井出草平の研究ノート

吉田光爾ほか「「社会的ひきこもり」事例における本人と家族の状況に関する調査研究」

吉田光爾・小林清香・野口博文・土屋徹・伊沢玲子,2001,
「「社会的ひきこもり」事例における本人と家族の状況に関する調査研究」
厚生科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業〉研究報告書 平成13年度
『地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究(総括研究報告書)』


ひきこもりガイドラインの策定のためにされた調査のひとつ。

研究目的
 相談機関(東京都多摩地区・横浜市の全14施設に、「社会的ひきこもり(ガイドライン定義)」を主訴として来談、相談魅続中の事例を対象とし、家族にアンケート調査を実施した。

対象
 ガイドラインの定義に基づき作成された基準(表1)に沿い、相談担当者によって『社会的ひきこもり』を主訴に来談している事例と判断されたもの。当該機関での相談期間は問わなかった。


表1「社会的ひきこもり」の定義(抜粋)

自宅を中心とした生活
社会参加活動をしていない、できない
問題発現時期が10代〜20代
精神分裂病、中等度以上の精神発達遅滞は除外


『ひきこもりガイドライン』の「ひきこもり」定義には「発達障害」が含まれるし、精神障害を持つものも含まれる。ただ、


(3)調査測度
①FAD(Family Assesment Deviance)
 「問題解決」「意志疎通」「役割」「情緒的反応」「情緒的関与」「行動統制」の(6つの機能次元から、家族の健康度を評価する。
②GHQ−12(全般的精神健康度)
③対処可能感尺度
 病気や障害などなんらかの困難を抱えた人の家族を対象として作成され、問題解決に向けての目標設定と、それを実現するたぎ)対処期待を測る。「具体化された目標への対処可能感」と「大きな目標に対する対処困難感」の2因子からなる。
④家族困難度
 障害者を支援する家族を対象とした尺度で、本人との共同生活に起因する家族の生活行動障害の程度をはかる。今回は対象の特性を考慮し、「服薬を継続させる困難さ」の項目を削除し、「病状・再発」という表現を「状態」に改訂して用いた。

⑥家族問診表
 家族から見た本人・家族自身の生活を把握する。本人の生活状況に関しては睡眠・食事・会話・活動範囲・他者との交流・家族とのかかわりについて、また、家族の生活状況に関しては、社会的活動などへの影響について尋ねた。
⑥基礎情報
 家族構成や基本属性、現在および過去の本人の状態、ひきこもりの程度などについで、相談担当者が記入した。

(1)社会的ひきこもりの本人の状況本人の基礎属性
 対象となったのは50ケースであった。本人の年齢は15歳〜34歳(平均21.1歳)、男女比は37:11であった。

きょうだい構成
 長子が29.2%、中間子が10.5%、末子が49,8%、ひとりっ子が10.5%であった。

問題発言年齢・継続年数
 発現年齢の平均は18.2歳、継続年数の平均は3.4年であった。なお、継続年数の最大年数は18年であった。

診断が確認されている事例
 対象者のうち担当者が何らかの医学的診断を把握している事例は6ケースであった。それらは主にうつ病・不安神経症強迫神経症・PDDの疑いなどであった。

担当者から見たひきこもり程度
 担当者から見た本人のひきこもりの程度は「社会的活動以外は外出自由(26%)」「条件付で外出可能(55%)」「外出できないが家庭内では自由(15%)」「自重で閉じこもっている(4%)」であった。


 また、医学的診断が確認されている事例は少ないが、強迫的な行為が出現している事例は全体の2割程度と多かった。

研究要旨

 「社会的ひきこもり」を主訴として相談機関に来談し、相談継続中の事例の家族を対象にアンケート調査を実施した。調査の第1の目的は、「社会的ひきこもり」の本人・家族の状況を把握することであったっまた引き続き行われる援助の中での、相談者の負担感や「社会的ひきこもり」状況の変化について、前向きに調査していくためのべースラインとすることを目的とした。
 50名の社会的ひきこもり事例の家族から回答を得た。「社会的ひきこもり」本人の示す行動上の問題では、昼夜逆転・強迫行為などが多いことが重された。家族関係の面では、家族への支配的な言動や家族への拒否的な態度も少なくなかった。また、「社会的ひきこもりjの家族は、家族機能の健康度が低下しており、精神的健康度の低下が見られた。特に、本人の年齢が高い場合、家族との関孫において支配的態度が見られる場合、本人が家族に対して拒否的である場合には家族機能の低下や家族の精神的健康度の抵下が顕著になると考えられた。
 こうしたことから、社会的ひきこもりの家族の負担を軽減するための援助の必要性が確認された。また、本人の示す問題行動や、家族が本人との関係をどのように感じているのかという側面にも注冒しつつ、家族を援助していくことの必要性が示された。