井出草平の研究ノート

DSM-IV-TR 299.00 自閉性障害


299.00 自閉性障害  Autistic Disorder


診断的特徴
 自閉性障害の基本的特徴は,対人的相互反応およびコミュニケーションの著しい異常またはその発達の障害,および著明に制限された活動と興味の範囲の存在である.障害の表現は,その者の発達水準および年齢に従って,大きく変化する.自閉性障害は,時に早期幼児自閉症,小児自閉症,あるいはカナー自閉症と呼ばれる.
 対人的相互反応における障害は,粗大で持続する.対人的相互反応やコミュニケーションを制御する多彩な非言語的行動(例:目と日で見つめ合う,顔の表情,体の姿勢や身振り)を使用することに著明な障害があるかもしれない(基準A1a).発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗もあるかもしれないが(基準A1b),これは年齢により異なった形をとる.昔年の者ほど,交友関係を築くことに関心をほとんど,あるいはまったく示さない可能性がある.より年長の者では,交友関係に関心を示すが,対人的相互反応におけるきまりを理解することができないかもしれない.楽しみ,興味,達成感を他人と分かち合うことを自発的に求めることの欠如(例:興味のある物を見せる,持って来る,または指差すなどをしない)もあるかもしれない(基準A1c).対人的あるいは情趣的相互性が欠如しているかもしれない(例:対人的な単純な遊びやゲームに積極的に参加するよりは一人遊びを好んだり,他者を単なる道具あるいは“機械的”補助として活動に加えたりする)(基準A1d).しばしば他者の存在に気づくことが著明に障害されている.この障害をもつ者は,(自分の同胞を含めて)他の子供の存在を忘れがちであり,他者の欲求という概念がなく,他の人の苦痛に気づかないかもしれない.
 コミュニケーションの障害もまた著明で,持続し,言語的および非言語的技能の両方に影響する.話し言葉の発達の遅れ,ないしは完全な欠如があるかもしれない(基準A2a).話す者では,他人と会話を開始しあるいは続ける能力の著明な障害(基獲A2b),あるいは常同的で反復される言語あるいは独特な言語の便用(基準A2c)があるかもしれない.また,発達水準に適切な種々の自発的なごっこ遊び,あるいは他の者との物まね遊びの欠如もあるかもしれない(基準A2d).会話ができるようになるときは,音程,抑揚,速さ,リズム,あるいはアクセントが異常かもしれない(例:声の調子が単調であったりその状況に不適切であったり,あるいは文章の最後が疑問文のように上がることがある).文法的構造はしばしば未熟で言語の常同的ないし反復的な使用(例:意味にかかわりない単語や句の繰り返し,擬声音やコマーシャルの反復),あるいは個人に特有な言葉(すなわち,その者のコミュニケーションの形式を.よく知っている者に対してのみ意味をもつような言語)を含む.言語理解はしばしば非常に遅れ,単純な質問や指示を理解することができないかもしれない.言語を実際使用する(社会的俺用)うえでの障害は,単語と身振りを統合することができないことや,ユーモアを理解したり,皮肉や暗示された意味のような言葉の文字以外の側面を理解したりすることができないことによって,しばしば明らかにされる.想像遊びはしばしばないか,あっても著明に障害されている.これらの者はまた,幼児期または小児期早期の単純な物まね遊びや,それらの慣習を行わないか,あるいは,それを状況に合わない形,あるいは機械的なやり方でする傾向がある.
 自閉性障害をもつ者は,限定された,反複的で,常同的な行動,興味,活動の様式をもつ.1つまたはそれ以上の,その強さまたは対象において異常な,常同的ないし限定された型の興味へ熱中してとらわれることがある(基準A3a),特定の機能的でない習慣や儀式にひどくかたくなにこだわること(基準A3b),常同的で反復的な街奇的運動(基準A3c),または物体の一部に持続的に熱中すること,などが存在するかもしれない.自閉性障害をもつ者は,著明に制限された範囲の興味を示し,しばしば1つの狭い興味に熱中する(例:日付,電話番号,ラジオ局のコール名).彼らはいつも同数のおもちゃを同じやり方で何度も何度も繰り返し並べたり,繰り返しテレビ俳優の動作をまねするかもしれない.彼らは同一性にこだわり,ごく小さな変化に対しても抵抗を示したり苦しんだりする(例:家具の配置換えや,夕食時に新しい道具一式を使用することなどの小さな環境変化に,年少児が破局的な反応を示すかもしれない).しばしば機能的でない慣習または儀式に興味があり,または慣習に従うことを不合理に主張する(例:毎日正確に同じ道をたどって学校へ行く).常同的な身体運動は手(拍手する,指を弾く),全身(揺する,前かがみに膝を曲げる,のけぞる)に及ぶ.姿勢の異常(例:二爪先で歩く,奇妙な事の動きと体の姿勢)が存在するかもしれない.これらの者は,物の一部に対する持続的な熱中を示すかもしれない(ボタン,体の一部).動くものに対する強い興味(例:回っているおもちゃの車輪,ドアを開けたり閉めたりすること,扇風機,その他の速く回転する物体)があるかもしれない.生命のない物体に強い愛着を示すかもしれない(例:1本の紐,または輪ゴム).
 障害は,3歳以前に始まり,以下のうち少なくとも1つ(しばしばいくつか)の領域における遅れまたは機能の異常によって示されなければならない:対人的相互反応,対人的コミュニケーションに用いられる言語,または象徴的または想像的遊び(基準B).ほとんどの場合,確かに正常な発達をした期間はないが,おそらく20%の症例では,1年間ないし2年間は比較的正常な発達がみられたと親は報告する.そのような症例では,子供はいくつかの単語を覚え,その後それらを失ったか発達が停滞したようだと親は報告するかもしれない.
 定義によれば,もし正常の発達の期間があるとしても,3歳を過ぎて続くことはない.障害は,レット障害または小児期崩壊性障害によってはうまく説明できない(基準C).


