本田由紀「90年代におけるカリキュラムと学力」

本田由紀「90年代におけるカリキュラムと学力」『教育社会学研究』70,2002,105-123.

76年の教課審答申でも,授業時間数別削減の背景理念として掲げられていたが,今回改訂における「ゆとり」の提唱には.2002年4月から全面実施される学校週5日制を理念的に正当化するという,新しい切実な役割が課せられている。


98年答申について。「ゆとり」という言葉は学校週5日制を実施へのスローガン的な役回りだったという。

総授業時間数は,68年改訂を基準とすると1割以上減少した。特にいわゆる主要教科の合計時間数は,76年には282時間の減少であったか98年には511時間減と大きく削減されたために,マスコミや「学力低下」論者の批判の的となった。ただし,この主要教科に98年に新設される「総合的な学習の時間」430時間を加えると.減少は81時間に抑えられる。


主要科目(国語・算数・理科・社会)は減ったが、その代わり「総合的学習」が増えたという指摘。要するに教科の名前が変わっただけで、授業時間全体にさほどの変化はない。


学力が低下しているのかというものを測る調査は4つ存在している。

  1. 文部省「教育課程実施状況に関する総合的調査研究」
  2. 国立教育研究所「理数調査」
  3. 国際到達度評価学会「国際数学・理科教育調査」
  4. 澤田利夫・東京理科大数授ら「学力低下の実態とその対策に関する実証的究」

 これらのデータが示す「学力」の実態を一言で言い表すならば,「やや低下しているといえる場合もある」となろう。たとえば(1)の1996年中学理科の結果については.「共通問題19間中,正答率の低下した問題は8問,上昇した問題は3間,変化なしが8問と,低下した問題のはうが目立つ」,(苅谷 2000)と指摘されている。また(2)では,中学の数学・理科および高校の数学について,89年と95年の問で平均正答率が5ポイント程度低下している。(3)では,1999年時点でも日本の中学生は38カ国中数学は5位,理料は4位と好成績を維持している。そして(4)では.小学校算数の平均正答率は82年68.9%→2000年57.5%と低下しているが,中学校数学は83年66.0%→2000年69.5%と低下傾向はみられない。


先日取り上げた「TIMSS2003」というのは、(3)国際到達度評価学会(IEA)が実施した「国際数学・理科教育調査」のことである。TIMSSは2003年度調査で初めて学力の推移を確認することが出来る(ただし中2に関してTIMSS1999でも可)。本田論文の書かれたのが2002年でTIMSS2003の結果が公表されたのは2004年の暮れであったため、本田論文ではTIMSSの学力推移については言及することは時期的に不可能だったと言えよう。TIMSS2003では先日のエントリでも述べたように調査学年調査科目すべてにおいて「学力は低下していない」*1ということが確認ができている。


社会調査というのは規模や方法によって結果が異なってでてくるものである。また同じ調査の中でも、上がっている部分もあれば下がっている部分もある。下がっている結果を出している調査だけ、下がっている部分だけを取り出して学力が低下していると言うのはフェアではない。
これはもちろん本田由紀氏への不満ではなく、学力低下論者たちへの不満である。

*1:正確には国際順位は変化がない