井出草平の研究ノート

ひきこもりと暴力・犯罪

川崎の事件、元農水省事務次官による長男の刺殺事件を受けて、ひきこもりと暴力の関係性があるのではないかと考える人が多いようで、メディアの取材等も来ているので、少しまとめてみようと思う。

ひきこもりというものを有名にした一つは新潟少女監禁事件(wikipedia)である。事件が発覚した時に犯人である佐藤宣行の年齢は39歳であり、長期間ひきこもり状態にあったようである。ひきこもりと暴力・犯罪の問題はこの問題が社会問題化した当初から関心が持たれていた。

調査結果から見えること

ひきこもりの調査で暴力にいて質問したものがいくつかあるため、まずはそのデータを整理してみたい。

まず内閣府の若年(~39歳)ひきこもり調査(2010)では下記のような結果になっている*1。ランダムサンプリングであるため、日本全国の平均値が知ることができる調査である。

質問番号 質問文 ひきこもり 非ひきこもり
Q28-13 家族を殴ったり蹴ったり
してしまうことがある
5.1% 2.2%
Q28-14 壁や窓を蹴ったりたたいたり
してしまうことがある
10.2% 6.2%
Q28-15 食器などを投げて壊すことがある 8.5% 0.9%
Q28-16 大声を上げて怒鳴り
散らすことがある
8.5% 10.2%

これらの項目すべてが家庭内暴力にあるが、最も気になるのは対人暴力であろう。結果は5.1%である。この調査の一般人口(ひきこもり以外)の一般人口の対人暴力がどのくらいかという正確な値はわからない(対象者がウソをつくので正確な値は把握できない)が、だいたい倍近い結果となっている。

次に40~64歳を調査した内閣府のひきこもり(2019)調査*2見てみよう。

質問番号 質問文 ひきこもり 非ひきこもり
Q36-13 家族を殴ったり蹴ったり
してしまうことがある
4.3% 1.0%
Q36-14 壁や窓を蹴ったりたたいたり
してしまうことがある
8.5% 3.1%
Q36-15 食器などを投げて壊すことがある 4.3% 0.8%
Q36-16 大声を上げて怒鳴り
散らすことがある
19.1% 7.3%

似たような結果だが、ひきこもり群で大声を上げて怒鳴り散らすことがあるの割合が高くなっている。 対人暴力は4.3%と若年調査(~39歳)と大差がない値が出ている。

家族外への暴力の噴出

家族外の暴力を聞いている調査は知っている中では大分県の調査*3だけである。

これまであった問題行動では、家族用アンケートで「社会参加ができないこと以外に深刻な問題がない」が23人(41%)、「家族以外の暴力がある」0人であった反面、「家族への暴力」7人(13%)、「家庭内で物を壊す」12人(21%)と家族内の問題も少なくなかった。家族の調整や家庭内暴力に対する対応等の支援も必要である。

割合
家庭内暴力(対人) 12.5%
家庭内暴力(対物) 21.4%
家庭外への暴力 0%

家族以外の暴力は確認できなかった。

この調査はランダムサンプリングした一般人口を基にしたものではなく、相談機関を対象したものである*4。対象機関以下のものである。

内閣府の調査に比べて家庭内暴力の値が高い。おそらく相談機関で票を集めたためであろう。というのは、比較的深刻なケース(家庭内暴力があるなども含め)が相談機関に集まりやすいからである。

それでも、家庭外へ暴力が噴出することは確認できなかったようである。

少なくとも一般の犯罪率よりは低いというくらいは断言できそうである。

ひきこりはありふれた現象である

以前シノドスで書いたが、ひきこもりを経験したか、現在ひきこもり状態にある人は10人に1人いる。

現在、ひきこもり状態にある若者は1.6%であり、経験がある若者8.4%を合わせると9.7%なる(注2)。およそ10人に1人の若者が、過去にひきこもり経験があるか、現在ひきこもりであるということになる。現在ひきこもり状態にある若者は100人に1~2人程度であるが、経験者も含めると10人に1人という割合になる。少なくとも日本において、ひきこもりは決して稀な現象ではないのである。

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自宅にいることが多いため、あまり目立たないが、ひきこもりは日本にあふれるほど多くいるのだ。ひきこもり経験も自ら進んで話す話題でもないため、耳にすることも少ないかもしれないが、特別な現象ではない。日本人の10人に1人に起きていることであれば、ひきこもりを特殊な集団として取り上げる意味はほとんどない。

自閉スペクトラム症と犯罪

全例把握できているわけではないが、メディアで報道される目立つ事件で、ひきこもり状態にあるものの犯罪は、知る限りすべて自閉スペクトラム症の疑いがある。最近起こった事件については別ブログのエントリを参照のこと。

ひきこりと犯罪についてのまとめ

  1. ひきこもり状態にある者が犯罪を犯すことはあるが、珍しい。調査でも確認できていない。
  2. ひきこもりはありふれた現象であり、異質で特別な集団と扱うのは誤り。
  3. ひきこもりによる犯罪は、ひきこもりの中の自閉スペクトラム症の疑いがあるグループに見られる。
  4. ひきこもりは一様なグループではなく、その中に犯罪との親和性が高いサブグループがあり、そのサブグループに対して対応をすべきである。
  5. そのサブグループとして現在判明しているのは自閉スペクトラム症の疑いがあるグループである。

*1:https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/pdf_gaiyo_index.html

*2:https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html

*3:大分県精神保健福祉センター、2004、『ひきこもりの実態調査報告書』

*4:調査の対象になったのは、保健所14カ所・市町村57カ所・福祉事務所(県・市)17カ所・児童相談所2カ所医療機関(精神科・心療内科)56カ所・教育事務所6カ所・高等学校57カ所・警察(フレンドリーサポートセンター)・フリースクール2カ所・精神保健福祉センター・教育センター各1カ所(調査対象機関209施設)

フロイトはヒッピーである

フロイト先生のウソ (文春文庫)

フロイト先生のウソ (文春文庫)

フロイトは話のフックであって、この本にはフロイトそのものは少ししか登場しない。原題は"Lexikon der Psycho-Irrtümer"で『心理学の間違い事典』といったような意味である。とはいえ、原著にも日本語版と同じフロイトの写真が使われているので、『フロイト先生のウソ』という日本語タイトルもそれほど違和感はない。

内容は、フロイトから後の学説・臨床技法を科学的根拠を持って批評していくという内容である。
一般的信じられている心理学関係の事項が章ごとに取り上げられている。

心理療法

心理療法について一言で要旨を述べるとするなら、心理療法の効果は平均的にはない、といったことだ。

結論を先に述べれば、プラセポ効果を上回る効果のある心理療法はただの一つも存在しない。(p.16)

