モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会
- 作者: アンソニー・ギデンズ,秋吉美都,安藤太郎,筒井淳也
- 出版社/メーカー: ハーベスト社
- 発売日: 2005/05
- メディア: 単行本
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読書会で読んだ。
ギデンズの著作の中でも難解度は高い。もし、ギデンズを読むのならば『近代とはいかなる時代か? ─モダニティの帰結─』からの方が良いだろう。『親密性の変容』に似た領域を扱っているが、『親密性の変容』は「関係性」に焦点を当ている一方で、『モダニティと自己アイデンティティ』は「自己」に焦点を当てている。類似する記述は散見されるが、同じ内容ではない。
「再帰性」(Reflexivity)という単語の登場は他の著作よりも多い印象を受けた。登場の多くの部分は「自己」との関連性において登場している。「歴史を作り出すために歴史を利用する」という表現に見られるように、自己の語り(セラピーなど)を行うことによって、自己の歴史を言語化し、その自己の歴史から再帰的に自己を作り出す(=歴史を作り出す)のである。
非常に興味がある分野であり、対象とされている現象も興味があるのだが、いまいち興味深いと思えないところがある。欲しいものがそこに見えていて、掴んだ瞬間に別のものであることが分かって、肩すかしを食らうという感じだ。何が違っていて、なぜそう思うかは結局わからなかったが。ギデンズの構造化理論ではマイクロ・マクロ・リンクを超えるべき対象として指定していたが、おそらく、この『モダニティと自己アイデンティティ』でも同じ課題が出されているはずである。言表として語られているわけではないが、「再帰性」という用語がマイクロ・マクロ・リンクのマジックワードとして使われているのはほぼ間違いない。それがどのような形で、どういうメカニズムで使われているのかと言うところまでは、読めなかったので、少し考えなければ。
巻末の用語集より引用。
用語解説(五十音順)
運命決定的なときFateful moments
重大な結果を伴う決定を卜したり、そのような行為を始めなければならない瞬間
外的基準 Extrinsic criteria
モダニティの制度的再帰性に支配されない、社会関係や社会生活に対する影響
解放のポリティクス Emancipatory politics
搾取、不平等、抑圧からの自由をめぐる政治
環境世界(ゴツフマン) Umwelt
個人が潜在的な危険や警報に関して,ルーティーンに「連絡をとる」対象である規象の世界
基本的信頼 Basic trust
早期幼児期の経験から得られる他者の継続惟と対象・世界に対する信頼
経験の隔離 Sequestration of experience
日常生活を、潜在的に不安定な実存的問題を提起するような経験、とりわけ病気、狂気、犯罪、セクシュアリティ、死といった経験との接触と分離すること
コラージュ効果 Collage effect
テキストや電子コミュニケーションのフォーマットのなかに異質な知識や情報を並置すること
時間と空間の分離 Separation of time and space
「空疎な」時間と「空疎な」空間という別々の次元を分離すること。これにより無限の範囲の時間・空間にわたる脱埋込みされた社会関係の明確な表規が可能になる。
自己アイデンティティ Self-identity
個人が自分の生活史に基づいて再帰的に理解する自己
自己の軌跡 Trajectory of the self
モダニティの状況下における個々の生涯の形成。再帰的に組織されたものとしての自己発達は、この形成によって内的準拠的となる傾向がある。
自己の再帰的プロジェクト Reflexive project of the self
自己の物語の再帰的組織化によって自己アイデンティティが構成される過程
自己の物語 Narrative of the Self
個人や他者が自己アイデンティティを再帰的に理解する手立てとなる物語
実存的矛盾 Existential contradiction
有機的世界の一員でありながらそれと区別される有限な生物としての人間の、自然に対する矛盾をはらむ関係
実存的問題 Existential questions
人間の生命と物質世界といった実存の基本的次元にかんする疑問。人間は日常的遂行の文脈のなかでこれに「答える」
