴリカル変数の分析法のまとめ

観察された独立変数 潜在する独立変数
観察された従属変数 ロジスティック回帰分析 共変量を伴った潜在クラス分析
潜在する独立変数 抹消結果を伴った潜在クラス分析 カテゴリカルSEM

潜在変数を独立変数にするのは難しい。未だに技法にの議論がされ続けており、方法論は今後もアップデートされる可能性がある。

ともあれ、現在推奨される方法に関してはコンセンサスがある。抹消結果の方が連続変数なのか、カテゴリカル変数なのかで手法が少し違う。

  • 連続変数...BCH, DU3STEP
  • カテゴリカル変数...DCAT

BCH

BolckとCroonとHagenaarsの論文で提唱された方法。おそらく、頭文字をとってBCHと呼ばれているのだと思われる。

DCAT

ソフトウェア

実行できるソフトウェアはMplusとSASの2つである。

このマクロはWindows版でしか作動しない。SASには無料版のSAS University Editionがあるが、Windowsの上にLinuxをエミュレートするものなので、University Editionではこのマクロは作動しない。

SASは年間ライセンス9万3000円(参照)である。永続的なライセンスは100万くらいするそうなので、年間ライセンスはお得だといえばお得であるが、それでも高価に感じる。

だいたいのことができるRだが、潜在変数関係に関して非常に弱く、共変量、抹消結果ともに扱えるパッケージがない。

データ

以前にに使用したデータ(参照)を使う。反社会的行為(ASB)に対して潜在クラス分析をして、その潜在クラスを独立変数として別の(顕在)変数との関連を調べるという例題である。

TITLE:     LCA of ASB items with distal outcomes
DATA:      FILE = asb.dat;
           FORMAT = 34x 51f2;
VARIABLE:
           NAMES = property fight shoplift lt50 gt50 force
                   threat injure pot drug soldpot solddrug con auto
                   bldg goods gambling dsm1-dsm22 male black hisp
                   single divorce dropout college onset f1 f2 f3 age94;
           USEVARIABLES = property fight shoplift lt50 threat
                          pot drug con goods single;
           CLASSES = c(4);
           CATEGORICAL = property-goods;
           Auxiliary = single(DCAT)
ANALYSIS:  TYPE = MIXTURE;
                  ESTIMATOR = MLR;
                  STARTS = 200 10;
                  STITERATION = 50;

犯罪種別によって婚姻ステータスが変わるという仮説である。 実際のところは婚姻ステータスの方が独立変数かもしれないので、あくまでも例題であるという理解をしてもらいたい。 クラスと抹消結果との関連を見てみよう。

表2 クラス間の平均・蓋然性の均質性検定

Class Odds Ratio S.E. 2.5%CI 97.5%CI
class1 0.847 0.087 0.693 1.035
class2 1.538 0.140 1.288 1.838
class3 1.658 0.164 1.365 2.014
class4 1.000 0.000 1.000 1.000

クラス2とクラス3で独身者が多くなっている(5%水準)。
クラス間の差に検定も出力される。

表3 クラスの差の検定

Chi-Square P-Value
Overall test 50.552 0.000
Class 1 vs. 2 27.692 0.000
Class 1 vs. 3 28.425 0.000
Class 1 vs. 4 2.746 0.098
Class 2 vs. 3 0.435 0.510
Class 2 vs. 4 21.616 0.000
Class 3 vs. 4 23.485 0.000

表1はオッズ比である。指標からしてどこかが参照カテゴリになっている必要がある。この表での参照カテゴリーはクラス4である。

他の補助(Auxiliary)コマンド

以前のこちらのエントリーを参照のこと。BCHを使うときには、コードのDCATとなっているところをBCHに書き換えればよい。

Appendix

参考までに指標の条件付き応答確率を掲載しておく。変数の説明が見つけられなかったので、右列の日本語は推測も交じっており、犯罪種別もすべて網羅しているわけではないので、解釈をするのは難しい。

