澤本良子ほか「万引きまたは盗食歴を有する神経性食欲不振症患者の心理特性」

澤本良子・野崎剛弘・河合宏美・是枝千賀子・高倉修・西方宏昭・河合啓介・瀧井正人・久保千春,2003,
「万引きまたは盗食歴を有する神経性食欲不振症患者の心理特性 : 入院患者での検討」
『心身医学』 43(11),765-773.


要旨

AN患者の中でも,万引き・盗食行為を起こした患者では,より重い精神病理を認めた.特に, MMPIの「軽躁病」, 「敵意の過統制」の尺度はAN患者の万引き・盗食行為の危険因子と考えられた.摂食障害に伴う食べ物への執着に,「軽躁病」, 「敵意の過統制」に伴う衝動性が加わって,万引き・盗食行為が引き起こされると考えられた.


この論文は、過食症(神経性大食症)ではなく、過食を伴った拒食症(神経性無食欲症)の心理特性について述べたものである。

これまでの報告では摂食障害患者の万引き・窃盗は,過食を伴うサブグループに多いという点で一致している.


これまでの報告というのは以下。


2つめ(Krahn et al.)より引用。

Overall, the patients with a history of stealing had significantly more dysfunctional eating and purging behavior.


万引きの前歴がある摂食障害患者は異常な摂食行動、パージング(嘔吐・下剤)などと関連がある、とのこと。


3つめ(Baum)より引用

Stealing appears to be strongly associated with bulimic symptoms in patients with eating disorders


窃盗は過食症と強い関連性を見せる、とのこと。


澤本論文に戻って、この論文の結果を見ると、

x2検定の結果, bulimic typeと万引き・盗食行為には関連性が認められた(x2=-4.45, p=0.029).


やはり過食症との関連が示されるが、以下のように結果は出ている。

患者に発生するとしている・われわれの対象群においても「一日中食べ物のことばかり考えている」という発言が多く認められた.さらに,Mitchellらは, bulimic typeの摂食障害患者と過食歴のない者(摂食障害患者ではない者)の万引きのパターンには差があり,摂食障害患者の万引きでは盗みの対象は食べ物が多く,過食のための行為として行われるとしている.われわれの対象群においても,盗みの対象は全例が食べ物を含んでいた.これらのことから,摂食障害患者の万引き・窃盗行為においては,食べ物への執着が関連していると推測される.また入院中,他の患者から盗んだ者が高率にみられたことは,食べ物が手近で容易に得ることができることも関係していると考えられた.


過食をする人が万引きなどをするのは「食べ物」を求めるため。確かに食べた後吐くだけなので、わざわざ買うのはもったいない気がするし、やはり普通に買ってたら月10万円の食費などになってしまうという理由もあるのだろう。

またCase 7でみられた物をため込む行為(hoarding)は強迫的行為の1つであり,自分の回りに食べ物その他の物を置いて安心を得たいことから,窃盗行為に走った可能件もある。


親の注意を引くため云々という説明もあるので、そちらもチェックしておかなければ。


Mitchellらの論文は以下。

Bulimic shoplifters often stole food, but usually also stole other items.


食べ物を万引きするが、通常、その他のものも盗むこともあるとなっている。
この論文は非常に興味深い。生命には無し。


 摂食障害患者の万引き・窃盗行為は, BN患者やANのbulimic typeに多いといわれている.今回われわれは, AN患者のみについて検討した.万引き・盗食行為をする者には,確かにbulimic typeが多くEDIの過食のサブスケールも有意に高かったが, 「過食」の存在はAN患者の万引き・盗食行為に独立して影響を与える危険因子とはならなかった.われわれの結果では, MMPIの尺度の「軽躁病」と「敵意の過統制」が, AN患者の万引き・盗食行為に独立して影響を与える因子であった.すなわち,この2つの尺度は, AN患者の中でも万引き・盗食歴のある者に関連のある精神病理であることを示唆する.


拒食症の中では、「過食」という行動が効いているのではなく、「軽躁病」と「敵意の過統制」が要因として上がるようだ。


その他興味深い記述。

 実際に万引き・盗食行為が生じた時の対処としては,個々のケースにもよるが,原則として自分の行ったことの意味をしっかり言語化させ,経緯を正直にレポートに書いてもらったうえで,責任を取ってもらう(相手に謝罪する,弁償する).そうした対応を契機に治療への抵抗が解け,治療が進む場合が多い.しかし,反省の色に乏しく,再度繰り返したり行動変容が期待できないようであれば,むしろ退院させることで(場合によっては警察に届けることも含めて)自らの行為の責任を誰にでもわかる形で取らせたほうが,長い目でみたら治療的であり教育的であると考える.

Schottkyは, 「家庭内での食品の盗みは圧倒的もこ食衝動として理解できるが,店での食品,小物の万引きは衝動的ではあるがその象徴性が示唆される」と述べている.