井出草平の研究ノート

高学歴夫婦はなぜ離婚をしやすいか?

Torkild Hovdc Lyngstad, 2006,
Why do Couples with Highly Educated Parents have Higher Divorce Rates?
European Sociological Review 22(1): 49-60.

高学歴の夫婦の離婚率は高い。


といっても、これは日本の話ではなくノルウェーの話*1。日本では高学歴の夫婦は離婚しにくいことが分かっている(参照:id:iDES:20060331:1143812173)。


European Sociological Reviewに載ったノルウェーの離婚の規定要因を探索する計量論文。斎藤環家族の痕跡―いちばん最後に残るもの』の読書会に向けて、「家族」の終焉である離婚についての調べもの。


離婚率はその国の制度によって大きく変化する。例えば、イタリアの場合はカトリックの人口が多いため、離婚率は低い*2。逆に、ノルウェーでは1年間の別居によって無条件の離婚が認められているため、離婚率は高くなる。日本では「5年間の別居」という項目が法定離婚原因に含まれるが、ノルウェーのように無条件ではない。


データはノルウェーの行政データを使っており、対象者は27万6326人。非常に大規模なデータセットである。そのうち20.3%が分析の対象とした期間に離婚している。また、夫婦ともノルウェーで生まれたものを対象としていている(移民と区別して分析するため)。高学歴の夫婦は低学歴の夫婦より3割ほど離婚しやすいということだ。


この論文から得られるインプリケーション。

  1. 大都市の方が離婚しやすい
  2. 夫婦の両親の離婚は離婚率には影響しない
  3. 夫婦の加齢と共に離婚しにくくなる
  4. 子どもの年と数が離婚を抑制している。子どもの成長と共に、抑制効果は衰える
  5. 第2子・第3子を最近になって設けた夫婦は離婚しにくい
  6. できたっちゃ結婚は離婚しやすい*3
  7. 子連れ結婚は離婚しやすい*4
  8. 妻の収入が高いと離婚率は高くなる。妻の収入が低いと離婚率は基準より半分かそれ以下(専業主婦が含まれるか)
  9. 夫の収入が低いと影響は出ず、高収入だとやや離婚しやすい


高学歴の夫婦の高離婚率の理由説明

  1. 離婚に寛容なブルジョワ文化*5
  2. 教育によって民主的な振る舞いが身に付いた*6
  3. 高学歴者は信心深くない*7


離婚の規定要因は国によって、大きく異なる。この論文の中では、他のスカンジナビアの研究が上げられ、低学歴者にくらべ、夫婦とも大学を卒業していると離婚率は3分の1となると説明されている。また、日本でも同様の傾向が見られている。(参照:id:iDES:20060331:1143812173)

*1:Abstractは無料で読める[ここ]

*2:イタリアでは妻の学歴と離婚の間に相関関係があるとのこと

*3:婚前子は夫婦維持には悪影響である

*4:どちらかが前の結婚で子どもを設けている夫婦は離婚しやすい。ただし、婚外子については不明

*5:Hoem, B. and Hoem, J. M. (1992). The Disruption of Marital and Non-Marital Unions in Sweden. In Trussel, J., Hankinson, R. and Tilton, J. (Eds), Demographic Applications of Event-History Analysis. Oxford, UK: Oxford University Press.

*6:Hoem, B. (1995). Kvinnors Och Mans Liv. En Rapport Fra SCBs Undersokning Om Familj Och Arbete. Statistics Sweden: Orebro.
Duvander, A.-Z. (1999). The Transition from Cohabitation to Marriage?a Longitudinal Study of the Propensity to Marry in Sweden in the Early 1990s. Journal of Family Issues, 20, 698-717.
Bracher, M., Santow, G., Morgan, S. P. and Trussel, J. (1993). Marriage Dissolution in Australia: Models and Explanations. Population Studies, 47, 403-425.[CrossRef][ISI]

*7:Hoem, B. and Hoem, J. M. (1992). The Disruption of Marital and Non-Marital Unions in Sweden. In Trussel, J., Hankinson, R. and Tilton, J. (Eds), Demographic Applications of Event-History Analysis. Oxford, UK: Oxford University Press.
Klijzing, E. (1992). ‘Weeding’ in the Netherlands: First-Union Disruption among Men and Women Born between 1928 and 1965. European Sociological Review, 8, 53-70.
Kravdal, O. (1994). Sociodemographic Studies of Fertility and Divorce in Norway with an Emphasis on the Importance of Economic Factors. Oslo, Norway: Statistics Norway.