表4 指標の条件付き応答確率

class1 class2 class3 class4
PROPERTY 0.141 0.234 0.773 0.015 財産犯
FIGHT 0.177 0.494 0.721 0.075 けんか
SHOPLIFT 0.389 0.259 0.833 0.051 万引き
LT50 0.236 0.172 0.688 0.037 50$以下の盗み
THREAT 0.358 0.640 0.797 0.066 脅迫
POT 0.950 0.311 0.882 0.184 マリファナ
DRUG 0.190 0.021 0.534 0.007 ドラッグ
CON 0.190 0.335 0.629 0.060 詐欺
GOODS 0.093 0.095 0.599 0.001 物品窃盗

Mplusにおける混合モデルのauxiliary設定

Mplusでは、潜在変数を扱った混合モデルの場合、潜在変数を独立変数にする場合でも、従属変数にする場合でも、補助コマンドを設定する必要がある。

共変量とは、潜在変数を従属変数にする場合の独立変数を指し、抹消結果(distal outcomes)は潜在変数を独立変数にする場合の従属変数を指す。

下記のMplusのノートブックの表6と表7のコマンドの一覧の翻訳である。わりと適当に訳しているので、正確に理解する際には、原文を確認されたい。

Tihomir Asparouhov and Bengt Muthen, 2015, Auxiliary Variables in Mixture Modeling: Using the BCH Method in Mplus to Estimate a Distal Outcome Model and an Arbitrary Secondary Model, Mplus Web Notes: No. 21.

DU3STEP

使用法: 抹消結果が連続変数の場合
記述・リファレンス: 分類誤差補正; Vermunt (2010) and Asparouhov-Muthen (2014)
長所と短所: クラスの変化に敏感。Mplusはクラス構成が変更された場合、結果は表示されない。マニュアルバージョンは、共変量の制御を含む、任意の補助(auxiliary)モデルにも使用できる。クラス間で不等抹消分散(unequal distal variances)を推定する。
推奨: 抹消結果が連続変数であることが望ましい。クラス構成の変更がない時に使うが、それ以外の場合はBCHを使用する。

BCH

使用法: 抹消結果が連続変数の場合
記述・リファレンス: 計測誤差の重みづけ, Bakk and Vermunt (2014)
長所と短所: クラスの変更を避ける。 抹消へのクラス変更の分散に伴うDCONの欠点を回避する。マニュアルバージョンは、共変量の制御を含む、任意の補助モデルにも使用できる。低いエントロピーで標準誤差が過小評価される可能性がある。
推奨: 連続変数の抹消結果の際に使用が好まれる。

DCAT

使用法: 抹消結果がカテゴリカル変数の場合
記述・リファレンス: 抹消は共変量として扱われる。Lanza et al. (2013)
長所と短所: クラスの変更を避ける。
推奨: 抹消結果がカテゴリカル変数だった場合に好まれる方法。

R3STEP

使用法: 共変量
記述・リファレンス: 分類誤差の補正。; Vermunt (2010)
長所と短所: うまく機能する。
推奨: 共変量を伴った方法に推奨される。

DE3STEP

使用法: 連続変数のdistal outcomes。クラ間の抹消分散が等価である。
記述・リファレンス: 分類誤差の補正; Vermunt (2010) and Asparouhov-Muthen (2014)
長所と短所: クラスの変更やクラス変化による分散に影響されやすい。 クラス構成が変更された場合、Mplusは結果が報告されない。
推奨: BCHやDU3STEPに劣る。DU3STEPが収束しない場合のみ使用する。

DCON

使用法: 連続変数がdistal outcomesの場合。
記述・リファレンス: 抹消を共変量として扱う。; Lanza et al. (2013) and Asparouhov-Muthen (2014)
長所と短所: クラスの変更を避ける。 エントロピーが低いときに、分類変化に敏感である。
推奨: BCH、U3STEPに劣る。DU3STEPは分類形式を変えることができない。エントロピーが0.6を超えた時のみに使用ができる。 分散が2つ以上のクラスにわたって変化しているときには、この方法は使用はしない。
このチェックによって、最も可能性の高いクラス割り当てを使用して行うことができるが、Mplusによって自動的に行われない。技法の研究にのみ使用する。

