井出草平の研究ノート

濱野玲奈「地域差からみた不登校 : 公式統計を手掛かりに」

濱野玲奈,2002,
「地域差からみた不登校 : 公式統計を手掛かりに」
『東京大学大学院教育学研究科紀要』41,225-236.

 以上をまとめると、90年代以降、一方で不登校が全国化し出現率の都道府県格差が縮小し、「出現率は都市型府県で高い」とはいえなくなった。しかし市町村レベルでは依然として出現率と都市度との関連が見出され、地域格差も大きい。

 以上の分析から、第一に、不登校が一般化したといわれる90年代以降においても不登校出現率に地域差があることが確認された。出現率の地域差は都道府県レベルでも依然として大きいが,格差は縮小傾向にあり、全国化の傾向がみられる。また都道街県別出現率と都市度の関連は90年代以降みられなくなっている。しかしながら市町村レベルでは、1995年度においても出現率と都市度に相関があり、さらに市町村別出現率格差は都道府県別出現率格差より大きい。都市度と不登校発生メカニズムとの関係に関するより詳郷な調査分析を行うにあたっては、地域の単位を都道府県ではなく市町村に設定することが妥当であろうと思われる。

 この予測を傍証する一例として、国立教育研究所の「学校観に関する調査研究」のうち、国民各層を対象に行った「世代別意識調整」を挙げることができる。この報告書によれば、登校規範を含み込む「学校観」には世代ギャップがみられるという。以下は報告書からの抜粋である。学校に対する基本姿勢が、50歳代以上と40歳代以上ではまったく異なることを指摘しておきたい。50歳代以上にとって、学校という存在はアプリオリに善である。学校に行くことは当然であり、学校で学ぶことは楽しいことである。しかし、40歳代以下の世代、特に20歳代にとって、学校という存在は必ずしも善ではない(1999)」。「学校へ行くことは当然」と考える50歳代以上の人々の登校規範は強く、「学校という存在は必ずしも善ではない」と考えるそれより若い世代の人々の登校規範は相対的に弱いといえるだろう。