欧米も同じだが、心理療法への過度な期待が存在する。

一応、この文章を正確に言えば、心理療法が無駄なのではなく、効果があれば、逆効果にもなるので、平均すると効果はゼロかむしろマイナスになる、ということだ。

心理療法への過度な期待があるように思える。心理療法は適切な時に、適切な人が、適切なアプローチで行えば有効であるもので、誰にでも有効ということではない。

しかし、こうした過大な期待は科学的認識からかけ離れている。数十年間に及ぶ寸実証的データに基づく心理療法研究」の結果明らかになったのは、「心理療法精神障害に対して恐ろしいほど(おそらくは完全に)無力であるだけでなく、最悪の場合には治療するどころか精神障害を引き起こす場合さえある」という事実だった。(p.22 カッコ内はの社会精神医学者アスムス・フィンツェンの言葉)

薬を忌避して心理療法を課題評価することにも触れられている。

これは、マンハイム精神保健中央研究所のマティアス・C・アンガーマイヤー教授を中心とする研究グループがおこなったアンケート調査の結果からも明らかである。アンケートの内容は、「精神分裂病うつ病、不安神経症のそれぞれについて、最も適切と恩われる治療法を選んでください」というものだった。 結果はきわめて明白だった。半数をはるかに上回る数の回答者が心理療法を選んだのである。重い精神疾患である精神分裂病についても結果は同じだった。精神分裂病の治療法として向精神薬を選んだ人は、20パーセントに過ぎなかった。対照的に、薬物療法を断固拒否した人は40パーセントに及んだ。これに対して、心理療法を拒絶した人は10パーセントだった。精神疾患の種類とは無関係に、一般的にこの傾向が見られた。
心理療法を選んだほとんどの人が、「心理療法は資格を持った専門家によっておこなわれるので信頼できる」、「治療者との話し合いの機会が持てるのがよい」、という理由を挙げた。「精神障害の『根』に迫ることによって根本的な治療効果を上げることができるのは心理療法(だけ)だしとする意見も多かった。回答者の3分の2が、「分裂病クラスの精神疾患でも心理療法によって改善する可能性が充分ある」という意見だった。心理療法のプロでも、ここまで言い切る人はまずいない。
「このような誤ったイメージーー患者(未来の患者も含めて)も同じイメージを抱いているに違いないーーが、欲求不満と失望を招いている」とアンガーマイヤー教授らは結論づけている。精神科の患者は投薬治療に抵抗を覚える。医者は薬を出すだけのおざなりな治療しかしてくれない。「唯一の救い」である心理療法をどうしてやってくれないんだ、と不満に感じる。しかし一方、重い精神疾患の患者が心理療法に希望を託しても、こんなはずではなかったと失望するはずである。向精神薬の発明によって初めて多くの精神病患者が非人間的な閉鎖病棟から解放されたという事実は、人々の意識にまだ浸透していないようである。(pp.25-6)

多くの精神疾患に対して有効なのは薬物療法である。ECT(電気痙攣療法)もいくつかの疾患で有効性が確かめられている。これはエビデンスの蓄積によって議論余地がないほど明らかなことである。

しかし、世の中には心理療法への過度な期待がある。その原因は心身二元論にある。哲学を勉強していると心身二元論の議論はある程度常識的なものである。心身二元論的なデカルトに対する反駁などに登場するものだ。

この要するに薬は身体に対応しており、心理療法は心に対応しているという誤解である。そもそも身体と精神は明確に分かれているものではないが、哲学の思考の訓練が少し必要なため、脳に関して述べるのが説明の近道ではないかと個人的には考えている。

うつ病の各症状とMRIの画像研究で判明したのが以下の図である。(Stal 2008=2010: 517)

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精神の不調は脳の障害であって、脳の機能を正常化する薬物によって正常化できるという説明の方法である。十分な説明かと言われると、ざっくりしすぎだが、直観的にはわかりやすいように思う。

自尊心

「自尊心」も一般に信じられている迷信の一つである。

自分自身に対して肯定的な感情を抱かせると、子どもの学習能力は著しく向上する。「開放的な」教師や教育者の大半はおそらくそう信じていることだろう。特にアメリカでは、70年代以来これが国の教育方針とされてきた。従来の競争や成績主義や基礎知識に代わって、「自己受容」、「自尊意識」、「感情の豊かさ」といったヒッピー的価値観がカリキュラムに盛り込まれるようになったのである。(p.250)

ヒッピー的価値観という表現は新鮮である。日本ではあまりヒッピーという概念を使わないため、一瞬、ピンとこなかったが、自尊感情まわりの話は確かに言われてみればヒッピー文化である。日本ではヒッピーと呼ばれる人はいないため、標準的な教育への異議申し立てをする人々が該当する。ヒッピーと同じく左翼的な考え結びついているように思う。

世界的に有名な心理学者であるスタンフォード大学のアルパート・バンデュラも、最近の著書のなかで、「自尊一意識はその人の目標とも成果とも無関係である」と述べている。親の働きかけによって子どもの学力を向上させることは、場合によってはもちろん可能である。しかし、親がすべきことは子どもの自尊意識を高めてやることではない。子どもの学力を向上させる唯一の方法はむしろ、勉強や成績や学校の大事さをきちんと子どもに分からせることである。(p.252)

自己愛が高いことは必ずしも良いことではない。自己愛が極度にあることは、精神医学では自己愛性パーソナリティー障害として扱う。誇大な感覚を持っていることが主な症候だが、他人を自己の賞賛のために利用したり、共感が欠如していたり、周囲の人を大変困らせる存在である。

自己愛は自身の能力を課題に評価することと関連がある。自己愛の度合いを増やしたとしても、無用な自信をつけるだけである。成績であれば、自身の能力に比較して、テストの点が悪かったとしても、テストが悪い、自分の能力はテストなどでは測れない、といった批判をすることで、自己肯定をして終わる。

自尊意識を高めれば何もかもうまくいくという説は、その根拠を一つ一つ覆されていった。ドーズは、委員会への報告書のなかで次のように述べている。「自尊意識を高めることが児童虐待を防止する効果的手段になることを示す手がかりは何もない」少女の望まない妊娠も、自尊意識の低さとは無関係である。この問題は従来、自分に自信の持てないティーンエージャーが劣等感を隠すために性的に暴走するためと考えられてきた。しかし実際には、十代の性行動と自尊意識とのあいだに関連があるとすれば、それは、自信度の非常に高い少年が早くから頻繁に性実渉をおこなうという点である。(p.255)

10代で妊娠・結婚、そして離婚をするパターンは日本にもある現象である。 彼らの自尊心が低いかというと、必ずしもそうではない。

自己愛が高い者は学校の勉強から脱落しがちである。成績が客観的に提示されるテストに向かい続けている場合には、言い訳をしても限界がある。そのため、勉強とは異なる路線で戦おうとする。ニーチェ的に言えば権力への意思、およびその概念に付随する議論である。ウィリスの『ハマータウンの野郎ども』のような価値の転換が行われるのだ。

