井出草平の研究ノート

水田一郎「摂食障害とひきこもりの関連についての研究」

水田一郎(分担研究者)・研究協力者(木下朋子),2006,
「摂食障害とひきこもりの関連についての研究」,
『厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書』.

ひきこもり経験の有無として、「あなたはこれまでに、世間一般で言われているようなひきこもりの経験がありますか」という質問に対し、「ある」と答えた人は17名(44%)であった。


「世間一般で言われているような」という質問文は良いのか悪いのか。やはり基準を決めた方が良いような気はする。

また、「これまでにひきこもりの状態であった期間を合計するとどのくらいの期間ですか」という質問に対する回答は、平均1.3年(範囲:1カ月〜17年)と、期間には大きな幅がみられた。
ひきこもりと摂食障害の発現順序を把握することを目的とした「ひきこもりと摂食障害のどちらが早く始まりましたか」という質問に対しては摂食障害の方が早く始まったと回答する者の割合が高く(70%)、ひきこもりの方が早かったと回答した者(18%)と、ほぼ同時期であったと回答した者(12%)をあわせても約3割であった。


ひきこもりより摂食障害の方が早く始まった人が多い。
従って、7割は精神障害摂食障害)を原因にした「社会的ひきこもり」であり、残りの3割が精神障害を原因にしない可能性のある「ひきこもり」だと考えられる。

関連する記述的特徴および精神疾患 体重減少が深刻になると,神経性無食欲症の人達の多数は,抑うつ気分,社会的引きこもり,苛立ち,不眠,性的関心の減退などの抑うつ症状を呈する.


ただ、この「社会的ひきこもり」と「ひきこもり」は違ったものとして考えた方が良い。このブログで「ひきこもり」と表記しているものと、摂食障害に併発する「社会的ひきこもり」は別のものである。「ひきこもり」は医学的にはひきこもり関連性障害」(斎藤環)と表現することになるものであり、社会学的には社会関係が断絶し、社会的行為を喪失したものとなる。そして、理念型としては男性である。一方、摂食障害に付随する「社会的ひきこもり」は比喩的に言うならば「"摂食障害"関連障害」の一つとしての「社会的ひきこもり」であり、理念型としては女性である。



摂食障害」患者の「ひきこもり」経験率について。

経験があると回答していた(100%)。また関連エピソードのいずれかが6カ月以上続いた者も16名(94%)と、非常に高い割合を示した。一方、ひきこもしり経験がないと答えた22名においても、関連エピソードのいずれかを経験したと答えた者は19名(86%)と高く、そのうち関連エピソードのいずれかが6カ月以上続いたと答えた者も17名(77%)と高い割合を示した。

「ひきこもり」と「摂食障害」の関連を論じた研究は古くから存在している。

第一に,ひきこもりと摂食障害の関連が深いという指摘は、これまでにも、しばしばなされている(Takei et al., 1989; Toro etal. 1995; 二宮・他, 1999; Hagan et al., 2000; 舘2000; 岡本・他, 2000;斉藤[環】, 2002;安島・他;2004)が,両者を媒介するメカニズムは,未だによく分かっていない。このメカニズムを明らかにするということがある。第二に,男子におけるひきこもりに対応するものとして,女子における摂食障害を考える立場がある(笠原1977;衣笠2001;斉藤〔環〕,2003)。ひきこもりの多くが男性であるのに対し,摂食障害の殆どは女性である。また,この両者はともに,比較的最近、 1980年代以降になって急激た増えてきているという指摘もある。成熟という困難な課題に直面した青年達が示す反応は,男女間で様式が異なり、男性における困難はひきこもりという形をとりやすいのに対して、女性における困難は摂食障害という形をとりやすいという主張が的を射たものであるとするなら、女子の摂食障害を研究することによって男子のひきこもりのメカニズムの一端を明らかにできる可能性があると考えられる。

摂食障害とひきこもり状態は深い関連があると指摘する。

今回の対象のうち「ひきこもり経験がある」と答えた人は17名(44%)に上った。また、「ひきこもり経験がない」と答えた22名においても、ひきこもり関連エピソード(「学校に行けない」、「家から出られない」、「友人と付き合えない」、「家族と話せない」、「先生・職場の人・クラスメートと付き合えない」)のいずれかを経験した者は19名(86%)、そのうち関連エピソードのいずれかが6カ月以上続いた者も17名(77%)と高い割合を示した。この結果は、これまでにも指摘されている摂食障害とひきこもりの深い関連を、改めて強く支持するものであった。

発症前や、発症後であっても、たとえば、いわゆる“拒食期”には十分な活動性が保たれ就労が可能であった患者が、”過食期”には、うつ気分や自尊心の低下などに伴い、ひきこもりがちになるということは臨床場面ではよく経験されるところであるし、今回の結果、そのような事態を反映したものであるのかもしれない。


よくある経路なので考慮すべきであろう。

次年度以降は、対象者数を増やし、摂食障害の類型別、ひきこもりの有無別、年齢別、時期別など、様々な角度から、摂食障害とひきこもりの関連について検討を行っていきたい。


次年度も期待したい。