太刀川弘和「摂食障害患者におけるアレキシサイミア傾向」

太刀川弘和・畑中公孝・山口直美ほか,2005, 
「摂食障害患者におけるアレキシサイミア傾向--Tronto Alexithymia Scale短縮版(TAS-20)を用いた検討」
『臨床精神医学』 34(6),805〜811


「アレキシサイミア」と「摂食障害」の論文。
アレキシサイミアについて過去にエントリしたものはこちら。


「アレキシサイミア」は4つの要素(1感情の識別、2感情の表現、3白昼夢、4外面性志向)があるが、ここで重要となるのは1と2である。

摂食障害患者群は正常対照群に比して有意にAx傾向が高かった TAS-20の総得点,第1因子,第2因子の得点が患者群で有意に高得点であった。

第1因子とは「感情の識別」*1、第2因子とは「感情の表現」*2のことである。

Bruchは,神経性軽食欲症の心理的特性の1つとして,身体の内部に起こってくる空腹感や満腹感,栄養不足のため起きる疲労感や脱力感を正確に知覚することが困難であること,自らの感情に困惑して感情を言い表せないことを指摘している。


該当の論文は以下。

またDavisらは,神経性過食症ではストレスに対する反応として過食や曜吐を生じるが,不快な感情と食行動の異常との関係を本人は認識できていないと述べている。


該当の論文は以下。


この不快感情と摂食行動の関連性に気づかない傾向にあるということから、摂食障害であるにもかかわらず、それに気づいていないという場合も多々あると考えられる。

 TASによるAx傾向trait markerかstate markerかについては議論があり,先に述べた抑うつの影響についても考慮する必要がある。特に摂食障害については Schmidt, de Groot, Sextonらが,治療前後におけるAx傾向の変化について報告している。
 まずSchmidtらはBN患者に対してfluvoxamineを用いた薬物療法を行い,過食,嘔吐などの臨床症状は改善しているにもかかわらず, TASの得点に変化はなく, BN群におけるAx傾向はtrait markerではないかと考察している。
 一方GrootはBNの入院患者に対して集団精神療法を中心とした治療プログラムを実施し,治療により過食,嘔吐が治まった患者群でのみ, TASの得点が治療前後で改善していたと報告している。さらにSextonらはAN-R, AN-B/P, BN-Pを摂食障害専門病棟で治療した結果, TASの総得点はいずれの病型においても治療前後で有意に低下したと報告している。これらは,摂食障害の改善とともに,当初認められていたTAS得点,つまりAx傾向がstate markerである可能性を示唆している。


trait markerとstate markerというテクニカルタームが理解できない。文脈からある程度類推することは出来るが。辞書を引いてこなければ。trait markerってのはこれのことだろうか?

摂食障害の病型ごとにAx(筆者注:アノレキシア)傾向を比較検討したところ,病型間でTAS-20総得点と下位因子において有意な差は認められなかった。


ここでいう病型とは拒食症無排出型・過食症排出型などのこと。摂食障害カテゴリーは総じてアノレキシア傾向が見られるということになろう。


私見ではあるが,Ax傾向とは,その傾向がある程度強い症例に対しては感情表出を促すアプローチを取り入れるなど,むしろ治療上有益な視座を提供する概念と思われる。


自分自身の問題を同定して、つらい気持ちを口に出すことはメンタルヘルスにとって不可欠な作業だ。愚痴るということで気が晴れるのは、愚痴ることによって自身の免責と問題の対象化ができるからである。もし、それらの作業をしないと、心身症という状況に陥るというのがアレキシサイミアというものの根本にある考え方だ。


摂食障害という症状が悪いものだとは思わないが、もし状態(症状なあらず)が改善するのに越したことはない。症状を止めることを主眼に置いた方法(例えば制限行動療法など)であると、根本的な解決が得られるようには思えない。摂食障害の根本は症状にはない。結局の所、症状がまた出てきたり、他の依存症に移行することになりがちだ。


アレキシサイミアの概念に依って、感情の同定と表現をすることによって劇的な改善はおそらく望めないだろうが、長期的にその2つの作業をやり続けることはやって損はないと個人的には思う。



アレキシサイミアと摂食障害関係の論文

*1:Factor 1. Difficulty identifying feelings
1. I am often confused about what emotion I am feeling
3. I have physical sensations that even doctors don't understand
6. When I am upset, I don't know if I am sad, frightened, or angry
7. I am often puzzled by sensations in my body
9. I have feelings that I can't quite identify
13. I don't know what's going on inside me
14. I often don't know why I am angry

*2:Factor 2. Difficulty describing feelings
2. It is difficult for me to find the right words for my feelings
4. I am able to describe my feelings easily
11. I find it hard to describe how I feel about people
12. People tell me to describe my feelings more
17. It is difficult for me to reveal my innermost feelings, even to close friends