自尊心が満たされない文化空間(学校・成績)では他者に勝てそうにないため、別の次元の文化空間で勝負をする、ということだ。高い自尊心は保ったままに、である。

たいていの心理学の教科書にも、「高い自尊意識の持ち主は成功する」とか、「ポジティブな自己評価の欠如こそ、人格障害を見分けるのに最適のサインである」とか書かれている。
しかし、残念だがこうしたパラ色の見方は間違いだ、とフォレスト大学(アメリカ)の心理学者マーク・R・リアリーは言う。「過去30年間にわたる、1万3585例の調査・実験例からそれは明らかだ」と彼は1999年に発表された著書のなかで述べている。アメリカの著名な心理学者ロイ・F・バウマイスターも、「自尊意識が何より大事だという熱狂的な主張は空想やたわごとのレベルだ、と失望を込めて言わざるを得ない。自尊意識の影響は小さくかっ限定的で、しかもそもそもそれはポジティブなものではない」という否定的な意見をインターネット上で公表している。カーネギー・メロン大学の心理学者ロビン・M・ドーズも同意見である。「高い自尊意識が望ましい行動につながることを科学的に示した例はこれまで一つもない。同様に、自分自身に対するネガティブな感情が望ましくない行動につながるなどということも、まったく証明されてはいない」(p.244)

このあたりは自己愛を良いものとして扱う心理学と偏った自己愛は精神疾患であるとする精神医学との違いであろう。言うまでもなく、健康的であるのは、自己愛や自尊感情が適度にある状態である。

瞑想

最近、瞑想がブームである。マインドフルネスという言葉で表現されることもある。グーグルが研修で取り入れることで有名にもなった。しかし、瞑想には期待するほどの効果はないことは無いことは既に明らかになっていることである。

ホームズが取り上げている28例の実験で、瞑想者の心拍数がうたた寝している素人のそれを下回ったものは一例もない。これに対して、素人の心拍数が瞑想者のそれをかなり下回っていたものは4例ある。皮膚電気反応でリラックス度を測定した実験で、「単に目を閉じて休息しているよりも、膜想したほうが心の平静が得られる」という結果が出た例は一つもなかった。血圧、筋肉の緊張、皮膚温、血流、酸素消費量、ホルモン分泌量(レニン、アルドステロン、ノルアドレナリンなど〉を調べても、瞑想の旗色は悪かった。どの数値を取っても、瞑想と単純な休息のリラックス度は同じか、あるいは単純な休息のほうが勝っていたのである。(p.297)

グーグルに代表される西海岸の文化は「ヒッピー文化」である。ヒッピー文化を支持する人はフロイトが好きなのかもしれないと検索すると、わりとたくさん引っかかった。ヒッピーの人は下記のフロイトの文章が好きなのだそうだ。印象的だったので、引用しておこう。

“Unexpressed emotion will never die. They are buried alive and will come forth later in uglier ways.”
「抑圧された感情は決してなくならないだろう。それらは埋没しても生き続け、後々、より醜悪な形となって現れるだろう」

仏教の文脈で読み替えると、醜悪な形として現れるものはカルマである。
そこから「瞑想でカルマを解放」といった発想が出てくるのは、非常に自然である。
フロイトの無意識は仏教の阿頼耶識(あらやしき)の概念との共通点が多く、フロイトとヒッピーの好きな仏教や瞑想はつながっていておかしくはない。

日本では、Gigazineが瞑想・マインドフルネスへの批判を比較的取り扱っている。

マインドフルネス・瞑想について調べると、推進したい人たちの本ばかりでてくるため、情報に偏りが出てくる。日本語でマインドフルネスのエビデンスの無さを読めるのは良いことだろう。

誤解のないように言っておくと、瞑想には効果がないと言ってわけではなく、一定の効果は存在する。効果が全くなければ、忘れ去られていたものであろうし、現在まで続くことはなかっただろう。しかし、習得コストが高く、その割にはあまり有効性が無いということである。

左脳と右脳

ヒッピー運動や学生運動の影響を受けて、今度は次第に右脳が優位に立つようになった。「わが国の教育は、左脳の得意分野である無味乾燥で理性的な能力ばかりを評価している」といった批判の声があちこちで上がった。右脳の埋もれた才能を掘り起こして伸ばすことが大事だとされ、右脳は抑圧された創造的・直感的な人間性が宿る場所として持ち上げられた。「右脳は、残忍な西欧文明に対立するものとして、搾取された創造的な東洋人のシンボルとなった」とオーストラリアの心理学者マイケル・C・カーバリスは説明している。ソフトで感情細やかな女性的な面は右脳に宿るとされ、一方、嫌われ者のハードな男性的特徴は左脳に割り当てられた。(pp.354-5)

こちらも二元論的な発想である。理性と感情を二分して、男性と女性にそれぞれ振り分ける考え方や、西洋人とアジア人(オリエンタリズム)に振り分ける考え方、そして、右脳と左脳に振り分ける考え方である。詰め込み教育と反詰め込み教育というバリエーションもある。

この本はフロイトの名前が名前がついているが、フロイトよりもヒッピー文化が一貫して登場する。全体を通して読むとヒッピー文化の源流の一つにフロイトの学説があるということになる。ならばもう少し踏み込めば、フロイトはヒッピーの元祖だったという解釈はなりたつのではないか、と思った。

精神科の選び方3 ベンゾジアゼピン

以前のエントリの続きである。
精神科の選び方1 ガイドライン
精神科の選び方2 血液検査

今回はベンゾジアゼピン系の薬剤についてである。

最近はベンゾジアゼピンの処方がやり玉にあがることが多い。ベンゾジアゼピンとされる薬剤は主に下記の薬剤である。睡眠薬を除き処方頻度の高いものをリストアップした。

エチゾラムベンゾジアゼピン系ではないが同様の作用を持つため、本稿ではベンゾジアゼピン系の薬剤と同様に扱う。

精神科の選び方としてベンゾジアゼピンを使わない医師を項目に挙げているケースは多々見られる。ネットを検索してもらえば、その種の情報はたくさん出てくるはずである。その理由はベンゾジアゼピンには乱用と依存症があり、長期服薬による副作用が確認されているためである。

ベンゾジアゼピン回避するという方向性は間違いではないが、ベンゾジアゼピンを完全排除した治療は現実的ではない。ベンゾジアゼピンが悪だと決めけるのではなく、どのような状況でベンゾジアゼピンは使うべきなのか、使うべきではないかを見極める必要がある。

有能な医師がベンゾジアゼピンを使わないわけではない。従って、ベンゾジアゼピンを出す医師がダメと決め込むのは得策ではない。ベンゾジアゼピンを目の敵のように扱う論調はむしろ害悪である。

ほんどの薬には副作用があり、望まない効果がある。しかし、他の薬剤で代替がきかず、デメリットに比較してメリットが大きいならば、使う根拠になりうる。ベンゾジアゼピン批判をするだけではなく、ベンゾジアゼピンの正しい使い方を押さえることが必要なのだ。

ガイドラインでの扱い

ガイドラインにおけるベンゾジアゼピンの扱いについてまず確認しよう。

1. うつ病

日本 うつ病学会ガイドライン  https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/160731.pdf

