近藤直司・岩崎弘子・小林真理子・宮沢久江・藤井康男・宮田量治,2006, 「ひきこもりの個人精神病理と治療的観点についての研究」 『厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)総括研究報告書 思春期・青年期の「ひきこもり」に関する精神医学的研究』
この論文で言われている「社会的ひきこもり」は、DSMの言う「社会的ひきこもり」である。斎藤環の言う「社会的ひきこもり」(精神障害を原因としない)であったり、このブログがいう「ひきこもり」とは異なる。「ひきこもり」という言葉をどのような意味で使用しているのかというのは注意してよむ必要がある。
研究要旨
初年度にあたる平成17年度は、青年期ひきこもリケースの精神医学的診断について検討した。対象となった24例をDSM−Ⅳに準拠して診断した結果、精神遅滞や広汎性発達障害など、『通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害』が13例、『統合失調症及びその他の精神障害』が3例、『不安障害』が8例、『パーソナリティ障害(傾向)』が3例であった。診断に必要な情報が十分に得られなかったため、3例が診断保留となった。対象ケースの中には、鑑別診断が困難なものや、刺激を回避した状態が長期化し、症状が把握しにくくなっているもの、青年期になって初めて診断される発達障菖のケースも認められた。次年度以降は、有効な治療・援助、特に精神・心理療法の指針について検討したい。
保健所に相談があったもののうち「社会的ひきこもり」(精神障害を原因とするものを含む)に対して精神医学的診断したもの。
要旨に書いてあるものは重複(1人で複数の症状が見られる)ので、数え直すと以下のようになる。
統合失調症……2 神経症・精神病(統合失調除く)……7 発達障害……13 未診断……3
対象ケース24件に付与されたⅠ軸、Ⅱ軸診断は別表1のとおりであった(重複診断あり〉。
Ⅳ軸診断としては、「本人の自立を促進できないような混乱した家族状況」が多く、V軸(GAF)は24例の平均が40.1であった。
V軸(GAF:Global Assessment Functioning)*1の平均は40.1。
表1
年齢 | 性別 | Ⅰ軸、Ⅱ軸診断 | Ⅳ軸診断 | Ⅴ軸診断 | |
1 | 10代後半 | 女 | 中度精神遅滞、選択性綬黙、適応障害(不安と抑うつ気分の混合を伴うもの) | 学校・家庭で障害を踏まえた対応の不足 | 41 |
2 | 10代後半 | 女 | 軽度精神遅滞、適応障害(不安と抑うつ気分の混合を伴うもの、慢性) | 一次支持グループに関する開通(母親の養育不偏)、教育上の問題(学校でのいじめ)、その他の心理社会的環境的問題(障害者として扱われることの本人の抵抗感) | 38 |
3 | 10代後半 | 男 | 軽度精神遅滞、パニック障害の既往歴のない広場恐怖 | 教育上の問題(能力に見合った適切な環境の未提供、いじめ) | 30 |
4 | 30代前半 | 男 | アスペルガ一障害 | 特記事項なし | 45 |
5 | 20代後半 | 男 | アスペルガー障害 | 特記事項なし | 38 |
6 | 20代後半 | 男 | アスペルガ一障害 | 特記事項なし | 41 |
7 | 30代前半 | 男 | アスペルガ一障害、強迫性障害、特定不能の不安障害 | 一次支持グループに関する問題(両親の過剰な服従的傾向) | 20 |
8 | 20代前半 | 男 | アスペルガ一障害 | 特記事項なし | 48 |
9 | 20代後半 | 男. | アスペルガ一障害、社会恐怖、特定不能の身体表現性障害 | 特記事項なし | 43 |
10 | 20代前半 | 男 | 特定不能の広汎性発達障害 | 特記事項なし | 42 |
11 | 10代後半 | 男 | 特定不能の広汎性発達障害 | 特記事項なし | 30 |
12 | 20代前半 | 男 | 特定不能の広汎性発達障害、社会恐怖 | 特記事項なし | 45 |
13 | 20代前半 | 男 | 統合失調症(緊張型) | 特記事項なし | 23 |
14 | 30代前半 | 女 | 統合失調症(残遺型の疑) | 一次支持グループに関する問題(親の過保護) | 51 |
15 | 30代前半 | 男 | 妄想性障害、強迫性障害 | 教育上の問題(主に家族の意思による能力以上の進路選択) | 48 |
16 | 20代後半 | 男 | 双極性障害の疑い、社会恐怖 | 情報不充分 | 情報不充分 |
17 | 20代後半 | 男 | 強迫性障害、自己愛パーソナリティ傾向 | 一次支持グループに関する問題(親の過保護、父親のアルコール問題) | 51 |
18 | 20代前半 | 男 | 特定不能の身体表現性障害、同一性の問題 | 一次支持グループに関する問題(養育環境の著しい不備)、保健機関利用上の問題(介入・支援の遅れ) | 45 |
19 | 10代後半 | 女 | 適応障害(不安と抑うつ気分の混合を伴うもの) | 情報不充分 | 情報不充分 |
20 | 30代前半 | 男 | 回避性パーソナリティ障害 ■ | 一次支持グループに関する問題(離婚・親の過保護) | 51 |
21 | 20代前半 | 男 | 回避性パーソナリティ障害、特定不能の身体表現性障害 | 一次支持グループに関する問題(子どもの自立を促すことができない混乱した家族状況) | 41 |
22 | 30代前半 | 男 | 不明 | 情報不充分 | 情報不充分 |
23 | 10代後半 | 女 | 不明(統合失調症の疑い) | 情報不充分 | 情報不充分 |
24 | 20代前半 | 男 | 不明(広汎性発達障害の疑い) | 特記事項なし | 31 |
ave.40.1 |
(3)刺激を回避した状態にある身体表現性障害・不安障害について
ひきこもりの原因となっている精神・神経症症状が目立たなかったが、家族や知人から就労を強制されるなど、強引とも思えるような周囲の働きかけの結果、初めて身体表現性障害や不安障害が確認されたケースがあった。
登校刺激・就労刺激がマイナスに働いたケース。
基本「待つ」という姿勢が必要だ。
*1:患者が日常生活をじれだけ快適に送れているかという尺度。0が死亡を意味し、100が精神的に完全な健康を示す