井上洋一「摂食障害の理解と対応」


摂食障害の理解と対応―現代の思春期女性 (心の医学新書)

摂食障害の理解と対応―現代の思春期女性 (心の医学新書)


神経性無食欲症患者はどのくらいの数がいるのか、スウェーデンで行われた調査を見てみましょう。都会の都市Göteborgにおける調査によると、15歳の女子学生の間では、神経性無食欲症の有病率が0・7%と報告されています。1000人中7人、つまり約140人に1人の割合になります。この数字を見ると、神経性無食欲症は若い女性の間では決して珍しくない、日常的に見かける病気になっていると考えられます。


スウェーデンの論文は以下。

M Rastam, C Gillberg and M Garton,
Anorexia nervosa in a Swedish urban region. A population-based study,
The British Journal of Psychiatry 155: 642-646 (1989).
http://bjp.rcpsych.org/cgi/content/abstract/155/5/642


井上氏がいう0.7%という数字はアブストラクトにはないが、0.84%のうちの0.85%がDSMの診断基準に当てはまるというところから来ているのではないかと思われる。この調査はGöteborgという都市で成長曲線(growth chart)と学校での健康診断データ?(individual school nurse report)を使って発生頻度を調べているので暗数は少ないのではないかと考えられるが、21年前の1985年の調査であることも考慮しなくてはいけない。20年前よりも摂食障害の当事者数はかなり増えているはずである。

ダイエットしているうちに症状が出現し、症状が続いているうちに、症状が固定してしまったのです。あるいは、意図的なダイエットはなく、何となく食べられなくなり、やがて慢性化した患者もいます。いずれの場合にも痩せている自分を心のどこかで肯定しています。

ダイエットについて患者に話を聞くと、意外な答えが返ってきます。体重が減っていくときのことを、「食べないで我慢することがとても苦しかった」と言う人はいません。逆に「すごく充実していた時期だった」と多くの患者は語ります。体重が次第に減って、自分がスリムな身体に変身していく体験は、特別の満足感と充実感を患者に与えるようです。自分の身体が、理想的な体型に向かって変化していく有様を毎日観察することができます。それは本当にワクワクするすばらしい体験として感じられるそうです。
多くのクラスメートが「自分は太っている、痩せたい」と言っている中で、自分だけが痩せていくこと、それは他の生徒を引き離して一歩抜きん出ることになります。スリムな身体に変身して、クラスメートに差をつけることができるのです。そのとき、彼女たちは自分の価値を確認することができます。自分は他人より優れていると感じて、自分に自信を持つことができるのです。途中で投げ出さずにやり通している自分の意思の強さにも誇りと自信が生まれます。つまり痩せることによって得られる「報酬」は単なる容姿の美醜の領域だけに留まりません。それと同じくらい重要な、あるいはもっと重要なものを得ることができるように思えるのです。それは、自分の価値に関わる事柄です。


このこととも関わるが、一般的に拒食症(無制限型)の自尊感情は高い。(参照)
直接、研究があるのかは知らないが「ひきこもり」の自尊感情摂食障害に比べて低いはずである。この辺りの差異に注目してみる必要があるような気がする。

適度な食事、適度な体重という状態を思い描くことができません。拒食でもなく過食でもない中間の状態に自分を保つことはできないと考えています。痩せるのか太るのかの二つの通しか自分の前には見えません。患者は自分が獲得した価値を守るために、そして太ることへの恐怖から逃れるために、魔法を手放す訳には行かないのです。ひたすらカロリーを制限しようと努力し続けます。


「魔法」という表現が非常に的確。

筆者は52名の神経性無食欲症患者を三つのタイプに分けました。優等生タイプ、密着タイプ、孤立タイプの三つです。それぞれの割合は優等生タイプ26名(50%)、密着タイプ13名(25%)、孤立タイプ13名(25%)でした。以下にそれぞれのタイプについて説明します。


優等生タイプというのはここでいう「classcial type」に相当するものだろう。

優等生タイプには第1子が多いという傾向が認められたのです。優等生タイプでは第1子が60%で、第2子36%、第3子0%、第4子4%で、圧倒的に第1子が多いという結果でした。