中等症・重症うつ病
必要に応じて選択される推奨治療
ベンゾジアゼピンの一時的な併用

推奨されない治療
ベンゾジアゼピンによる単剤治療

抗うつ薬以外の薬剤として、軽症に限ったことではないが、ベンゾジアゼピン抗不安薬抗うつ薬への併用が治療初期には抗うつ薬単独よりも治療効果が高いことが示されており(Furukawa et al., 2002)、選択肢となりうる。しかし、脱抑制、興奮といった奇異反応の出現に十分注意すべきである他、乱用や依存形成に注意し、安易な長期処方は避けることが望ましい。特にアルコールをはじめとした物質依存の合併・既往のある場合には推奨されない。(p.32)

単剤はNG、併用はOKだが長期使用はNGである。 また依存傾向・既往のある人には処方しないとされている。

2. 不安障害

不安障害の日本語ガイドラインは整備が不十分なので英語で出版されているガイドラインから引用する。

NICE(英国国立医療技術評価機構) ガイドライン
社交不安障害
https://www.nice.org.uk/guidance/cg159/

全般性不安障害パニック障害
https://www.nice.org.uk/guidance/cg113

World Federation of Biological Psychiatry (WFSBP)ガイドライン
https://www.wfsbp.org/fileadmin/user_upload/Treatment_Guidelines/Bandelow_et_al_01.pdf

NICE(社交不安障害)では「ベンゾジアゼピンも使用されているが、長期使用は推奨されない。」*1とされている。

WFSBPではベンゾジアゼピンは下記のように扱われている。

ベンゾジアゼピン 経口または非経口投与の後、抗不安作用は数分以内に始まる。一般的に、安全面での実績がある。中枢神経系抑制のため、ベンゾジアゼピンは、鎮静、めまい、反応時間の延長と関連するかもしれない。
したがって、認知機能および運転技術に影響がでる。2~3週間または数カ月のベンゾジアゼピンの継続的治療後に、低用量の依存性がかなりの数の患者で生じることがある。ベンゾジアゼピン、アルコールまたはその他の精神活性物質乱用の既往がある患者は、通常、使用をしないか、専門的な治療環境で綿密に監視すべきである。
不安の増加を抑制するために、治療の最初の数週間はベンゾジアゼピンセロトニン作動薬と併用してもよい。通常は、ベンゾジアゼピンは定期的な投与計画とともに使用すべきである。 短期的苦痛(例えば、飛行機旅行や歯科恐怖症)の治療においてのみ、必要に応じて使用は正当化されるかもしれない。ベンゾジアゼピン類は、急性ストレス障害うつ病の併存や強迫性障害には有効ではないことに注意すべきである。*2

WFSBPも短期使用はOK、長期使用はNG。また、治療の最初SSRIと併用するのはOKということも書かれてある。NICE(英国国立医療技術評価機構)も内容は同じである。また、先ほど見たうつ病ガイドラインと内容は同じである。ベンゾジアゼピンの使用方法はうつ病でも不安障害でも基本的には同じなのだ。

ただし、不安障害の中でもパニック障害全般性不安障害に関しては、例外が存在する。WFSBPから引用する。パニック障害では「重度の発作では短時間作用型ベンゾジアゼピンがが必要となることがある」*3と書かれており、パニック発作時にはベンゾジアゼピンは必要とされている。

従って、発作がないのに毎日ベンゾジアゼピンを飲むのはNGである。たまに飲むからベンゾジアゼピンが効く。毎日飲むと耐性がつく。ベンゾジアゼピンが必要な精神疾患であるからこそ、服用方法はより厳格さが求められる。

全般性不安障害は「全般性不安障害の第一選択治療は、SSRISNRIおよびプレガバリンである。その他の治療法には、ブスピロンやヒドロキシジンがある。ベンゾジアゼピンは、他の薬物または認知行動療法が無効であった場合にのみ長期治療に使用すべきである」*4とある。

基本的にはガイドラインはの指示通り使うべきである。ただ臨床では必ず例外が存在する。もし、担当の医師が長期的にベンゾジアゼピンを処方している場合には、なぜ必要なのかを医師に聞いた方が良い。長期的な使用は例外であるため、なぜ例外的に処方されているか、という説明があれば、その医師はハズレではない。

睡眠薬

不眠症の治療においてベンゾジアゼピンを避けることはかなり難しい。睡眠薬の大半はベンゾジアゼピン系である。比較的新しいゾルピデム(マイスリー)、エスゾピクロン(ルネスタ)などZ系と呼ばれる睡眠薬も、ベンゾジアゼピン受容体に作用する薬である。

ベンゾジアゼピン受容体は、睡眠と関連があるω1受容体と不安と関連があるω2に分かれ、Z系はω1へ選択的に作動する。当初ベンゾジアゼピンのような乱用・依存はないと期待されてきたものの、実際にはベンゾジアゼピンと似たよう副作用が頻度は少ないものの発生している(Hajak ea al. 2003)。

ベンゾジアゼピン受容体と関連がないのは、メラトニン受容体に作用するラメルテオン(ロゼレム)、オレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(ベルソムラ)である。しかしの薬がベンゾジアゼピンやZ系と同様の効果を持つわけではない。ラメルテオンは睡眠リズムを整えるもので目的が異なる。スボレキサントの入眠作用は明らかに弱い。そのため、ベンゾジアゼピンもしくはZ系の処方を止めることは難しいのである。

とはいえ、すべての睡眠薬の処方が正しいとも言いづらい。
睡眠薬以外の方法で不眠に取り組むことが可能であるからだ。 もちろん睡眠薬を入れないと十分な睡眠がとれないケースは多いが、下記の方法を行えば、睡眠薬なしに寝ることも可能なケースもある。

一般向けの行動療法としては次の本がある。

睡眠日記をつけるのが大変という人にはiPhoneのアプリである「Sleep Meister」がよい。

Sleep Meister - 睡眠サイクルアラームLite

Sleep Meister - 睡眠サイクルアラームLite

  • Naoya Araki
  • ヘルスケア/フィットネス
  • 無料

苦労して睡眠日記をつけることに治療効果があるため、睡眠日記をつけることとアプリでお手軽に計測するのと同じではないが、睡眠の状態が客観的に把握できるのであれば、アプリでも構わないようにも思う。

入眠に関しては漸進的筋弛緩法か有効性が確かめられている。


relaxation training

エビデンスに関しては以下の本にまとめられている。

睡眠障害に対する認知行動療法:行動睡眠医学的アプローチへの招待

睡眠障害に対する認知行動療法:行動睡眠医学的アプローチへの招待

"長期的に"睡眠薬を服用せざるを得ないのであれば、このような非薬理学的アプローチを試すのが正しい順序である。

患者の不眠の訴えに反射的に睡眠薬を出す医師が多いように思う。不眠の訴えに対して薬以外の対処法は無いか医師に聞くと行動療法や筋弛緩法などについて教えてくれたり、本の紹介などをする医師ははハズレではないと思う。しかし、睡眠薬しか出せない医師はハズレだと言ってよい。