E

使用法: 連続変数がdistal outcomesである場合
記述・リファレンス: 疑似クラス(Pseudo-class: PC)法; Wang et al. (2005)
長所と短所: 偏った結果を与える。
推奨: 技法としてはBCHとDU3STEPに代替されている。技法の研究にのみ使用する。

R

使用法: 共変量の場合。
記述・リファレンス: 疑似クラス(Pseudo-class: PC)法; Wang et al. (2005)
長所と短所: 偏った結果を与える。
推奨: 技法としてはR3STEPに代替されている。技法の研究にのみ使用する。

文献

Rでオッズ比と調整済み残差を出す

2x2のクロス集計表の場合はオッズ比と調整済み標準化残差は似たような統計量になる。どちらが好まれるかは分野によって異なるので、適宜、好まれる方を使用するのがよいと思う。社会学ではそれほど見かけることはないが使用されるはずである。オッズ比はなぜか知らないがあまり好まれない傾向にあるように感じる。ちなみに医学ではオッズ比が好まれ、調整済み標準化残差を見かけたことがない。

オッズ比は95%信頼区間を併記するのが普通である。調整済み標準化残差は5%基準、1%基準、0.1%基準をアスタリスク等で表記する。95%信頼区間はどちらかが1を越えていないかを一つ一つ確認しなければならないので、表を見るのがめんどくさい。一方で、調整済み標準化残差のアスタリスク表記は、ぱっと見で分かるので便利だと思う。

有名な統計パッケージでは、SPSSでは調整済み標準化残差は計算できるが、オッズ比の計算ができない。stataはマクロを入れると計算できたように記憶している。とりあえず、計算が一番簡単で効率よくできるのはRであるのは間違いない。

下準備

クロス集計表のマトリックスを作成しておく。

例1 データマトリックス

d1 <- matrix(c(2,15,30,12), nrow=2)

データセットからも作成しておく。

例2 CPS1985のデータを使う

library(AER) #AERパッケージの読み込み
data(CPS1985) #CPS1985の読み込み
d2 <- table(CPS1985$gender, CPS1985$married)

性別と結婚ステータスを選んだ。2x2のクロス表が作りたいのでどちらも二値データの変数である。実際の分析としてはあまり意味がないかもしれない。

調整済み残差

調整済み標準化残差はRのデフォルト機能で出力できる。

d1res<- chisq.test(d1) #カイ二乗検定
d1res$stdres # 調整済み残差

結果は以下。

   [,1]      [,2]
[1,] -4.166099  4.166099
[2,]  4.166099 -4.166099

絶対値4.17である。

d2res <- chisq.test(d2) #カイ二乗検定
d2res$stdres # 調整済み残差

結果は以下。

    no       yes
male    0.259397 -0.259397
female -0.259397  0.259397

こちらは絶対値0.26である。

調整済み標準化残差は標準正規分布区間推定値と同様の値をとる。つまり、95%信頼区間は-1.96~1.96であり、残差ののように期待値からは外れていることを示す数値はこの95%信頼区間の外でああればよい。したがって、1.96より大きいと5%水準で有意な差があることになる。どうように、1%水準は2.58、0.1%水準は3.29、0.01%水準は3.89以上になる。

したがって、例1は4.17であったので0.01%水準で有意だったが、例2は1.96に満たないため、有意ではないということになる。

標準正規分布(余談)

ちなみに1.96というような数字は標準化しているために使用できる基準である。標準正規分布表からこの数字は読み取れる。

正規分布の上側確率
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/CGI-BIN/tgxp.html

リンク先のでは1.96が例に上がっている。1.96のセルは0.0250であるで、これを2倍(両側にするため)すると0.05=5%水準となる。

オッズ比

オッズ比を出すには、パッケージのインストールが必要である。いくつか存在しているが、一番いろいろできるのはepitoolsパッケージである。

library(epitools) #epitoolsパッケージの読み込み

#### mid-p法(median-unbiased estimation) いわゆるオッズ比というとこの方法のことである。(訂正: 2019/10/15)

無条件最尤推定

いわゆるオッズ比というと無条件最尤推定のことである。oddsratio.wald関数を利用する。

oddsratio.wald(d1) 

