完璧や頑張りが危ない 拒食症小六男子が自殺

完璧や頑張りが危ない 拒食症小六男子が自殺
週刊アエラ 1998年12月7日 062  

 生野さんの印象では、低年齢の場合、男子の割合が相対的に増えてきて、思春期以降では女と男の比が十対一なのが低年齢では七対一くらいになるという。
 ただ、女子の動機が「やせて美しく」というのに対し、男子の場合はただやせるのではなく、無駄なところをそぎ落とし、筋肉質のひきしまった体になりたいという願望になっている。
 だから、食べるのを減らすだけでなく、運動もよくする。過剰な運動が減食と一緒に起きる。


思春期以前の男性の摂食障害についての記述。




完璧や頑張りが危ない 拒食症小六男子が自殺


 やせて卓球がうまくなりたい。富山県で拒食症の少年が校舎から飛び降り自殺した。
 女性に多い摂食障害は、低年齢化とともに男性にも広まってきている。
 自殺した小学六年生は、熱心に取り組んでいた卓球で、ラケットの振りを鋭くしようとダイエットを始めたという。短期間に体重が十キロほども減ったらしい。
 神戸女学院大学教授(小児心身症)で大阪市立大学病院の小児科で多くの子どもたちを診てきた生野照子さんは、「拒食症の低年齢化はいろいろなところで言われている。低年齢層だけでなく、上の年代にも広がり、全体に増えている」
 とし、低年齢に増えている理由についてこう指摘する。「今は大人社会と同じようなストレスが子どもにも起こる。その一つは『やせ礼賛』です。スリムな女性が美しいというのは、今まで思春期以上の女性だった。今は小学生の接する雑誌や情報が『太っていてはダメだ』というものばかり。情報の低年齢化が大きな原因でしょう」
 生野さんの印象では、低年齢の場合、男子の割合が相対的に増えてきて、思春期以降では女と男の比が十対一なのが低年齢では七対一くらいになるという。
 ○同時に過剰運動と減食
 ただ、女子の動機が「やせて美しく」というのに対し、男子の場合はただやせるのではなく、無駄なところをそぎ落とし、筋肉質のひきしまった体になりたいという願望になっている。
 だから、食べるのを減らすだけでなく、運動もよくする。過剰な運動が減食と一緒に起きる。
 さらに男の子の場合はもう一つのタイプがあり、低年齢の場合の女子も同様だが、「赤ちゃんに戻りたい」「母親の胸にだっこしてもらいたい」と願うタイプだという。
 「十年前は、子どもの場合は成長拒否の方が多かったが、いまはやせ願望がぐっと増えた」
 小学校高学年は「筋肉質」が目立つが、中低学年は「赤ちゃん」が多いという。
 「スポーツをしている子はハイリスクです。体重調節をすることがきっかけになりやすい。しかも、最初はスポーツの成績を上げるためのダイエットが、だんだんと低栄養を招き、イライラを募らせたりする。体の変化が心の変化を招くのです。こだわりの傾向も強くなり、固執的になる。すると、なおさらカロリー数値ばかり気にし、ますます体重の数値が気になって病気が進みやすい」
 精神面とからだの低栄養がからみあいながら、拒食に落ち込んでいく。
 福島県医大神経精神科講師(児童青年精神医学)の星野仁彦さんは、
 「前思春期のケースは、まだ絶対数は少ないが、最近増えている」
 と話す。
 摂食障害になりやすい子どものタイプは、強迫的、完全主義、まじめ、頑張り屋、几帳面。自分や周りをコントロールすることが好きな子どもが多いという。
 生野さんも、一途で、周囲に気を使う「けなげなタイプ」が多いとする。期待を担って頑張る。スポーツでも成績を上げなければみんなを失望させると考える。もともとのめりこみやすいタイプだけに、打ち込めばスポーツや勉強もよくできる。「まあいいか、失敗してもいいや」と考えられるタイプは少ないのだという。
 「世の中が、いい子でいなさい、頑張りなさい、という画一的なメッセージを子どもに押し付けている。よく親が悪いと言われるが、それは反対。親も一生懸命、子どもも一生懸命。なのに、そうしたことが起きる。社会的なメッセージが家族を苦しめているのです」
 ○詳しい医師が少ない
 関西福祉大学教授で心理社会療法研究所を主宰する黒川昭登さんも、「達成意欲」の強い子は摂食障害になりやすい、とする。
 黒川さんが診た例では、全国模試で五十番以内に入っているような成績優秀な高校生もいた。
 しかし、その背景には「恥ずかしい」という強い気持ちがある。
 「勉強でもスポーツでも、上手になりたい、恥をかきたくないという気持ちが強い。テストで何点とっても満足できない。完全癖。勉強も前の晩に予習しないと気がすまない。教室で恥をかきたくないからです」
 そういう子どもは、自分が抱える寂しさや恥ずかしさ、イライラ、不安といった苦しさを、空腹という苦痛で紛らわすのだという。
 では、子どもの変化に気づいたら、どうしたらいいか。
 こども心身医療研究所所長の冨田和巳さんは、専門的に診断できる機関の少なさを指摘し、
 「体重が減ると親はびっくりして病院へ連れていくが、拒食症について詳しく知っている医師は少ない。表面的な現象に注目するだけでなく、裏にある一番大事なところに注意する必要がある」
 と指摘する。そして、とくに低年齢の場合は、拒食症の診断が難しいという。
 「背景に病理的なものがある場合と、ただの反抗で食べない例もあり、小児の場合はあいまいになる。とくに男子は、本当の意味の拒食症は少ない。拒食というより、強迫的に思い込んで食べなくなる例もある。スリムになってスポーツがうまくなりたい、というのと本当の『やせ願望』とは少し違う」
 福島県医大の星野さんも、
 「小学生の場合は、やせ願望、肥満恐怖ははっきりしない。診断が難しい。高校生くらいになると、治療で信頼関係をつくると、話してくれるが、小学生はそういうことを言ってくれない」
 と難しさを説明する。
 ○低栄養が鬱を強める
 だが、拒食症は自殺にまで至る割合が高い。生野さんは、
 「死亡率は七、八%だが、そのうち一%が自殺です」
 と話す。
 「まず、自殺するほど大きな問題だということ。そして、低栄養自体が心の鬱を非常に強める。それが自殺の大きな理由です。体さえしっかりしていれば……、というケースもある」
 しかも、自殺をほのめかすサインがなく発作的にという例も多い。
 「本人が進んで受診することはない。周囲がどうするかが大事。親が気づいたところで、治療にもっていくのがなかなか難しい」
 そのうち自然に治るか、食べさえすればいい、と考えて、専門医に連れていくのが遅れる。
 「やせが目立つようになると治療が難しい。早期治療をきちんとすれば若い子は治りが早い。しかし、せっかく早く受診に動き出したのに、専門医が少なくて適切な治療を受けられず、とても悔しい思いをしたという例もあります」
 と専門機関の充実を訴える。
 (編集部・蝶名林薫)
 【写真説明】
 11月19日朝、富山県福光町の小学校で、「もう疲れた」と小学6年の男児(12)が飛び降り自殺しているのが見つかった
 男児は児童会委員も務め、活発だった。スポーツ少年団では卓球を続けていた。拒食症と診断され、治療を受ける矢先だった

1998年12月7日 週刊 アエラ 062 02663文字