関連する特徴および障害
[関連する記述的特徴と精神疾患たいていの症例では,精神遅滞の診断を伴い,それは軽度から重度に及ぶ.認知能力の発達にも異常があるかもしれない.認知能力のプロフィールは,知能の一般的な水準に関係なく,通常不均一であり,典型的には言語性の能力が非言語性能力よりも.劣る.時には,特別な能力が存在する〔例:4歳半の自閉性障害の女児が,読んだものの意味をほとんど理解しないまま書かれたものを“読み解く“ことができたり(読字過剰),10歳の男児が,日付を計算する驚異的な能力(暦計算)をもっていたりする〕.一語文の(受容性または表出性の)語彙による評価は,言語水準がよいという評価には必ずしもならない(すなわち,実際の言語能力はずっと低いかもしれない).
 自閉性障害の子供には,多動,注意持続時間の短さ,衝動性,攻撃性,自傷行為,および特に年少の子供ではかんしゃくなど,一連の行動症状があるかもしれない.感覚刺激に対しての奇妙な反応(例:痛みに対する閾値の高さ,音や触れられることに対しての過敏,光や匂いに対しての過剰な反応,特定の刺激に対する強い興味)もみられるかもしれない.食事の異常(例:わずかな種類の食物しか食べない,異食症)や睡眠の異常(例:夜何度も目を覚まし体を揺する)もみられる.気分や感情の異常(例:はっきりした理由もなくくすくす笑ったり泣いたりする,情緒的な反応がないように見える)もみられる.実際に危険なときに恐怖を感じなかったり,危険のないものに対して過剰に怖がったりする.さまざまな自傷行為もみられる(例:頭をぶつける,指,手,手首を噛む).青年期または成人期早期には,自閉性障害で洞察できる知能をもつ者は,自分の重篤な障害を認識して抑うつ的になることもある.
[関連する検査所見]自閉性障害が一般身体疾患に伴っているときは,その一般身体疾患に一致した臨床検査所見が観察される.この一群でセロトニン活動の測定値のいくつかに違いがあるという報告があるが,自閉性障害の診断には役立たない.画像研究により異常がある症例もあるが,特定の異常がはっきりと同定されたわけではない.脳波異常は,たとえ発作がなくてもー般にみられる.
[関連する身体診察所見と一般身体疾患]自閉性障害では,さまざまな非特異的な神経症状または徴候が認められることがある(例:原始反射,利き手の発達の遅れ).時に神経疾患または一般身体疾患に関連して観察されることがある(例:脆弱Ⅹ症候群や結節硬化症).
 25%程度の症例では,(特に青年期に)てんかん発作が出現する.小頭症と大頭症がともに観察される.もし他の一般身体疾患が存在する場合は,III軸にコード番号をつけて記録しておかなければならない.


