拒食や過食、患者同士がグループで治療 セルフ・ヘルプの試み広がる

拒食や過食、患者同士がグループで治療 セルフ・ヘルプの試み広がる
朝日新聞 1994年4月22日 夕刊


94年の朝日新聞の記事。これから自助グループが盛んになるという趣旨。確かに盛んになってはいるのだろう。

これに対し、生野さんは「摂食障害に悩む人は増えており、専門家が一層足りなくなる。今後はグループ治療の役割も大きくなるだろう」。斎藤さんも「専門家に十分に理解されていないのは確かだが、いずれ盛んになる」とみている。



拒食や過食、患者同士がグループで治療 セルフ・ヘルプの試み広がる


 食べ物をほとんど食べなくなる「拒食症」や、大量に食べる「過食症」。ダイエット願望や心理的ストレスが原因で起こる摂食障害の治療に、悩みを抱える人どうしが励まし合う「セルフ・ヘルプ・グループ」を採り入れる試みが出てきた。ただ、理解の輪はまだ小さい。
  
 ダイエットがきっかけの拒食症(神経性食思不振症)。「カーペンターズ」の歌手カレン・カーペンターさんが、これで亡くなったのは有名だ。逆に、一度に大量に食べたり、食べ物がないと不安になる過食症(神経性多食症)では、「食べては吐き、また食べる」という悪循環に陥ることもある。対人関係や仕事上のストレスも原因といわれている。
 治療には、時間をかけて心を開くようにしなければならないが、一人の患者にかかりきりではいられない。そこで、患者らでつくる「セルフ・ヘルプ・グループ」の活動が採り入れられるようになった。「悩んでいるのは自分だけではない」と感じることが支えになるという。
 大阪市立大医学部付属病院で治療に当たる生野照子さん(小児心身医学)は、数年前から専門家の治療とグループ治療を両立させている。臨床心理士や栄養士、ソシアルワーカーら十人のスタッフが栄養指導やカウンセリングで心身両方を治療する一方、家族や患者のグループも側面から応援する。
 月に一回ほどの学習会で専門家や経験者の話を聞いたり、日ごろの悩みや体験を自由に話し合ったりする。「親の価値観で子供を縛っていた」と振り返る人もいれば、「家族はもっと私の気持ちを分かってほしかった」と打ち明ける元患者も。
 「支え合うことで患者の心が解放されれば、専門家の治療にも役立つ」と生野さん。
 患者のグループ「NABA」を主宰する東京都精神医学総合研究所の斎藤学さん(精神医学)は、グループ治療が第一と考えている。「食事をきちんととりなさい」「食べた後に吐くのをやめなさい」といった専門家の指導が、患者に新たな拘束感を与えかねないからだ。
 「自分を見つめ直すことが治療に欠かせないが、一人では難しい」と斎藤さん。患者らは週一回集まり、「男性経験のないことがストレスになっていた」「男の人に美しく見られたかった」と打ち明け合う。会話を通じて、異常な食行動をとるようになった原因に気付くという。
 とはいえ、いまの治療の主流は、専門家の指導で食べ方や生活習慣を改める「行動療法」やカウンセリングだ。東京大医学部付属病院分院の末松弘行教授(心療内科)は「きちんと専門家が治療し、傷ついた心と体の状態を回復させてあげなければ」という。「回復後の社会復帰に役立つかもしれないが、治療上の効果は期待できない」(国立大精神科教授)という声もある。「保険診療として認められない」「指導法が分からない」と、ためらう専門家もいる。
 これに対し、生野さんは「摂食障害に悩む人は増えており、専門家が一層足りなくなる。今後はグループ治療の役割も大きくなるだろう」。斎藤さんも「専門家に十分に理解されていないのは確かだが、いずれ盛んになる」とみている。

1994年4月22日 夕刊 科学 009 01258文字