井出草平の研究ノート

保坂亨「不登校の学校要因(3)地域差と学校差」

保坂亨,1998,
「不登校の学校要因(3)地域差と学校差」
『臨床心理学研究』 36(1),2〜8.


不登校の発生率には地域差のみならず学校差も存在すると言う論文。


まず、先行研究から、地域差について。つまり、子どもたちが育ってくる地域の社会・文化的な要因によって不登校の発生率が異なるという着目点のものである。

菱山・古川(1980)は、出現率の番い大都市の代表である東京都において、教育委員会資料(中学生理由別長期欠席者調査)に基づき、区市部別に分析を行った。その結果その中でも「学校ぎらい」の出現率には、「かなりの地域差が認められ、その地域の特性が何らかの形で学校ぎらいの出現率に影響を与えうるとの知見が得られた」。そして、工業地区および工業性の高い地域において出現率が高く、商業性の商い地域では低いこと、また古くからの住宅地区では低く、近年住宅として急増した地域においてやや高いことなどを見いだした。

  • 菱山洋子・古川八郎(1980)「学校ぎらいの統計研究(1)一束京都における出現率の推移と社会的要因の考察」児童青年精神医学とその近接領域 21−5、300−309

この論文は生命図書館にあるようだ。

 さらに渡辺(1992)は、東京都内20区市内の公立中学校を対象に、養護教諭を通じた独自の調査を行い、地域差を検討している。その結果、「学校ぎらい」は市部よりも区部の学校、最近10年間に地域環境の変化が大きかった地域の学校、商店街が3割以上の地域や工場のある地域の学校で出現率が高いことを見いだした。

  • 渡辺亜矢子(1992)「東京都公立中学校における『学校ぎらい』出現率の学校差および地域差」生活指導研究9、143−162

渡辺亜矢子(伊東亜矢子)氏の実績一覧にはある論文だが、サイニィとマガジンプラスには掲載されていない。


海外の先行研究から、学校差について言及したもの。

 たとえば、Reynold et al(1980)は、ウェールズ南部の9つの中学校を対象に出席率を調査した際、学校間の大きな差異を見いだした。そして、その差が学校の通学地域における人口学的変数(社会階級など)の分析からは説明できないことを示し、出席率はそれぞれの中学校に入学した生徒のちがいよりも学校の組織の影響をより大きく反映していることを示唆した。
 同様に、Rutter et al(1979)も、ロンドンの12の中学校を対象に出席率を調査し、学校間の差異を見いだしている。そして、さまざまな資料を分析した結果、個々人の出席率は、父親の職業および10才のときの言語能力検査の結果と相関していることが明らかにされた。しかしながら、出席と能力水準との関連はすべての学校において同じではなかった。そこで彼らは、中位の能力の集団に関する結果をさらに分析し、「同じ能力の生徒に限定された場合、また父親の職業の影響が考慮された場合にも、学校間の出席率にはなおかなりの統計的に有意な差異が存在した」と報告している。

  • Reynols.D.; Jones,D.;Leger,S.S.; Murgatroy d, S. (1980) School Factors and truancy Hersov, L. (ed) Out of School : Modern Perspectives in Truancy and Scool Refusal J New York, John Wiley & Sonss 85-110(ISBN:0471277436)
  • Rutter.M.; Maughan.B.; Mortimore,P.; Oustin J. (1979) Fifteen Thousand Hours : Secondary schools and their effects on children London, Paul Chapman Publishing Ltd.(ISBN:1853962813)


どちらも書籍論文。

 ここから以下のようなことが示唆されよう。まず4年間という期間でみると、各学校の長期欠席および不登校の出現率はかなり変動している。したがって、4年間の各学校の通学地域に大きな変化がない以上、その変動は「学校自体の内部の問題を反映した変化(Galloway,1982)」ということになろう。つまり長期欠席および不登校の出現率に影響する学校側の要因を検討する必要性が示されたといえよう。

A校の長期欠席および不登校の出現率が高いことと、先のデータで示されたB校とはちがう家庭側の要因(家族との関係が良好ではない、家庭学習の時間が短く、テレビ視聴時間は長いなど)は関連があるかもしれない。もしそうであるならば、こうした家庭が多い地域という意味で、A校の長期欠席や不登校の出現率の高さには地域性が関連しているといえるだろう。しかし、こうした家庭が多いという地域性だけが長期欠席や不登枚の出現率に関連しているとしたら、それが変化しない限り年度によって長期欠席や不登校の出現率はほぼ一定のはずである。本調査のデータはそれをはっきりと否定した。ここに明確に学校側の要因(指導体制や生徒間の友人関係など)が介在している可能性が示されたわけである。

そして、少なくとも長期欠席や不登校と、学校側の要因(たとえば学校の指導体制や生徒間の友人関係など)との間に関連がある可能性を示すことができたといえよう。


地域差のみならず学校差も存在していると指摘している。