特有の年齢および性別に関する特徴
 自閉性障害における対人関係の障害の特徴は時期によって変化し,その人の発達水準によっても変わる.幼児においては,抱かれることを嫌がる,愛情や身体的接触に無関心または嫌がる,目を合わせない,顔の表情反応がない,人に対して笑顔を見せない.親の声に反応しない,などがみられるかもしれない.結果として,両親は最初子供が耳が聴こえないのではないかと心配するかもしれない.この障害をもつ年少児では,大人をまるで取り扱えのできるもののように接したり,特定の人に機械的にまとわりついたり,あるいはまったく目を合わせることなく欲しいものを獲る目的で親の手を使用するかもしれない(今関係があるのは人ではなくて手であるかのように).発達の経過の中で,子供は受動的には対人的相互反応をもとうとするようになること,さらに,対人的相互反応にもっと興味をもつようになることがある.しかしこのような場合でも,子供は他の人を普通でないやり方で扱う傾向がある(例:他の人が儀式的な質問に特別な答え方をしてくれると期待したり,他人との境界という感覚がほとんどなかったり,対人的相互反応において不適切に侵入的であったりする).より年長の着では,長期記憶を必要とする課題(例:鉄道の時刻表,歴史的な日付,化学式,あるいは何年も前に聴いた歌の歌詞を正確に思い出すこと)が非常に得意であるが,それがその対人的状況では情報として不適切であることにむとんちゃくで,何度も何度も繰り返して言う傾向がある.この障害の発生率は,男子で女子の4、5倍高い.しかしこの障害をもつ女子は,より重症な精神遅滞を示す傾向がある.


有病率
 疫学的研究による自閉性障害の有病率の中央値は,10,000人に対して5例であり,報告された値は,10,000人に対して2〜20例の範囲にある.ここで,高い値が方法論の遠いを反映しているのか,この疾患の頻度の増加を反映しているのか明らかではない.


経過
 定義により,自閉性障害の発症は3歳以前である.症例によっては,子供が生まれた直後ないし少し後に,子供が対人的相互反応に興味をもたないため,その子供について心配していたと両親が報告することがある.乳幼児におけるこの障害の表れ方は,2歳以後にみられるものと比べてより微細で,定義するのが困難である.少数の症例において,生後1年は(または2歳に達するまでは)正常に発達したと報告されることもある.自閉性障害は持続性の経過をたどるが,学齢期の子供や青年では,ある分野において発達がみられることはよくある(例:子供が学齢に達すると対人機能に対する興味が出てくることがある).青年期の間に行動面で悪化する者もいるし,改善する者もいる.言語能力(例:コミュニケーションできる言語の存在)と全体の知的水準が,最終的な予後に最も強く関係する要因である.これまでの予後調査は,この障害をもつ者のうち成人になって独立して生活して仕事をしているものはごく一部だけであることを示唆している.およそ1/3の症例では,ある程度の部分的独立が可能である.自閉性障害をもつ成人は,最も機能のよい者であっても,典型的には,興味と活動は著しく限定され,対人関係やコミュニケーションに問題を示し続ける.


家族発現様式
 この障害をもつ者の同胞では,自閉性障害の危険は増加し,同胞の約5%が同様にこの疾患を示す.罹患した同胞には,いろいろな発達障害の危険がみられるようである.