出力すると以下。

$data
          Outcome
Predictor  Disease1 Disease2 Total
  Exposed1        2       30    32
  Exposed2       15       12    27
  Total          17       42    59

$measure
          odds ratio with 95% C.I.
Predictor    estimate      lower     upper
  Exposed1 1.00000000         NA        NA
  Exposed2 0.05333333 0.01055265 0.2695478

$p.value
          two-sided
Predictor    midp.exact fisher.exact   chi.square
  Exposed1           NA           NA           NA
  Exposed2 3.413834e-05  3.46431e-05 3.098556e-05

必要なのは$measureのところなのでそこだけ取り出して出力する。

oddsratio.wald(d1)$measure #後ろに$measureをつける

そうするとオッズ比と95%区間のみが表示される。

                   odds ratio with 95% C.I.
Predictor    estimate      lower     upper
  Exposed1 1.00000000         NA        NA
  Exposed2 0.05333333 0.01055265 0.2695478

オッズ比が0.053、95%信頼区間が[0.011, 0.270]である。 クロス表の関連を総当たりで確かめることをよくするが、そういう時に便利だと思う。

強姦被害者に処女かどうか聞くことは必要か?

警察官が被害者に「処女ですか?」と聞く必要はない - キリンが逆立ちしたピアス」で処女膜損傷が「強姦致傷」と認められた判例のことを知り、判例を調べてみた。

この問題はもともと、山口敬之氏からレイプ被害を訴えた伊藤詩織さんが警察で「処女ですかと聞かれた」という話がこの話の発端であった。この事件から「処女の被害であれば強姦致傷になるからだ」という判例が話題になったようだ。

結論から言うと「処女の被害であれば強姦致傷」は法的には正しい。正確に言えば、処女膜の破損が認められると強姦致傷が認められ刑が重くなる。

もちろん、だからといって処女か否かを聞くのが正しいわけではないし、現在の刑法の判例が正しいということではない。犯罪被害者、警察、法律家の間に認識の差がかなり存在して、警察や法律家にとって処女かどうか聞くことは基本的で重要なことなのだろうが、犯罪被害者にとってはセカンドレイプにもなりうることであり、両者の溝は埋まりそうにない。

問題の「処女膜」は裁判でどの程度扱われているのかを調べてみた。判例データベースLEX/DBで「処女膜」をキーワードにして調べてみたところ128件のヒットがあった。強姦とは無関係の裁判が1件であり、現時点では127件のヒットがある。この数字が多いか少ないかは文脈に依存するが、しばしば裁判において処女膜への言及が確認できるといったところだろうか。

処女膜破損により強姦致傷になった判例

まずは、近年、処女膜破損により強姦致傷になった判例から。処女膜の破損を裁判で扱うのは、古い判例昭和34年10月28日最高裁判所第二小法廷にみられるものという話があったため、状況は今でも変わっていないことを示すためだ。

この事例は処女膜の破損によって強姦致傷になった事例である(津地方裁判所平成27年4月21日, LEX/DB文献番号:25506308)。

同人の両手首をビ ニールテープで椅子の両手すりに縛り付けるなどの暴行を加え,上記一連の暴行・脅迫により,同人の反抗を抑圧し,同人と性交し,その際,同人に全治約1週間を要する処女膜裂傷の傷害を負わせ

罰条に強姦致傷とする刑法181条2項(177条前段)が加わっている。強姦に至る過程で暴力が振るわれていると認定されているので、これらの行為で強姦致傷も成立する可能性が高いが、処女膜裂傷の傷害があるのであれば、強姦致傷は確実に認定されることになる。

成人の事件

処女膜の破裂に関する判例は未成年のものがほとんどだ。しかし、未成年のケースではなく被害者が27歳の事件でも処女膜の破損が証拠として採用され強姦致傷になった事例がある(岡山地方裁判所平成24年9月28日, LEX/DB文献番号: 25483118)。 この判例をみると、処女かどうかの確認は未成年に限定されるわけではなさそうである。伊藤詩織さんも28歳だそうなので、処女膜破損について警察が調べようと考えても不思議はない。

