井出草平の研究ノート

生活保護と母子加算


生活保護について。一口に生活保護と言っても、その制度は時代と共に変化してきている。

(1)標準生計費方式(昭和21年〜22年)
(2)マーケットバスケット方式(昭和23年〜35年)
(3)エンゲル方式(昭和36年〜39年)
(4)格差縮小方式(昭和40年〜58年)
(5)水準均衡方式(昭和59年〜現在)


生活保護は必要なパンツの枚数も値段も決められるという不自由なイメージがあるが、これは「マーケットバスケット方式」(最低限の生活を営むために物品を一つ一つ積み上げていく方式)の時の話である。現在の生活保護はこのような形態ではない。


現在は、生活保護は8種の扶助と8種の加算(老齢加算がある時には9種の加算)から成り立っている。今回、廃止されたのは、老齢加算。そして3年で段階的に廃止されるのは母子加算である。


老齢加算

「老齢者は咀嚼力が弱いため、他の年齢層に比し消化吸収がよく良質な食品を必要とするとともに、肉体的条件から暖房費、被服費、保健衛生費等に特別な配慮を必要とし、また、近隣、知人、親戚等への訪問や墓参などの社会的費用が他の年齢層に比し余分に必要となる。」(昭和55年12月中社審生活保護専門分科会中間的取りまとめ)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/s1118-3b6.html


老齢加算は平成15年時点で1万7930円であった。この加算は廃止された。


母子加算

「母子については、配偶者が欠けた状態にある者が児童を養育しなければならないことに対応して、通常以上の労作に伴う増加エネルギーの補填、社会的参加に伴う被服費、片親がいないことにより精神的負担をもつ児童の健全な育成を図るための費用などが余分に必要となる。」(昭和55年12月中社審生活保護専門分科会中間的取りまとめ)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/s1118-3b6.html


平成15年時点で2万3310円であった。これが3年で段階的に廃止に向かう。

 生活保護の受給はここ数年で急増し、昨年度は過去最高の約94万世帯を記録した。約8割は就労の難しい高齢・傷病・障害の世帯だが、約8万の母子世帯では50%が働いている。

 制度の見直しを議論してきた厚労省の専門委員会は、今月末に最終報告書をまとめる。事務局の厚労省は、すでに始まった老齢加算の段階的廃止に続いて、母子加算を縮小する必要性をたびたび強調してきた。「一般の母子世帯の平均収入より保護基準の方が高い」などの理由からだ。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an4b1501.htm


生活保護の適性受給についてJMMから

1980年度の約75万世帯から、1992年度に約59万世帯に減少したものの、その後の経済低迷の影響もあり、2004年度には約100万世帯にまで増加しています。この数字で見ると、生活保護の制度は、かなり大きな規模で所得再配分を行っていることが分かります。(真壁)


生活保護世帯はずっと増加してきたのではなく、92年が谷で、不景気とともに増えてきたようだ。

 本来、生活保護とは全てを失った人々が最後の拠り所とするセーフティーネットであるはずですが、実際には、そのセーフティーネットに身を預けるためには、逆に、持てるもの全てを投げ打つ覚悟が求められ、それが最後の歯止めとなっているという皮肉な状況があります。(金井伸郎)


資産があると生活保護は受けられない。多少なりとも資産があることが生活保護に流れ込むことを阻んでいるという指摘。

1980年度の当該世帯は全体の保護世帯の30.2%でした。その割合は趨勢的に増加傾向を辿っているといわれています。2004年度には、その割合は46.6%と半分弱の水準にまで達しています。この数字を見る限り、老後の生活に困っている世帯が多いということになります。(真壁昭夫)


生活保護受給世帯に占める高齢世帯がここ25年あまりで15%ほど増えている。現在は46.6%。受給者の半数弱は高齢者=年金だけでは生活が出来ない人たちということである。この事から、生活保護世帯の増加は、年金だけでは生きていけないという年金制度の不整備がひとつの大きな要因であることが分かる。

 ただし、公平を期するために付け加えますと、現状では生活保護の受給が著しいモラル・ハザードを引き起こしている状況とは必ずしも言えません。2004年度では、受給世帯のうち、高齢者世帯が46.7%、母子家庭が8.8%、障害者世帯が10.3%、傷病者世帯が24.8%、純粋に経済的困窮が原因と見られるその他世帯が9.4%となっています。(金井伸郎)


働くよりも生活保護の方が良いとみんなが思って、生活保護が増加しているというイメージが流布されているが、それは誤りであることが分かる。

 むしろ、生活保護には「補足率」が低いという問題点が指摘されていることに注意すべきです。補足率とは、要保護者の内、実際に保護を受けている人の比率です。補足率は20−30%に過ぎないという試算もあります。過半の人が受給要件の厳しさや、受給審査時の屈辱感などによって、最低限の保護を受けられていない可能性があるという点は、生活保護の制度を考える上で見逃せない視点でしょう。


 逆に、生活保護が就労意欲を削ぎ、貧困層が滞留してしまうという批判もあります。しかし、受給世帯の内訳をみると、高齢者世帯が40%超、傷病・障害者世帯が40%弱となっており、受給者の約8割が再就労が難しい世帯です。つまり「再チャレンジ」という名の下に、闇雲に歳出カットというムチをふりかざしても、就労支援策にはならない点に注意すべきでしょう。(岡本慎一)


生活保護の実態として「もらえるはずなのにもらっていない人」が多い=「補足率が低い」ということがあるようだ。また、生活保護を切り下げて働くための刺激にしようという目算があるのかもしれないが、実態としては「働けない人」が8割以上を占めているため、「再チャレンジ」には繋がらない。

そもそも、生活保護の決定の裁量権が行政にあること自体問題があると同時に、その支給額においても行政が決めるということに問題があるといえましょう。つまり、生活保護という国民の最後のセーフティネットにおいて、「適正な」という曖昧な言葉で行政が決定権限を持つシステムには問題があり、第三者によるチェックが必要なのではないかと思います。 (津田栄)


行政が支給の是非のチェックをしているところが問題であるという指摘。その通りだと思う。第三者機関による審査が望ましいだろう。


以下は今回の母子加算廃止に関しての津田栄氏の見解

 政府が、膨大な財政赤字を改善するために、ごくわずかな金額である生活保護という社会保障の最後のセーフティネットを一部削減し、自治体も生活保護制度の適用を避けることに対して、一方で、行政が、社会保険庁道路公団、自治体のハコモノなどでも見られるように無駄と非効率で国民の税金や資金を浪費している中にあって、国民の支持は得にくいのではないでしょうか。(津田栄)


今回の削減額は400億円である。少ないと言えば少ないが、このような(予算全体から見ると)かなり少額な削減をするメリットより、生活保護が切りつめられているという情報が広まることの方がデメリットが大きい気はする。