井出草平の研究ノート

「ゲームは平日60分まで」はどのようにして決まったのか 香川県「ゲーム規制」条例案、検討委の1人にこれまでの経緯を聞いた

nlab.itmedia.co.jp

条例に「反対」の立場をとっている検討委員の一人、日本共産党の秋山時貞議員へのインタビュー記事。先日の高松での講演会にも足を運んでいただいた方。

NPO法人IGDAパブリックコメント

www.igda.jp

こちらのブログにリンクが貼ってあるので、おせっかいながら間違っているところを訂正をしておこうと思う。

アメリカ国立衛生学研究所の発表によると、ゲームがギャンブル依存に発展する割合は2.7%程度とされています(原文日本語要約

  • アメリカ国立衛生学研究所はリンク先のPubMedのことだと思われるが、PubMedの運営はアメリカ国立医学図書館(National Library of Medicine )であり、データベース運営者。
  • 該当記事はScharkow M, Festl R, Quandt T.による論文。所属先はドイツのシュトゥットガルトホーエンハイム大学である(University of Hohenheim, Stuttgart, Germany)。
  • ゲームがギャンブル依存に発展する割合→ゲーム利用がゲーム依存に発展する割合

スマホ・ゲームの家庭でのルールと成績

香川のネット・ゲーム条例においてゲーム時間60分は1時間以上ゲーム利用をすると成績が下落するからということであった(参考))。その根拠になっているのが香川県学習状況調査である。

www.kagawa-edu.jp

先日の高松での講演会で会場に来ていた方から教えてもらった資料である。

家庭でのスマホ・ゲーム使用のルールについての調査結果も掲載されていたので、今回はそれについてみていきたい。

家庭でのスマホ・ゲーム使用のルールと成績

「19. 携帯電話やスマートフォン、ゲーム機などを使う場合、家の人と決めた使用ルールを守っていますか」という質問がある。

f:id:iDES:20200205182443p:plain

  1. 守っている
  2. どちらかといえば守っている
  3. あまり守っていない
  4. 守っていない
  5. ルールを決めていない
  6. 携帯電話やスマートフォンなどを持っていない

ルールを守っていないグループ(回答4)の成績が最も悪いという結果になっている。

ルールを守れていないということは、逆に言えば、そもそもルールがあるということである。スマホやゲーム使用で保護者がルールを作らず無法地帯になっているわけではない。

家庭でルールを決めても児童が従わないケースで成績の下落がみられるというのが正しい理解のようだ。

ルールを守っていない児童

ルールを守っていない児童はどのくらいいるかというと、下記のグラフから確認できる。

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  1. 守っている 27.4%
  2. どちらかといえば守っている 24.9%
  3. あまり守っていない 8.7%
  4. 守っていない 2.4%
  5. ルールを決めていない 28.3%
  6. 携帯電話やスマートフォンなどを持っていない 7.7% (数字は中2時点の割合)

成績低下がみられるルールを守らない児童は2.4%と少数である。年次推移をみても、小5から2%程度とほぼ変化がなく、成績が落ちるグループというのは一定であり、かつ少数なのである。

ルールを定めている家庭/定めていない家庭

ルールを定めていない家庭も存在する。
このグラフは同一対象者に毎年調査を行っているので、学年が進むにつれての変化が見れる。

ルールを定めていない家庭は小5では16.2%、中2では28.3%と増加している。もちろんスマホ利用者の増加もあるが、それ以上の増加をしているので、学年が進むとルールが過程で定められない傾向があることは指摘できるだろう。

思春期に入るにしたがって、子どもが親の言うことを聞かないのはよくあることである。ルールはあった方が良い気はするが、すべての子どもたちが親の言う通りに行動している、行動しなればならないという考え方は気持ち悪い。

ネット・ゲームのルールのある家庭

スマホやゲームがない家庭も7.7%ある。そこで、これらのデジタルデバイスがない家庭を除外して、計算し直すと、ルールのいる家庭が69%、ルールの無い家庭が31%となる。

ルールがある家庭が7割、ルールない家庭が3割程度程度である。ただ、ルールがない家庭の児童の成績もやや低い傾向にあるが、成績が低いのは、ルールがあるにも関わらずそれを守っていない児童である。

従って、以下の2点が指摘できる。

  1. 7割の家庭にはルールがある
  2. 成績という観点でみれば家庭でネット・スマホ利用のルールを定めていないことではなく、児童がそれを守っていないところに問題がみられる。

ネット・ゲームと成績の問題を論じるのであれば、家庭でルールを作っても守らない児童にどのように対処するか、という問題になるだろう。

「ゲーム1日60分」条例、他にも疑問点が 記者座談会

朝日新聞にまともな内容の記者の座談会が掲載されていた。
有料なのは惜しい。

digital.asahi.com

石川 19歳の弟もオンラインゲームにはまっていたが、両親が時間を制限していた。家族で話し合うべき事情に、条例がここまで踏み込んでいいのか。

石川 スマートフォンなどの利用時間が増えると正答率が下がるという、学習状況調査の結果が根拠の一つとして使われている。ゲーム依存とはまったく関係ない調査だ。

広島 「県民の役割」と題した9条。「県民は(中略)県又(また)は市町が実施する施策に協力するものとする」とある。ギャンブル依存に関する法律なども、国民の協力義務まで定めてはいない。どうして、わざわざこんな文言を入れているのか。行政の施策は何でも受け入れろとでも言うのだろうか。

広島 議論の進め方も疑問だった。条例検討委員会は議員の個人的な活動との位置づけなのに、たくさんの県幹部を招集していた。会議録もなく、素案を決定した会合は非公開。条例について議論する場なのに、その場自体が条例に基づいていない。