明治時代の判例

さて、処女膜の破損によって強姦が強姦致傷になるという考え方はいつごろから生まれたのかを調べてみた。LEX/DBで最も古い判例である明治44年3月9日大審院の判決(LEX/DB文献番号: 27918395)が以下のものである。

人ノ処女膜ヲ裂傷スルハ即チ人ノ身体ヲ傷害シタルモノニ外ナラス故ニ13歳未満ノ幼女ヲ姦淫スルニ因テ其処女膜ヲ裂傷シタル所為ハ刑法第181条ニ該当スルモノトス

ここで引用されている刑法181条が強制わいせつ等致死傷の条文である。処女膜は身体を傷害したので強姦致傷であるとしている。処女膜破損によって強姦が強姦致傷になるという理論構成はこの時代から大きな変化はないように思える。

処女膜破損は強姦の証拠になるか

少し話題が変わるが、判例の中で「処女膜がやぶれること」が強姦の有力な証拠として扱われていることが気になった。特に、処女膜が破れていないから強姦はなかったという議論が存在していることだ。

いうまでもなく、処女膜は個人差がある器官であり、性交があったとしても損傷があるとは限らない。にもかかわらず、処女膜の有無が証拠として採用されているのである。もちろん、法律家は不確かであっても処女膜に頼らざるを得ない事情はあるのだろう。他に論証できる証拠があれば証拠として不確かな処女膜について取り上げなくてもよいのだが、強姦事件では証拠が十分に揃うケースばかりではない。そのために処女膜に頼らざるを得ないという事情はあるのだろう。

しかし、強姦の認定を左右する証拠として採用されているのは驚きである。実際の判例を見ていこう。

処女膜が破れていなければ強姦はない

被告人は養女が13歳未満であるにもかかわらず暴行・姦淫をしたとされた事件の再審請求審。この事件は有名な事件である。強制わいせつ、強姦で起訴され、有罪判決(懲役12年)の確定判決を言い渡された請求人が再審請求を行った(大阪地方裁判所平成27年2月27日, LEX/DB文献番号: 15505846)。再審が認められている。根拠となったのは以下の事実。

  • 犯罪事実を目撃したとする供述は全て虚偽であるとする目撃者の新供述
  • 強姦当時の病院診療録によると「処女膜は破れていない」と診断されたため、強姦被害はなかった

判決文から直接引用する。■は判例収録の際に伏字になっているところである。

本件再審請求審において検察官が提出した■医院の■の診療録の写し■によれば,同診療録には,■が,平成20年8月29日,■医院を受診し,「処女膜は 破れていない」と診断された旨の記載があることが認められる。再審請求後に検察官がその写しを入手したという同診療録が,なぜ■,同診療録の上記記載内容 自体には,信用性に疑いをさしはさむべき事情は存在しない。これは,請求人から強姦被害を受けていないとする■の新供述を強く裏付けるものといえる。

処女膜が破れていないことだけで強姦を否定したわけではないが、2つの証拠の1つが処女膜の非破損である。

処女膜が破れていないので強姦はない

同事件の再審が認められ無罪が確定した裁判(大阪地方裁判所平成27年10月16日, LEX/DB文献番号: 25541276)。再審請求同様、女膜の状態が証拠として採用されている。この事件では被害を受けたというBが虚偽の供述をしたと後日認めている。

平成20年8月29日時点において,Bの処女膜は破れておらず,この事実自体,被告人によるBへの強姦がなかったことを如実に示すもの

証拠は処女膜だけではなく、被害の供述が翻されていることも考慮すべきだが、「処女膜が破れていないから強姦はない」と明確に述べられている。

刑法の議論では処女膜の非破損は「強姦がなかったことを如実に示すもの」と位置付けられることもあるようだ。

この事件は、最高裁で確定した有罪判決を覆すためにかなりの努力がされたはずで、再審で被告が無罪になり、結果的によい判決であろうが、その証拠に疑念の余地が残る。