第1子が多いという指摘。

思春期の子どもを持つ家庭であれば、どこの家庭でも親子関係には苦労し、悩みもあります。親子関係の問題については、神経性無食欲症の子どもがいる家庭と一般の家庭とに違いがあるというデータはありません。家族関係そのものを病因と決めつけることは間違いです。


家族原因論をひとまず否定。このあたりの否定度合いは「ひきこもり」によく似ている。どちらも、家族が原因で「ひきこもり」や摂食障害になっている場合もあるが、そのことを一般化できる訳ではない。


以下は対応策について

母親には四つの点に注意してもらうようにアドバイスしました。
①食事については原則として本人に任せて口出しをしない。
②食事のことで一喜一憂しない。普通の態度で接する。
③本人が頼ってきたり、甘えてきたりしたら拒否せずに受け止める。
④本人が親に対して批判的なことを言ったり、怒ったりしても、反論したり説得したりするのではなく、それは本人の自己主張であると考えて、落ち着いて耳を傾ける。
 母親へのアドバイスは、もっぱら神経性無食欲症を慢性化する要因を除去すること、患者の発達を促進する働きかけをすることに重点を置いた内容になっています。

食物を口に運び、飲み込むことは本人に帰属する行為であり、最終的に他人が手出しすることができない問題です。原則として「食べることはあなたの問題だからあなたに任せる」と言うしかないことを親は認めざるを得ません。子どもといえども親の力の及ばない領域があるということを親は受け入れることが必要です。その事実を認めずに子どもと争ったとしても、子どもに勝つことはできないのです。


ここで気になるのは摂食障害の死亡率である。事例性での死亡率である7%という数字を摂食障害一般(疾病性)かのように言う人が多々いるが、このことに弊害はないのだろうか。親としては子供が7%の確率で死んでしまうと聞けば、どうしても食べさせようと思うだろう。そのような親の子を思う気持ちは「食事を巡る親子間の争い」行動につながる。親の思いとは裏腹に、食事を巡る争いは良い結果を生まない。
治療を受けさせようと摂食障害のリスクを誇大広告したり、なんとか食べさせようとすることは、反治療的な結果を生むのではないだろうか。正確な情報が存在し提供されることがもっとも治療的なように思う。


W子が真面目すぎるのが駄目なのでしょうか。問題はW子の考え方にあるのでしょうか。W子が考え方を変えればすべては解決する問題であると言ってよいのでしょうか。そうではないように思います。W子の考え方は決して特殊ではなく、現代社会一般の考えと同じです。W子の目標や生活態度は、周囲の大人から与えられたものでした。W子は大人の価値観を素直に取り入れています。大人は誰もW子にのんびりしなさいとは言いませんでした。W子の態度が模範的であると考えていたのです。W子の生き方は決してW子だけに見られた特殊なものではなく、社会の価値観を受け入れて適応しようとする意欲的なものでした。


摂食障害の個々の事例にあたった時のなんとも言えない悔しさのようなものはここに集約されているような気がする。


論文類

  • 井上洋一:anorixia Nervosaの臨床精神病理学的研究-発達論的視点による類型化の試み-.大阪大学医学雑誌 50 : 1-20, 1998.(生命図)
  • 井上洋一,北村陽英:長年にわたって食品窃盗を繰り返した一男子摂食障割列-食べることへの罪悪感について.臨床精神病理 12 : 275-282, 1991.(生命図)
  • 井上洋一:成熟と時代背景 -摂食障害を中心に-思春期青年期精神医学 4 : 84-88, 1994(Webcat)
  • 井上洋一、永田一郎、小川朝生:スチューデント・アパシー症例における攻撃性の意義.−青年期後期の病理と治療について.臨床精神医学 vol31:211-219, 2002(生命図)

http://read.jst.go.jp/ddbs/plsql/KKN_14_2?code=0292008004


大学に行かなきゃ。でも、身体が動かない・・・早く健康にならなきゃ。