韓国では早い段階からゲーム依存が社会問題化され、シャットダウン制度というものが導入された。2011年11月から実施され、16歳未満の児童は韓国全域で午前0時から6時までオンラインゲームにアクセスできないようになった。
【連載第83回】韓国最新オンラインゲームレポート 「青少年夜間ゲームシャットダウン制」に揺れる韓国オンラインゲーム業界(GameWatch 2011年 5月 18日)
https://game.watch.impress.co.jp/docs/series/korea/446640.html
韓国ゲーム業界が崩壊寸前! 規制強化でゲーム会社の3割が“退場”「中国に追い越される状態になった」(産経新聞 2015.10.30)
https://www.sankei.com/economy/news/151029/ecn1510290027-n1.html
韓国のゲーム産業は大打撃を受け、経済政策としてはマイナスだったようだ。
では、肝心の青少年のゲーム・ネット依存はこの制度で改善したのだろうか。
韓国シャットダウン制度の評価論文
www.ncbi.nlm.nih.gov
Choi J et al. Effect of the Online Game Shutdown Policy on Internet Use, Internet Addiction, and Sleeping Hours in Korean Adolescents. J Adolesc Health. 2018 May;62(5):548-555.
この論文は韓国の学生の調査に基づいた分析を行って韓国のシャットダウン制度の政策評価を行っている。
結果は、直後の2012年はインターネット利用時間は減ったがその後着実に増加し2011年より増加し、インターネット中毒や睡眠時間への影響はなかった、というものだ。
このことから、著者らの最終的に次のような結論を下している。
シャットダウン政策は青少年のインターネット使用を削減できなったため政策立案者は異なる戦略をとるべき
また、この論文の分析の中で興味深いのは、学業達成の高い(成績の良い)群ほどインターネット使用時間が長いことである。 多変量解析を行っているようなので、様々な要因を取り除くと、韓国では成績の良い群ほどインターネット使用時間が長いという結果がでている。日本でもちゃんと分析をすれば、韓国のように成績が良い群ほどインターネット使用時間が長いという可能性は十分にあるだろう。
データ
この論文では2011年に比較して、2012~2015年の実態を調査している。
この論文のデータは2011年から2015年のKorea Youth Risk Behavior Web-based Survey(KYRBS)である。KYRBSは階層化された多段階クラスター抽出で400人の中学校と400人の高校から毎年約75,000人の生徒をデータを得ているため全国の韓国の学生を対象とした調査である。
インターネット中毒は1日あたり300分を超えるインターネット使用をした者と定義されている。インターネット中毒は日本ではあまり普及していな用語のため、このエントリではインターネット依存と表記する。
時間
|
インターネット使用(週時間), β |
P値 |
インターネット依存(青少年), β |
P値 |
睡眠時間, β |
P値 |
2011年 |
参照 |
|
参照 |
|
参照 |
|
2012年 |
-12.50 |
<.001 |
-.01 |
<.001 |
-.05 |
<.001 |
2013年 |
-1.39 |
0.149 |
0.01 |
<.001 |
1.03 |
<.001 |
2014年 |
3.32 |
0.001 |
0.02 |
<.001 |
-.04 |
0.006 |
2015年 |
7.57 |
<.001 |
0.02 |
<.001 |
-.03 |
0.342 |
インターネット使用時間は、法律が実施された直後の2012年のには減じたが、2013年ら増加し、2015年段階では逆に2011年よりも統計学的に有意に増加している。
インターネット依存も同じく2012年にはいったん減るが、2013年からは2011に比べて増加している。
睡眠時間は2012年に一度減り、2013年には逆に増え、2014、2015年は統計学的に有意差がなくなっている。睡眠時間は勉強時間などとも関連するので、ネット使用だけではおそらく説明はつかないのであろう。
総じて、シャットダウン制度の効果がなかったと言える。
性差
|
インターネット使用(週時間) |
P値 |
インターネット依存(青少年) |
P値 |
睡眠時間 |
P値 |
女性 |
参照 |
|
|
|
|
|
男性 |
17.74 |
<.001 |
0.01 |
<.001 |
0.68 |
<.001 |
インターネット使用時間、インターネット依存とも男性の方が多い結果となった。他の調査でも男性の方が多いという結果が出ているので、順当な結果であろう。
