井出草平の研究ノート

生まれる前に介入できるから

精神科は、状況がこじれにこじれて、本人や家族が多くの資源を喪失した後に介入することが多い。ひきこもる男性を"最後に"引き受ける精神科医を増やすのではなく、ハイリスク家族/ハイリスク児/ハイリスク者に早期介入する方が安価なのではないかと思う。(中略)産科はとりわけ重要だ。何故なら対象が生まれる前に介入できるから。
http://d.hatena.ne.jp/hotsuma/20060713#p2


優生学につながるという批判が飛んできそうなエントリだけども、それはおそらく確信犯的に書かれていると思うので置いておき、問題はコストと倫理の折り合いをどこでつけるかというあたりではないかと思う。社会の中で「病気」と社会的に分類されにくい状態のもの*1に対して医療が介入する場合に、必ず倫理的な問題が持ち上がる。


例えば、社会生活に支障を来すレベルの「障害」を持った子供を出産することは、家族にとっても、国家にとっても負担増を意味する。コスト面で考えるならば、産科の段階で介入することになるが、倫理的に許されるものとはされていない。一方で、コスト面を無視すると、必要なところに必要なレベルの医療サービスを提供することが難しくなってくる。すべてのものを医療化してサービスの対象にしてしまうと、人員が足りない、金が足りないという事態になり、結局のところ、利用者の首を絞めることになる。


今のところ「ひきこもり」に対して早期の医療による介入が積極的に行われているわけではないし、介入に必要な社会的な合意もないように思われる。医療が早期介入をするとコストが安くなるとしても、その介入を社会がどの程度まで認めるかという問題になる。


「ひきこもり」を生み出すリスクファクターである「不登校」の問題だとスクール・カウンセラーの配置がある。ただ、これは心理学化といった方が適当か。また、教育制度を含めた学校教育の段階で早期の介入は出来る。もちろん臨床心理士の配置にも、教育者の配置にも金はかかる。

*1:医者が診断名をつけられないものではなく