ICD-10 F50 摂食障害


ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン

ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン


世界保健機関(WHO)作成の「疾病および関連保健問題の国際統計分類第10改訂版(IDC-10)」・第V章「精神および行動の障害」の翻訳版から「摂食障害




F50 摂食障害 Eating disorders


 摂食障害の表題の下に,2つの重要ではっきりした症候群が記述されている.すなわち神経性無食欲症と神経性過食症である.過食性障害はより特異
性が低いが,過食が心理的障害を伴う場合と同様,一項目を設けるに値する.心理的障害を伴った嘔吐についても簡潔な記述がなされている.


 〈除〉特定不能の食思不振あるいは食欲欠如(R63.0)
    哺育困難および食事管理の誤り(R63.3)
    乳幼児期および小児期の哺育障害(F98.2)
    小児期の異食症(F98.3)


F50.0 神経性無食欲症 Anrexia nervosa
 神経性無食欲症は患者自身によって引き起こされ,および/または維持される意図的な体重減少によって特徴づけられる障害である.この障害は青年期
の女子と若い成人女性に最もよくみられるが,まれに青年期の男子や若い成人男性にみられることもあり,思春期に近い子どもや閉経期にいたるまでの年長の女性にもみられることもある.神経性無食欲症は以下の点で独立した症候群を成している.
(a)この症候群の臨床的特徴は容易に認めうるので,診断は臨床家の間で一致率が高く信頼できる.
(b)予後調査によれば,回復していない患者のかなりの部分に神経性無食欲症の同じ症状が慢性的に存在している.


 神経性無食欲症の根本的な原因はまだ明らかではないが,相互に影響しあう社会文化的および生物学的要因,さらに特異性は低いが心理機制および人格の脆弱性も発生に寄与しているという証拠が増えている.この障害は種々の段階の低栄養状態を伴い,その結果,二次的な内分泌と代謝の変化および身体横能の障害を生じる.特徴的な内分泌障害がすべて低栄養とこれをもたらす種々の行動(たとえば,食物選択の制限,過度の運動と体格の変化,嘔吐の誘発と緩下薬の使用およびそれに伴う電解質異常)の直接の結果によるものかどうか,あるいは不明な要因も含まれているのかどうか疑問が残っている.



診断ガイドライン
 確定診断のためには,以下の障害のすべてが必要である.
(a)体重が(減少したにせよ,はじめから到達しなかったにせよ)期待される値より少なくとも15%以上下まわること,あるいはQuetelet's body-mass index*1が17.5以下.前思春期の患者では,成長期に本来あるべき体重増加がみられない場合もある.
(b)体重減少は「太る食物」を避けること.また,自ら誘発する嘔吐,緩下薬の自発的使用,過度の運動,食欲抑制薬および/または利尿薬の使用などが1項以上ある.
(c)肥満への恐怖が存在する.その際,特有な精神病理学的な形をとったボディイメージのゆがみが,ぬぐい去りがたい過度の観念として存在する.そして患者は自分の体重の許容限度を低く決めている.
(d)視床下部下垂体性腺系を含む広汎な内分泌系の障害が,女性では無月経,男性では性欲,性的能力の減退を起こす(明らかな例外としては,避妊用ピルとして最もよく用いられているホルモンの補充療法を受けている無食欲症の女性で,性器出血が持続することがある).また成長ホルモンの上昇,甲状腺ホルモンによる末梢の代謝の変化,インスリン分泌の異常も認められることがある.
(e)もし発症が前思春期であれば,思春期に起こる一連の現象は遅れ,あるいは停止することさえある(成長の停止.少女では乳房が発達せず,一次性の無月経が起こる.少年では性器は子どもの状態のままである).
 回復すれば思春期はしばしば正常に完了するが,初潮は遅れる.



【鑑別診断】抑うつ的あるいは強迫的な症状,同様にパーソナリティ障害の諸特徴を伴うことがあり,これが鑑別診断を困難にし,および/または複数
の診断コードを用いる必要が生じさせる.若い患者で鑑別を要する体重減少の身体的原因としては,慢性消耗性疾患,脳腫瘍,クローン病や吸収不全症
候群のような腸の障害がある.

 〈除〉食息不振(R63.0)
    心因性食思不振(F50.8)



F50.1 非定型神経性無食欲症 Atypical anorexia nervosa


 この用語は,無月経あるいは顕著な体重減少のような神経性無食欲症(F50.0)の鍵となる症状が1つ以上欠けているが,その他は典型的臨床症状を示す患者に対して用いるべきである.このような患者には通常,給食病院の精神科リエゾン治療やプライマリケアで遭遇する.鍵となる症状がすべてあるが,軽度にすぎないという患者も,この用語で最もよく表される.この用語は神経性無食欲症に似た身体疾患による摂食障害には用いるべきではない.