マイナー漬け

ベンゾジアゼピンを常用することは「マイナー漬け」と呼ばれている。ベンゾジアゼピンは昔はマイナー・トランキライザーと呼ばれていたため、略してマイナーと呼ぶ慣習がある。

語感からもわかるように「マイナー漬け」は良い意味ではない。薬物療法の失敗例、医師の技量の低さ、患者の薬物依存傾向という意味が含まれている。ただ単に、医師を批判しているだけではないところも重要である。

ベンゾジアゼピンには依存性がある。自身の精神疾患を治すよりも、クリニックにベンゾジアゼピンを貰いにやってくる患者が一定数いるのは事実である。そのような患者にベンゾジアゼピンを止めるというと、その患者はベンゾジアゼピンがもらえる別のクリニックを探してベンゾジアゼピンを飲み続ける。

正確な統計はないが「マイナー漬け」になっている患者も多い。批判されるべきなのは技量の低い医師だけではなく、ベンゾジアゼピンを求める患者も同様である。

日本では問題になっているのはデパス(エチゾラム)である(参照)。アメリカではザナックス(アルプラゾラム)である。Wikipediaの日本語の項目にも少しだけ記述がある(参照)。日本でのアルプラゾラムの先発品はソラナックス、コンスタンという名前である。

ガイドラインにも書かれているように、マイナー漬けになりやすいのは「アルコールをはじめとした物質依存の合併・既往のある場合」である。しかし、物質依存の既往がなくてもベンゾジアゼピンを飲むうちに依存が形成されることもある。患者によってマイナー漬けのリスクは異なるが、リスクが低い場合でもベンゾジアゼピンの長期服薬には十分気を付けるべきである。

所感

以下は個人的に見聞きした範囲での話をまとめているだけなので、あくまでも主観的な内容である。

精神科に罹った知り合いなどの処方を聞いていると、ベンゾジアゼピンがほぼ全員にもれなく処方されている印象がある。うつ病だと、抗うつ剤ベンゾジアゼピン睡眠薬という3点セットが定番である。この3点セットがあまり効かない場合は、エビリファイなどの抗精神病薬を付加する医師もいる。うつ病の場合、ガイドラインにも書かれてあるが、効果が不十分であれば、どんどん薬を足していくのではなく、抗うつ剤の変更をするのが標準的な対応だが、抗うつ剤を変えない医師が多い。

医師が抗うつ剤を変えない理由は、患者の病状の変化に無関心か、薬を変えて悪化した時のことが不安という動機くらいしか現在のところ読み取れない。 比率としては前者が個人的に見聞きした範囲では多い。つまり治す気がないとしか思えない医師である。これは患者から聞いた話ではなく、付き添いで同行した際に感じることである。

先の3点セットだが、この組み合わせ自体はそれほどおかしなものではない。うつ病には不眠症が併存し、抗うつ薬によっても不眠は起こる。また、うつ病と不安障害も併存することが多いため、この3種類の薬を処方する機会は多い。しかし、問題なのはベンゾジアゼピンが28日分なら28日分処方され、それがクリニックに通い始めてから途切れず続いている点である。ベンゾジアゼピンは、例外を除いて、毎日飲む薬ではない。

また、気になるのは、同じクリニックに通っている人に処方されている薬を聞いてみると、全く同じであり、かつ、効果が乏しくても薬を変えない医師がいることである。一時期はパキシルレキソタン睡眠薬という組み合わせばかり処方している医師が多くいたように思う。レキソタンのところがデパスソラナックス/コンスタンのパターンもある。最近はパキシルが選択される率が落ちている印象であるが、パキシルを判を押したように処方する医師が残っている。誤解がないように言っておくと、パキシルという薬自体は悪い薬ではなく、すべての患者にパキシルを出していたり、効果が乏しいのに続けるという使い方が間違っているだけである。

*1:Benzodiazepines have also been used, but their long- term use is actively discouraged.

*2:Benzodiazepines. The anxiolytic effect starts within minutes after oral or parenteral application. In general, they have a good record of safety. Due to CNS depression, benzodiazepine treatment may be associated with sedation, dizziness, and prolonged reaction time. Accordingly, cognitive functions and driving skills are affected. After a couple of weeks or months of continuous treatment with benzodiazepines, low-dose dependency may occur in a substantial number of patients. Patients with a history of benzodiazepine, alcohol or other psychoactive substance abuse should generally be excluded from treatment, or be closely monitored in specialized care settings. Benzodiazepines may also be used in combination with serotonergic medications during the first weeks of treatment to suppress increased anxiety. In general, benzodiazepines should be used with a regular dosing regimen. Only in the treatment of short-term distress (e.g., air travel or dental phobia), p.r.n. (when necessary) use may be justified. One should be aware that benzodiazepines were not found to be effective in acute stress disorder and in conditions with depression comorbidity, or OCD.

*3:In severe attacks, short-acting benzodiazepine may be needed

*4:The first-line treatments for GAD are SSRIs, SNRIs and pregabalin. Other treatment options include buspirone and hydroxyzine. Benzodiazepines should only be used for long-term treatment when other drugs or CBT have failed.

精神科の選び方2 血液検査

イントロダクション

前回に引き続き精神科の選び方について。

前回はガイドラインと自分の受けている治療を比較するということだったが、今回は血液検査についてである。

前回は精神疾患以外のほとんどの疾患に応用できる方法だったが、今回はうつ病に限定して話をすることにする。

精神科は「精神の科」なので血液検査とは無関係のように思われるかもしれないが、血液検査は重要である。 初診時、もしくは通院して間もないうちに血液検査を行う必要がある。

クリニックに行った人に話を聞いている限りは、血液検査をしないクリニックは多いように感じる。もちろん調査をしたわけではないので、主観にすぎない。 もし、うつ病のような症状でクリニックに通うことなったが、血液検査をする様子がない場合、そのクリニックはおそらくハズレである。

もちろん例外はある。例えば、うつ病ではなく血液検査が必要ではない精神疾患だった場合、他のクリニックで血液検査をした場合などである。 血液検査がない場合には、「なぜ血液検査がないのか」と医師に聞いてみると良いだろう。納得のいく答えがない場合はそのクリニックは「ダメ」だと判断してよいだろう。

このように断言できる理由は診断基準に、うつ病の診断・治療に血液検査が必要だと書かれてあるからである。

診断基準に従って診断を行おうと思うと、必ず血液検査が必要となる。

うつ病の診断基準の構造

DSM-5に従えば、うつ病(大うつ病性障害)にはA~E基準までの5つの基準を満たす必要がある。うつ病の診断基準を確認してみよう。

A基準
A基準には3つの条件がある。

  1. 9つの症候(症状)のうち6つ該当しすること
  2. 6つの症候のうち、抑うつ気分とアンヘドニア*1が少なくとも1つ含まれていること
  3. 2週間以上継続していること

うつ病の診断基準としてこのA基準だけが一般的に流通していることが多いようだが不十分である。うつ病の診断をする際には、B~E基準も満たすことが必要である。

B基準
社会的機能の低下、および、臨床的苦痛。

社会的機能の低下とは、就労が不可能になっている、通学が不可能になっているなどである。社会的困難や臨床的な苦痛がなければ治療対象とはならない。もちろん、症状の自覚がないとか、生活の困難に自覚がないなどはよくあることなので、患者本人の主観という意味ではない。