鑑別診断
 正常の発達の中で発達の退行の時期がみられることがあるが,これは自閉性障害のように重症でなく,持続もしない.自閉性障害は他の広汎性発達障害から鑑別されなければならない.レット障害は自閉性障害からその特徴的な性差と欠陥の型により区別される.レット障害は女性のみで診断されているが,一方自閉性障害は男性のほうにより多く起こる.レット障害では,頭部の成長の減速に特徴的な型があり,それまでに獲得された合目的的な手の運動が失われ,歩行時に拙劣な協調運動や体幹の動きがみられる.特に学齢前では,レット障害の子供には自閉性障害にみられるのと同じような対人的相互反応の困難を示すかもしれないが,これらは一過性である傾向がある.小児期崩壊性障害は,少なくとも2年の正常な発達の後にはっきりした発達の退行の型が機能の複数の領域で現れる点で,自閉性障害とは異なっている.自閉性障害においては,発達の異常は通常生後1年以内に気づかれる.初期の発達の情報が得られない場合,または必要とされる正常な発達期間について証明することができない場合は,自閉性障害の診断がなされるべきである.アスペルガ一障害は初期の言語発達の遅れがない点で自閉性障害とは異なっている.自閉性障害の基準を満たすならばアスペルガ一障害とは診断されない.
 小児期発症の精神分裂病は,通常正常または正常に近い発達が数年あった後に発症する.もし自閉性障害の者が,少なくとも1カ月続く著明な幻覚妄想という活動期の症状を伴って精神分裂病の特徴的な症状を呈した場合は,精神分裂病の追加診断を下してよい(292頁参照).選択性緘黙においては,子供は通常特定の場面では適切なコミュニケーションの能力を示し,自閉性障害に伴うような重症な対人的相互反応の障害や限定された行動様式は示さない.表出性言語障害と受容−表出混合性言語障害では,言語の障害はあるが,対人的相互反応の質的な障害を伴わず,限定的,反復的,常同的な行動様式もみられない.精神遅滞をもつ者では,特にそれが重度または最重度の場合,時に自閉性障害の追加診断をつけるのが妥当であるか否かを決定するのが困難なことがある.自閉性障害の追加診断は,対人的ないしコミュニケーションの能力に質的な欠陥があり,自閉性障害に特徴的な特定の行動が存在する場合のみに限定される.常同道動は自閉性障害の特徴であるが,常間運動障害の追加診断は,これらが自閉性障害の表現の一部としてうまく説明される場合には加えられない.過活動と不注意の症状は自閉性障害によくみられるが,自閉性障害がある場合,注意欠陥/多動性障害の診断はつけられない.

診断基準 299.00 自閉性障害


A.(1)・(2)・(3)から合計6つ(またはそれ以上),うち少なくとも(1)から2つ,(2)と (3)から1つずつの項目を含む.
(1)対人的相互反応における質的な障害で以下の少なくとも2つによって明らかになる.
 (a)目と目で見つめ合う・顔の表情,体の姿勢,身振りなど,対人的相互反応を調節する多彩な非言語的行動の使用の著明な障害
 (b)発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗
 (c)楽しみ・興味・達成感を他人と分力、ち合うことを自発的に求めることの欠如(例:興味のある物を見せる,持って来る,指差すことの欠如)
 (d)対人的または情緒的相互性の欠如
(2)以下のうち少なくとも1つによって示されるコミュニケーションの質的な障害:
 (a)話し言葉の発達の遅れまたは完全な欠如(身振りや物まねのような代わりのコミュニケーションの仕方により補おうという努力を伴わない)
 (b)十分会話のある者では,他人と会話を開始し継続する能力の著明な障害
 (c)常同的で反復的な言語の使用または独特な言語
 (d)発達水準に相応した,変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性をもった物まね遊びの欠如
(3)行動,興味,および活動の限定された反復的で常同的な様式で,以下の少なくとも1つによって明らかになる.
 (a)強度または対象において異常なほど,常同的で限定された型の1つまたはいくつかの興味だけに熱中すること
 (b)特定の機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである.
 (c)常同的で反復的な衒奇的運動(例:手や指をばたばたさせたりねじ曲げる,または複雑な全身の動き)
 (d)物体の一部に持続的に熱中する.
B.3歳以前に始まる・以下の領域の少なくとも1つにおける機能の遅れまたは異常:(1)対人的相互反応(2)対人的コミュニケーションに用いられる言語,または(3)象徴的または想像的遊び
C.この障害はレット障害または小児期崩壊性障害ではうまく説明されない.