世帯収入
|
インターネット使用(週時間) |
P値 |
インターネット依存(青少年) |
P値 |
睡眠時間 |
P値 |
High |
参照 |
|
参照 |
|
参照 |
|
Middle high |
−29.66 |
<.001 |
−.05 |
<.001 |
0.11 |
<.001 |
Middle |
−30.61 |
<.001 |
−.06 |
<.001 |
0.2 |
<.001 |
Middle low |
−24.01 |
<.001 |
−.05 |
<.001 |
0.08 |
<.001 |
Low |
−12.52 |
<.001 |
−.04 |
<.001 |
0.16 |
<.001 |
世帯収入は非常に興味深い。
この表は、参照カテゴリはHighになっていて、金持ち家庭に比べて~と読む。
Highのインターネット使用時間は参照、つまり0に設定されているので、もっともインターネット使用時間が少ない。最も多いのはMiddleで−30.61、Lowは−12.52となっている。
グラフで表すと次のようになる。
谷型のグラフである。金持ち家庭ほどインターネット時間が多く、中間層になると減少し、定収入家庭でまた増加するという形である。
インターネット依存も金持ち家庭が多い。
睡眠時間の分布もインターネット使用時間と同じような感じである。やはりインターネット使用時間が長いと睡眠時間が減る傾向にあるようだ。
肥満
肥満とインターネット使用時間は関連があるようだ。
|
インターネット使用(週時間) |
P値 |
インターネット依存(青少年) |
P値 |
睡眠時間 |
P値 |
Yes |
参照 |
|
参照 |
|
参照 |
|
No |
-11.78 |
<.001 |
-0.02 |
<.001 |
0.13 |
<.001 |
肥満である方が使用時間が長く、依存症もリスクが高いようである。これはどちらが原因か因果かよくわからない。インターネットばかりしていると、運動時間は少なくなるだろうし、インターネットをしながら無茶食い(Binge-Eating)するという報告は多数あがっているので、インターネット中に肥満になったのかもしれない。肥満で運動が得意ではないので、インターネットをする時間が増えるという因果も考えられるだろう。
学業達成
思春期のインターネット使用において最も関心が高い学業達成についてである。
|
インターネット使用(週時間) |
P値 |
インターネット依存(青少年) |
P値 |
睡眠時間 |
P値 |
High |
参照 |
|
参照 |
|
参照 |
|
Middle high |
-41.23 |
<.001 |
-0.05 |
<.001 |
0.11 |
<.001 |
Middle |
-40.32 |
<.001 |
-0.06 |
<.001 |
0.2 |
<.001 |
Middle low |
-30.02 |
<.001 |
-0.05 |
<.001 |
0.08 |
<.001 |
Low |
-16.53 |
<.001 |
-0.04 |
<.001 |
0.16 |
<.001 |
学業達成がHighのグループが参照カテゴリなので最もインターネット使用時間が多いという結果になっている。線形に学業達成とインターネット使用時間は相関関係があるようだ。
インターネット使用時間が多いと学業がおろそかになると考えがちだが、韓国ではまったく逆のようだ。
インターネット依存に関しては学業達成がHighのグループが最も多い。睡眠時間もHighグループが最も睡眠時間が短かった。
年次と学業成績
インターネット使用時間は学習達成度で分けて年次別に並べたのが下の表である。数値は共変量βである。
学習達成「低」 |
|
P値 |
2011年 |
参照 |
|
2012年 |
-7.76 |
0.045 |
2013年 |
-12.6 |
0.004 |
2014年 |
-13.06 |
0.008 |
2015年 |
-6.41 |
0.201 |
学習達成「中」 |
|
|
2011年 |
参照 |
|
2012年 |
-4.22 |
<.001 |
2013年 |
-30.41 |
<.001 |
2014年 |
15.59 |
<.001 |
2015年 |
-15.34 |
<.001 |
学習達成「高」 |
|
|
2011年 |
参照 |
|
2012年 |
-2.57 |
0.432 |
2013年 |
7.11 |
0.043 |
2014年 |
24.58 |
<.001 |
2015年 |
14.29 |
<.001 |
学歴達成が低いグループでは、多少の変動はあるものの、2011年比較で使用時間は減っている。
「中」のグループは2014年のみ増加をしていて、傾向性の把握ができない。
学歴達成が高いグループでは2012年は減ったものの、2013年からはずっと2011年比較で使用時間が長くなっていることが確認できる。
まとめ