C基準以降は鑑別診断である。抑うつ状態やアンヘドニアは他の原因によっても起こる。それがうつ病によって起こったものか、それとも、別の病気・原因で起こったものなのかを見極める必要がある。これが鑑別診断である。

C基準
物質の生理学的作用,他の医学的疾患によるものではない。

D基準
精神病性障害ではない。

E基準
躁病エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。

DとE基準は他の精神疾患に該当しないということである。従って、精神病性障害・躁病・軽躁病の診断も、うつ病の診断には必要とされる。つまり、うつ病のA基準だけではなく、精神病性障害・躁病・軽躁病の基準を満たしていないかも同時に確認する必要があるのだ。

双極性障害(躁病・軽躁病エピソード)を精神科医は最初から把握できるとは限らない。米国国立精神衛生研究所の双極性障害の20年追跡調査では、調査期間中うつ状態である期間が長かったことがわかっている。20年間のうち、双極性障害I型の31.9%(Judd et al.2002)、II型の50.3%(Judd et al. 2003)はうつ状態であった。

Blacker & Tsuang(1992)によればうつ病患者の20%が双極性障害に発展するとされている。最初はうつ病のように見えていても、後から双極性障害だと判明することが少なくないため、完全鑑別は困難である。DSMに書かれていることは、現在時点までで躁病・軽躁病のエピソードがあったかを確認せよ、というところまでである。

血液検査に関係してくるのは、C基準の一部である。DSMの本文に鑑別診断の項目があるため、そこから引用しよう。

  1. 物質・医薬品誘発性抑うつ障害 この疾患は、物質(例:乱用薬物や医薬品、毒物)が病因的に気分の障害と関連があると判断される事実により、うつ病から鑑別される。

  2. 他の医学的疾患による気分障害 抑うつエピソードは、気分障害がその人の病歴や身体所見、血液検査などに基づいて、特定の医学的疾患(例:多発性硬化症脳卒中甲状腺機能低下症など)による直接的な病態生理学的結果ではないと判断される場合に適切な診断となる。

具体的には下記の項目の確認である。

1. 処方薬・乱用薬物・毒物

違法薬物の把握もできるとよいのだが、違法であるため、患者自身が服用を言わないことが多いので、医師が把握しにくい項目である。 少なくとも、把握しなければならないのは、処方薬である。処方薬の中で抑うつ状態を引き起こすのはインターフェロン製剤や内服のステロイドなどである。来院時に飲んでいる薬を確認するクリニックは多いが、他科の薬の副作用まで把握しているかは、精神科医の知識量次第である。

2. 多発性硬化症脳卒中甲状腺機能低下症

多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は血液検査ではわからない。 MSの専門医への紹介をする必要がある。そのためにMSの視力障害、運動障害、感覚障害、歩行障害などの症状を問診で聞き取るか、診察中の観察で気づく必要がある。MSは精神科の範囲ではないが、精神科医はMSの患者をある程度みた経験と、MSの基本的な知識が必要とされる。

脳卒中
脳卒中と書かれてあるのは、脳卒中後の抑うつ状態である。典型的な脳卒中が見逃され精神科に来ることはない。問題となのは、無症候の潜在性脳卒中である。患者本人や家族が気づかないことも多い。

潜在性脳卒中の場合にも、うつ病のような症状がでることがあり、精神科医うつ病の診断の際には脳卒中の疑いを頭の隅に置いていなければならない。

脳卒中によるうつ病は治りにくいという精神科の治療での問題もあるが、問題なのは、脳卒中経験者は再び脳卒中を起こすリスクも高いということである。精神科への通院以後に後遺症の残るような脳卒中を起こすことも考えられるため、できるだけ発見に努めるべきである。

血液検査に限れば、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、総コレステロール中性脂肪、LDL-コレステロール、HDL-コレステロールHbA1c、血糖値の項目を調べることになるが、血液検査は脳卒中の診断の参考資料程度にしかならない。

精神科でできるのは、家族の病歴を聞くくらいである。脳卒中も遺伝する病気であるため、家族歴(父・母・きょうだい等の病歴や生活歴など)の問診の際には、精神疾患以外の疾患も聞き取ることが必要である。

話は少し逸れるが、家族歴を聞かない医師も避けた方が良い。診断の4つの要素は1)症候、2)経過、3)家族歴、4)治療反応性であり(Robins=Guze基準, Robins and Guze 1970)であり、医師は、臨床で診断を行う際にもこの4つの項目を常に確認する必要がある。4つの中でも家族歴が最も問診項目から落ちている場合が多いように思える。

甲状腺機能低下症
中年以上の女性の1割程度が罹患する、比較的罹患率の多い疾患である。精神疾患以外で、うつ病との鑑別が最も必要とされる疾患である。血液検査では、TSH、fT3/fT4のいずれかの項目で確認をすることができる。

甲状腺機能異常は、中年以上、女性が多いとされているが、もちろん若年、男性でも罹患する疾患であり、患者全員の甲状腺機能は血液検査で把握しておく必要がある。

STAR*D

うつ病の投薬治療についてSTAR*Dという大規模研究がある。そのなかで、甲状腺機能に関する薬(T3追加)という項目がある。

f:id:iDES:20190512172500p:plain

3段目の一番右にT3追加と書かれててあるところだ。甲状腺機能異常を解決することで24.7%の寛解があったとされている。

結論

人間ドックなどで行う血液検査(メタボ検査)では、TSH、fT3/fT4の項目は含まれない。人間ドックの血液検査では代用できない。 やはり精神科での血液検査が必要である。うつ病の診察をする際に、血液検査をしない医師はうつ病の診断の基本ができていないと考えて問題ない。

*1:日々の生活に楽しみを感じられない、今までできていたことができないなど。

精神科の選び方1 ガイドライン

イントロダクション

精神科の選び方について相談をされることが度々あるので、まとめてみたい。 精神科選びというのはかなり難しい。治療方法が複雑なので説明が尽くせないということもあるが、一般的に悪手とされているものでも、会心の一手であることも稀ではない。

精神科の選び方はユーザー側にはニーズのある情報のようだ。 「こんな精神科医がよい」という趣旨のものを書籍やネットニュースなどでも読んだことはあるが、納得のいくものを今のところ読んだことはない。

専門性という意味では、精神科医精神科医選びを指南するのが一番だろう。しかし、精神科医精神科医の選び方についてあまり積極的に発言しない。理由はいくつかある。

  1. 医師だと治療上の責任が生じる。つまり一般論しか述べられない。
  2. 主治医への批判につながることは治療的ではない。
  3. 同業への批判は控えたいあまり乗り気にはなれない。

