井出草平の研究ノート

牧野有可里「社会病理としての摂食障害」

牧野有可里,2003,
「社会病理としての摂食障害----高校生をとりまく痩せ志向文化---」
『心理学とジェンダー―学習と研究のために』有斐閣


10月に出版された『社会病理としての摂食障害』関連。
http://d.hatena.ne.jp/iDES/20061014/1160818774


著者である牧野有可里氏が以前に書いた同名の論文。所収は以下の本。きっちり隅から隅まで読んだわけではないが、この本は牧野論文はじめいろいろと面白い論文が載っている。時間があれば読んでみたい。


心理学とジェンダー―学習と研究のために

心理学とジェンダー―学習と研究のために


牧野有可里でデータベースを検索しても何も出てこなかったのは、苗字が田中から牧野に変わったためらしい。田中有可里だと論文が2つひっかかる。


この論文の結論は以下のものだ。

本研究でも,「痩せ志向文化」に賛同し,それが「痩せ願望」と結び付くと食事行動に変調をきたすことが示唆された。現在のダイエット・ブームやその広告,そしてテレビ番組などは,単に「痩せ志向文化」を伝えるのではなく,直接的に「痩せ願望」そのものを煽っているといえるであろう。女性が気軽に始めたダイエットがやがて抜き差しならない状態に移行し,そして,EDを発症させる。これがEDのほとんどが女性であるという事実を説明するであろう。


尤もな結論。ちなみにEDはEating Disorderの略。<調査協力者>

東京都内の14高校の1-3年生男女3,475名(女子1,477名,男子1,998名)に,高校を通して質問紙調査を配布した。調査は無記名で実施し(1998年),有効な2,612名(女子1,190名,男子1,422名)の回答を分析した。なお,回答者の平均年齢は,男子16.11歳(SD=.93),女子16.17歳(SD=.88)であった。


<調査の内容>

1.痩せ志向文化尺度
 痩せ志向文化への同調の程度を測定するための尺度を作成した。これは,女性雑誌,ダイエットや美容関連の広告・記事,先行研究の中で語られたED患者の言葉を参考にして選んだ9項目からなるもので,項目を表に示した。


この指標は牧野独自のものらしい。詳細はよく分からないが、以下の論文に載っているのではないだろうかと思われる。

  • 田中(牧野)有可里 2001 摂食障害に対する痩せ志向文化の影響 力ウンセリング研究, 34(1), 69-81.
  • 田中(牧野)有可里 2002 高校生における食行動異常と痩せ願望 カウンセリング研究, 34(3), 300-310.

2.痩せ願望尺度
 個人の痩せ願望を測定するために, Garnerらの"Drive for thinness I Eating disorders inventoryを北川(1986)が翻訳した尺度を使用した。この尺度は「私は食事制限を考えている」 「私は体重が増えることを恐


尺度に関しては、以下の論文。

  • Garner, D. M., et al. 1982 1he Eating Attitude Test : Psychometric features and clinical correlates. Psychological Medicine, 12, 871.
  • 北川俶子1986 神経性食欲(思)不振症 日本人の特定グループにおけるEDIの比較 共立女子大学家政学部紀要, 32, 55-64.


EDIについてはまだちゃんと調べていない。

3.摂食態度調査
Garnerら(1982)の"Eatiilg Attitude Test,の縮小版であるEAT-26を末松らが邦訳したもので,摂食態度の歪みを測定する尺度である。この調査は, EDの疫学的研究をはじめ, EDについての多くの研究や臨床の現場で広く用いられているものである。


このブログでも何度かエントリに現れているおなじみの指標。
http://d.hatena.ne.jp/iDES/20060518/1147916980
http://d.hatena.ne.jp/iDES/20060521/1148203958
http://d.hatena.ne.jp/iDES/20060522/1148256340

  • 末松弘行・高野晶・久保木富房・吹野治・北川淑子・藤田利治1986 摂食態度調査表(EAT)縮小版の有用性について 厚生省特定疾患・神経性食思不振症調査研究班 昭和60年度研究報告表, 30.

1.高校生男女が痩せ志向文化に同調する程度
「女性の痩身」への賛同と「男性の痩身」への賛同の程度について比較したところ,男女ともに, 「女性の痩身」文化により賛同していることがわかった(女子:t(1189)=23.32:男子:t(1421)=16.05,いずれもp<.01)。なお,項目別に見ると表に示したように, 「女子の痩身」については,女子は項目3, 5, 7のダイエットの肯定や洋服と痩身の関係についての平均値が高いが,男子では項目6, 8など痩身と恋人や幸福とを結び付けているなどの差異が注目される

 2.痩せ志向文化への賛同と痩せ願望およびED傾向との関連
Higll-Low群間の「痩せ願望」および「ED傾向」の平均値の差を検定したところ,男女とも1%以下の水準で,痩せ志向文化への賛同の程度が高い者ほど「痩せ願望」および「ED傾向」が高いことが明らかになった。
 次に,女子の「女性の痩身」文化への賛同の程度と「痩せ願望」および「ED傾向」との相関係数を算出したところ,それぞれの要因間に正の相関が見られた(女性の痩身文化への賛同----痩せ願望: r=.32 ;女性の痩身文化への賛同----ED傾向:r=.27;痩せ願望IED傾向:r=.60,いずれも, pく.01)。また,男子の場合も女子に比べて弱いが同様に有意な相関が見られた(それぞれ,r=.19.08, .50,いずれもp<-0.1)。このように「痩身文化への賛同の程度」と「ED傾向」を「痩せ願望」が媒介していることがわかる。実際, 「痩せ願望」の影響を取り除くと, 「痩身文化への賛同の程度」と「ED傾向」の相関は有意ではなくなった(女子では.11,男子では-.01)。