重大な結果をもたらすリスク High-consequence risks
影響がきわめて多くの人に広く及ぶようなリスク
純粋な関係性 Pure relationship
内的準拠的な関係、つまり関係そのものが与える満足や見返りに根本的に依拠する関係
象徴的通標 Symbolic tokens
標準的な価値を持っているために無限の多様な文脈を超えて交換可能な交換のメディア
情欲の私化 Privatising of passion
情欲が性的領域へ限定され、その領域が公の視線から分離されること
身体の振る舞い Bodily demeanour
日常世界の文脈のなかでの個人の様式化された行動。自己に対する特定の印象の形成のために容姿を活用することをも含む
信頼 Trust
無知や情報の欠如を括弧に入れるという「信仰への跳躍」に基づいて行われる、人間や抽象的システムに対する確信の付与
生活設計 Life-planning
人生についての計画をもとに個人が組織し、通常はリスクの面から取り組まれるライフスタイルの選択肢の戦略的選択
制度的再帰性 Institutional reflexivity
新しい知識と情報を行為の環境につねに組み入れることで行為の環境が再構成され、再組織されるというモダニティの再帰性
専門家システム Expert systems
個人から個人へ移転可能な手続き規則に依拠した、あらゆるタイプの専門知識のシステム
走馬灯としての場所 Placeas phantasmagoric
距離化された社会関係が場所のローカルな特徴に深く侵入し、これを再組織化する過程
存在論的安心 Ontological security
個人の直接の知覚環境にないものをも含む出来事に対する連続性や秩序の感覚
体制 Regimes
身体的特徴の維持や開拓に関する規則化された行動様式
脱埋め込み Disembedding
社会関係がローカルな文脈から剥離して、無限の時間的/空間的距離を越えて再編されること
抽象的システム Abstract systems
象徴的通標と専門家システムの総称
内的準拠性 Internal referentiality
社会関係や自然界の諸側面が内在的基準に沿って再帰的に組織されるようになる状況
日常生活の脱習熟化 Deskilling of day-to-daylife
ローカルなスキルが抽象的システムに吸収され、技術的知識に照らして再編される過程。脱習熟化は通常、再専有という補完的過程とともに進行する
ハイ・(もしくは後期)モダニティ High(or late)modernity
モダニティの基本的特徴の徹底化とグローバル化によって特徴づけられる、近代制度の現在の段階
媒介された経験 Mediated experience
時間的・空間的に遠く隔たっている影響が人間の感覚的経験と関わること
開かれた人間のコントロール Open human control
社会的自然的世界に対する人間による未来志向の介入。ここではリスク評価によって植民地化過程が制御される
保護被膜 Protective cocoon
基本的信頼をもとに形成され、外的世界から迫る潜在的な危険を除去する防衛的保護
未来の植民地化 Coloniazation of the future
反実仮想的推量によって開拓される未来の可能性の領域を作りだすこと。
ライフ・ポリティクス Life politics
ローカルなものとグローバルなものの弁証法およびモダニティの内的準拠システムの出規という文脈における自己実現をめぐる政治
ライフスタイル部門 Life style sector
ある程度一貫した社会的実践が受容されるような、個人の活動全般のうちの時間的・空間的「一片」
リスク選別分析 Risk profiling
技術的知識の現状に照らして、所与の行為環境におけるリスクのまとまりを記述すること
リスク文化 Risk culture
リスクに対する意識が未来の植民地化の手段となるという、モダニティの基本的な文化的側面
歴史性 Historicity
歴史を作るために歴史を用いること。モダニティの制度的再帰惟の基本的側面
ローカルなものとグローバルなものの弁証法 Dialetic of the local and global
ローカルな関与とグローバル化傾向との対立する相互作用
用語を覚えたところで発見があるわけではないが、ギデンズの概念は覚えにくいしすぐ忘れるのでメモ。