この3つくらいが理由ではないかと思う。3つ並べたが、1番目の理由が最も大きい。

精神科医と患者の関係で考えるべきなのは3点である。

  1. 精神科医の力量
  2. 精神科医と患者の人間的相性(コミュニケーション)
  3. 患者の治療意欲

今回は1の精神科医の力量を中心に書いていきたい。

精神科に限らず、どの仕事・業界でも上手/下手、できる/できない人はいる。 精神科医にも有能な人と無能な人がいるのは事実である。

本稿では代表的なうつ病(大うつ病性障害)を例にとって説明していこうと思う。

その1 治療ガイドラインを読む

主治医の治療の適切性を判断する最も確実な方法は患者自身が治療ガイドラインを読むことである。 日本では、Mindsガイドラインライブラリに治療ガイドラインが集約されている。

Mindsガイドラインライブラリ
https://minds.jcqhc.or.jp/

治療ガイドラインに書いてある方法を理解し、自身の治療がガイドラインに沿って行われているかを確認する。もし、治療法がガイドラインに沿っていないならば、主治医に理由を尋ねる。

そこで怒りを表す医師や治療ガイドラインとの治療法の違いを説明できない医師は力量が低いと見てよい。 治療ガイドラインをよく知らないという医師も避けた方が良いだろう。

治療ガイドラインは多くの国で行われている科学的研究を基に書かれている。いわゆるEBMである。 従って、どっかの誰かが良いと思った方法を適当に書いているのではなく、記述には多くの科学的エビデンスが伴っている。

方法に科学的根拠があるということも大きな利点であるし、加えて1年目の医師でもできるというのが良い点である。 1年目の医師は頼りないと思う人がいるかもしれないが、治療ガイドライン通り行えば悪くはない結果が出るはずである。

それよりも問題なのは、治療ガイドラインのレベルのことすら把握できていない多くのベテラン医師たちである。 いくら経験を積んでいようが、治療ガイドラインに書いていること(すら)理解できていない医師は、ガイドラインを理解している1年目の医師に劣っていると考えた方がよい。

誤解のないように言っておくと、治療ガイドライン通りの治療が、その患者に最も適切なものとは限らないということだ。 治療ガイドラインはいわば平均的な治療法であり、誰にでも有効だとは限らない。 また、理想的な治療法でもあり、現実は理想通りいかないものである。 ガイドラインに則さない治療でも有効な治療は多い。

治療ガイドラインを理解せずに治療をする医師と、治療ガイドラインは知ったうえで、ガイドラインから外れる治療をする医師の違いは、精神科医本人に治療ガイドラインから逸れた治療をする理由を聞いてみるのが一番良い。優秀な医師は合理的な説明を述べてくれるはずである。

このガイドラインを基準に治療法を評価する方法は最も有効だと思うのだが、大きな欠点がある。 それは、治療ガイドラインは比較的難しい文章で書かれているといことだ。

治療ガイドラインが想定している読者は医学的訓練を受けた医師である。したがって、専門用語や聞きなれない薬の名前などが登場する。医学の知識がなければ、読むのは難しいかもしれない。もちろん、患者向けの冊子というのも作られてはいるが、自分の受けている治療が正しいかがわかるほど詳しくはない。この方法を試してみるのであれば、治療ガイドラインの内容を理解できるまで勉強をする必要がある。

うつ病の治療ガイドライン

うつ病はMindsには採録されておらず、日本うつ病学会のホームページでPDF形式で公開されている。

気分障害の治療ガイドライン https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/index.html

もし、うつ病の日本語で公開されている治療ガイドライン以上の知識が必要な場合には、モーズレイの処方ガイドラインが最も包括的である。

モーズレイ処方ガイドライン第12版 上巻

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  • 作者: David Taylor,Carol Paton,Shitij Kapur,内田裕之,鈴木健文,三村將
  • 出版社/メーカー: ワイリー・パブリッシング・ジャパン株式会社
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モーズレイ処方ガイドライン第12版 下巻

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モーズレイの処方ガイドラインは精神科における投薬治療を包括的に説明しているため、うつ病以外の疾患も掲載されている。

原著の英語版の最新は13版だが、12版と大きな差はないので、日本語でも特に問題はないだろう。

The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry

The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry

モーズレイの処方ガイドラインに関しては、このブログでも以前に10版の「難治性うつ病への治療法」を訳出したことがある。 http://ides.hatenablog.com/entry/20091204/1259945068

「難治性うつ病への治療法」は、標準的な方法がダメだった場合、このようなアイデアがあるという応用編なので、よほど行き詰まらない限り実施すべきではないし、治療ガイドラインに掲載されている普通の方法で最初は治療をすべきである。

因子分析のブックガイド

因子分析の参考書のブックガイドを書いておきたいと思う。

誰も教えてくれなかった因子分析: 数式が絶対に出てこない因子分析入門

誰も教えてくれなかった因子分析: 数式が絶対に出てこない因子分析入門

因子分析の入門はこの本がよいと思う。

数式が出てこないのは取っ付きがよいし、かといって、記述がさっぱりしすぎているということもない。 この1冊で因子分析とは何か、ということは理解できる。

僕自身も最初に読んだのはこの本である。

因子分析入門―Rで学ぶ最新データ解析

因子分析入門―Rで学ぶ最新データ解析

豊田先生の本なのでそのうち購入するつもり。 因子分析はRのpsychoパッケージ(もしくはMplus)を使うのが良いので、Rの参考書は持っておいて損はないと思う。

M-plusとRによる構造方程式モデリング入門

M-plusとRによる構造方程式モデリング入門

MplusとRで潜在因子を含んだ分析を一通り掲載した本。因子分析を解説した章がある。因子分析にかかわらず、この本は非常に良い本だと思う。

心理学・社会科学研究のための構造方程式モデリング: Mplusによる実践 基礎編

心理学・社会科学研究のための構造方程式モデリング: Mplusによる実践 基礎編

未購入。心理学の本のようだが読んでみたい。

Data Analysis with Mplus (Methodology in the Social Sciences) (English Edition)

Data Analysis with Mplus (Methodology in the Social Sciences) (English Edition)

Mplusでの分析方法が掲載されている本。一応読んでるが、ほとんど参考になったことはない。 Mplusは公式マニュアルがしっかり整備されているので、それで十分という理由もある。

Factor Analysis: Statistical Methods and Practical Issues (Quantitative Applications in the Social Sciences)

Factor Analysis: Statistical Methods and Practical Issues (Quantitative Applications in the Social Sciences)

SAGEの緑本。SAGEの緑本は必携か。

Introduction to Factor Analysis: What It Is and How To Do It (Quantitative Applications in the Social Sciences)

Introduction to Factor Analysis: What It Is and How To Do It (Quantitative Applications in the Social Sciences)

  • 作者: Dr. Jae-On Kim,Charles W. Mueller
  • 出版社/メーカー: SAGE Publications, Inc
  • 発売日: 1978/11/01
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上の本と同じ著者による入門書。後に出た本の方がわかりやすいので、この本は不要だと思う。

Latent Variable Models: An Introduction to Factor, Path, and Structural Equation Analysis, Fifth Edition (English Edition)