F50.2 神経性過食[大食]症 Bulimianervosa
 神経性過食症は発作的に繰り返される過食と体重のコントロールに過度に没頭することが特徴で,患者は食べた物の「太る」効果を減じるために極端な方法を用いる.この用語は共通の精神病理をもつ点で,神経性無食欲症と関連した型の障害に限定して用いるべきである.年齢の分布と性別は神経性無食欲症に似ているが,発症年齢はやや高い傾向がある.この障害は神経性無食欲症に続いて起きたとみなせることもある(しかし,この反対の順序で起こることもある).それまで無食欲症であった患者が体重の増加とおそらくは月経の再開によって改善したようにみえることがあるが,その後,過食と唯吐を繰り返す治りにくいパターンが形成される.嘔吐の繰り返しによって電解質の異常,身体的合併症(テタニー,てんかん発作,不整脈,筋力低下),より高度な体重減少が生じやすい.



診断ガイドライン
 確定診断には,以下の障害がすべて必要である.
(a)持続的な摂食への没頭と食物への抗しがたい渇望が存在する.患者は短時間に大量の食物を食べつくす過食のエピソードに陥る.
(b)患者は食物の太る効果に,以下の1つ以上の方法で抵抗しようとする.すなわち,自ら誘発する嘔吐,緩下薬の乱用,交代して出現する絶食期,食欲抑制薬や甲状腺末,利尿薬などの薬剤の使用.糖尿病の患者に過食症が起これば,インスリン治療を怠ることがある.
(c)この障害の精神病理は肥満への病的な恐れから成り立つもので,患者は自らにきびしい体重制限を課す.それは医師が理想的または健康的と考える病前の体重に比べてかなり低い.双方の問に数ヵ月から数年にわたる間隔をおいて神経性無食欲症の病歴が,常にではないがしばしば認められる.この病歴のエピソードは完全な形で現れることもあるが,中等度の体重減少および/または一過性の無月経を伴った軽度ではっきりしない形をとることもある.


 (含)特定不能の過食
   神経性食欲亢進


【鑑別診断】神経性過食症の鑑別は以下による.
(a)反復性の喝吐を招くような上部消化管の障害(特異的な精神病理を欠く).
(b)より全般的なパーソナリティの異常(摂食障害はアルコール依存や万引きのような軽犯罪を伴うことがある).
(c)うつ病性障害(過食症患者はしばしば抑うつ症状を経験する).



F50.3 非定型神経性過食[大食]症 Atypical bulimia nervosa
 この用語は神経性過食症(F50.2)の鍵症状としてあげられているもののうち,1つ以上が欠けているが,その他は典型的な臨床像を示す患者に対して用いるべきである.最も一般的には,この用語は正常または過剰体重であっても,過食とそれに続く嘔吐あるいは緩下薬の使用を示す典型的期間を伴う患者に適用される.抑うつ症状を伴う部分的な症候群も珍しくない(しかし抑うつ症状がうつ病性障害の診断を別個に正当化する場合, 2つの別個の診断を付けるべきである).


 (含)正常体重過食症



F50.4 他の心理的障害と関連した過食 overeating associated with other psychological disturbances


 苦悩をもたらす出来事に対する反応として肥満にいたった過食は,ここにコードする.とりわけ体重増加の素因のある患者には,死別,事故,外科手術,情緒的苦悩を与える出来事に続いて, 「反応性の肥満」が生じることがある.
 心理的障害の原因としての肥満はここにコードすべきではない.肥満によって患者は自分の外見に対して過敏になり,対人関係における自信を失うことがある.体の大きさを過大に自己評価することがある.心理的障害の原因となった肥満は,F38.- 「その他の気分(情緒)障害」,あるいはF41.2 「混合性不安抑うつ障害」,あるいはF48.9 「神経症性障害,特定不能のもの」などのカテゴリーにコードし,加えて肥満の型を示すためにICD-10のE66.-からのコードを付記する.
 神経遮断作用のある抗うつ薬その他の薬剤の長期投与の副作用による肥満はここにコードされるべきではなく, ICD-10のE66.1 「薬剤性肥満」をコー
ドし,薬剤を同定するために第Ⅹ章(外因)からのコードを付記する.
 肥満はダイエットをする動機となることがあるが,その結果として軽い感情症状(不安,落着きのなさ,衰弱,刺激性),あるいは,まれに重篤な抑うつ症状(ダイエットうつ病)を引き起こすことがある. F30-F39またはF40-F48から適切なコードを上述の症状のために用い,さらにダイエツトを示すためにF50.8「他の摂食障害」を,また肥満のタイプを示すためにE66.-からのコードを使用する.


 (含)心因性の過食
 (除)肥満(E66.-)
   特定不能の過食(R63.2)



F50.5 他の心理的障害と関連した喝吐 vomiting associated with other psychological disturbances


 神経性過食症で自ら嘔吐を誘発する場合以外に,解離性障害(F44.-)や心気障害(F45.2 :嘔吐がいくつかの身体症状の1つのことがある),および妊娠(情緒的な要因が反復性の吐き気と嘔吐を引き起こすことがある) の際に繰り返し嘔吐がみられることがある.

 (含)心因性妊娠悪阻
   心因性嘔吐
 (除)特定不能の吐き気と嘔吐(R11)



F50.8 他の摂食障害 other eating disorders


 (含)非器質性の原因による成人の異食症
   心因性の食思不振

F50.9 摂食障害,特定不能のもの Eating disorder unspecified