Latent Variable Models: An Introduction to Factor, Path, and Structural Equation Analysis, Fifth Edition (English Edition)

未読。よくあるコンセプトの本だが面白そう。

Factor Analysis (English Edition)

Factor Analysis (English Edition)

古典的な参考書。Gorsuch本は今でもよく参照されている。必携の書(読まなかったとしても引用で使うので)。引用には第2版を使おう。

因子分析入門 (1979年) (サイエンスライブラリ統計学〈12〉)

因子分析入門 (1979年) (サイエンスライブラリ統計学〈12〉)

古典的な入門書。昔の日本人はこの本で勉強した人が多いらしい。 掲載されている技法は古い。しかし、因子分析の基本的な考え方が書いてあるので、今でも参考になりそうだ。

ヒトラーとパーキンソン病

少し前に「ヒトラーは“ジャンキー”?」というBSドキュメンタリーがあり、興味深かったので、購入した本。

ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足―神経内科からみた20世紀 (中公新書)

ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足―神経内科からみた20世紀 (中公新書)

ちなみにBSドキュメンタリーはこちら。

ヒトラーは“ジャンキー”?」 https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/253/2145614/index.html

小長谷の本では、ドキュメンタリーとは異なり、パーキンソン病と投薬について書かれてあり、これまた大変興味深かった。

ドイツではエレン・ギッベルスという神経学者の本が有名だそうだ。

ギッベルスによると、『ドイツ週間ニュース』にみられるふるえは、左手では四二年にはあらわれており、右手で左手を握りしめたり、からだにピッタリとくっつけていたことも観察されている。左足のふるえを抑えるために、テーブルに押しつけることもあった。

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あまり重要なことではないかもしれないが、abラインが少しおかしい気がする(そもそも切片0というのは奇跡に近い)。切片は正の値をとるように見えるので、1939年から症状があったのたろう。

運動障害

ヒトラーに長いあいだ仕えた参謀将校によると、最後のころの様子は次のようなものだ。「総統は肉体的にみるからに恐ろしげな様子であり、苦しそうに、ぎこちなく足を引きずって歩きまわっていた。地下壕の自分の居聞から会議室へ行くときには、上半身を前方に投げ出すようにして、足を引きずって歩いていた。バランス感覚はなくなり、ごく短い距離(たかだか二〇~三〇メートル)を歩く途中で、立ち止まらなければならないときは、壁の両側に置かれた総統専用のベンチに腰を下ろしたり、話し相手にしがみついたりしていた。目は充血していたし、提出された文書はみな特製の『総統専用タイプライター』で普通サイズより三倍も大きな字で打つであったが、それでも拡大鏡を使ってやっと読めるようだった。しょっちゅう、口の両端からよだれが垂れていた」

かなり典型的なパーキンソン病である。

現代ではパーキンソン病に対して病気の進行を遅くする治療法がいろいろとあるが、当時は病気のメカニズムも治療法もよくわかっていなかった。パーキンソン病患者の線条体ドパミンが著しく低下していることがわかったのは1960年である。

小字症

運動障害の一つとしてあげられる症状である。パーキンソン病では病気の進行とともに書く字が小さくなっていく。ヒトラーのサインは次第に小さくなっていったようである。

保続(ほぞく)

また、この病気の精神的特徴の一つに保続という現象がある。一つの考え方や、やり方に固執することである。新しい事態がおこっても、途中から方針を修正することができない。融通がきかなくなるのだ。開戦当初、それまでの常識をやぶる用兵で、ヒトラーは華々しい戦果を次々と挙げていたが、途中からそれが通じなくなった。軍の参謀の進言にも耳を貸さなくなった。彼は作戦会議の最中でも地図の一点をじっと見つづけたままであり、軍の司令官や参謀の話などはかったように、最初からの自分の作戦遂行を命令する。失敗した作戦への反省もなく、ワンパターン化した作戦で戦争指導をつづけ、負け戦の連続となってしまった。スターリングラードの攻防戦などで、死ななくてもよかった若い兵士たちが何十万人単位で犠牲となった。精神の保続症状がこのような結果をもたらしたのだ。

これは確かにありそうな話である。

ヒトラーのパーキンソン症状が映像から確認できるのは1940~41年だそうだ。ロシア侵攻も同じ1941年である。ナチスドイツが戦略的に大きな失敗をし敗退をし始める時期と重なる。スターリングラードの攻防戦は1942~43年であり、この時期にはパーキンソン病はかなり進行していたはずである。 パーキンソン病や保続がドイツの戦略的失敗と関係しているというのは仮説になりうるだろう。

ヒトラーの運動障害についての将校の回顧からは、1944年にはかなりひどい状態になっていたことがわかる。スターリングラード攻防戦は映像でパーキンソン病が確認できる時期との間なので、わりと病気は進行していたはずである。

小長谷の本では記述がないが、ホロコーストが本格化(ガス室の使用等)したのは1943年である。

モレルの処方

モレルはヒトラーの主治医として有名な医師である。

テオドール・モレル https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%AA%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%AC%E3%83%AB

ヒトラーはモレルから77種類の薬を処方されていたようである。「ヒトラーは“ジャンキー”?」と言われるのはその薬に麻薬が含まれているからである。

アンフェタミンメタンフェタミン、コカイン、モルヒネと主要な麻薬をヒトラーは摂取していたようである。アンフェタミンのような中枢神経刺激薬を飲むと眠れなくなる。その副作用のためにバルビタール(睡眠・鎮静薬)が併用されていたのだろうか。

メタンフェタミンドパミン

パーキンソン病ドパミン不足で起こる病気である。 アンフェタミンメタンフェタミン、コカインを飲んでいたのはジャンキーというよりも、パーキンソン病対策と理解できるようなのだ。

ヒトラーの飲んでいた覚醒剤メタンフェタミンである。これはヒロポン、つまりアンフェタミンと同じく、ドパミンによく似た化学構造をしている。もともとこれらの覚醒剤は脳の中ではつくられていないが、外から入ると、ドパミンが作用する細胞に、似たような効果をあらわす。またコカインは、化学構造式は似てはいないが、脳の中のドパミンの量を増やしたり、効果を強める作用がある。

アトロピン

もう一つ、ヒトラーへの処方でパーキンソン病と関係がありそうなのは、アンチガスという薬だ。これの主成分は、アセチルコリンの作用を抑えるアトロピンである。アセチルコリンは胃腸のはたらきを活発にしたり、汗を分泌させるはたらきがある。ヒトラーは、よくおならをしていて、またひどい汗かきでいつも臭かったという。彼の前では、悪臭の話題をもちだしてはいけないことになっていた。アセチルコリンのシステムがはたらき過ぎているので、それを抑えるためにアトロピンを飲んでいた。 アトロピンは自にも作用して、瞳孔を広げる。戦争末期のヒトラーが、異様に輝く目をしていアンチガスの成分のアトロピンのためだという。

アセチルコリン抗コリン薬のアトロピンも摂取していたようである。ベラドンナも成分はアトロピンなので、同じ目的で摂取していたのだろう。