DSM-IV-TR アスペルガ一障害


299.80 アスペルガ一障害 Asperger's Disorder


診断的特徴
 アスペルガ一障害の基本的特徴は,重症で痔続する対人的相互反応の障害(基準A)と,限定的,反復的な行動,興味,活動の様式である(基準B).その障害は,臨床的に著しい社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていなければならない(基準C).自閉性障害とは対照的に,臨床的に明らかな言語習得の遅れがない(例:2歳までにおうむ返しに繰り返したものではない単語文をコミュニケーションの目的に使い,3歳までに自発的,コミュニケーション的な語句を用いる)(基準D)が,しかし,社会的交流のより微細な局面は,影響を受けるかもしれない(例:典型的には会話の中の会話の相互的やりとり).加えて,環境への正常な好奇心を示すことによって明らかとなる認知の発達や,年齢にふさわしい学習能力や,(対人関係以外の)適応行動の習得に関して,生後3年間で臨床的に著しい遅れがみられない.最後に,他の特定の広汎性発達障害精神分裂病の基準は当てはまらない(基準F).このような状態は,アスペルガー症候群とも呼ばれる.
 対人的相互反応における障害は,粗大で持続する.対人的相互反応やコミュニケーションを制御する多彩な非言語的行動(例:目と目で見つめ合う,顔の表情,体の姿勢や身振り)を使用することに著明な障害があるかもしれない(基準A1).発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗もあるかもしれないが(基準A2),これは年齢により異なった形をとる.若年の者ほど,交友関係を築くことに関心をほとんど,あるいはまったく示さない可能性がある.より年長の者では,交友関係に関心を示すが,対人的相互反応におけるきまりを理解できないかもしれない.楽しみ,興味,達成感を他人と分かち合うことを自発的に求めることの欠如(例:興味のある物を見せる,持って来る,または指差すなどをしない)があるかもしれない(基準A3),対人的あるいは情緒的相互性が欠如しているかもしれない(例:対人的な単純な遊びやゲームに積極的に参加するよりは一人遊びを好んだり,他者を単なる道具あるいは“機械的”補助として活動に加えたりする)(基準A4).アスペルガ一障害における対人的欠陥は重篤であり,自閉性障害と同様の方法で定義されるが,対人的相互性の欠如は,対人的・情緒的無関心というよりむしろ,常軌を逸し一方的に他者に対して接近しようとすること(例:他者の反応を無視して会話の話題を続行する)によってより典型的に示される.
 自閉性障害と同様に,限定的,反復的な行動,興味,活動の様式が存在する(基準B).これらはしばしば,その個人が大量の事実や情報を集めることができるような特定の話題や興味だけに熱中するようになることによって主に明らかになる(基準B1).これらの興味や活動はあまりにも強く追求され,その結果,しばしば他の活動ができなくなる.
 この障害によって,社会適応に関する臨床的に明らかな障害が引き起こされていなければならず,そのことが翻って自己評価や職業的または他の重要な領域の機能にも著明な影響を与える可能性がある(基準C).社会的欠陥や限定された興味,活動,行動の様式が,高度な障害の源である.
 自閉性障害とは対照的に,早期の言語には臨床的に著しい遅れはみられない(例:一語文は2歳までに用いられ,コミュニケーション的な語句は3歳一までに用いられる)(基準D).その後の言語が異常になる場合もあるが,それはその者が特定の話題に没頭することとその者の冗長さと関連する.対人的機能障害,慣習的な会話の規則を認識・利用できないこと,非言語的な手がかりを認識できないこと,自分を監視する能力が制限されていることなどの結果によって,コミュニケーションの困難が生じるかもしれない.
 アスペルガ一障害をもつ者は,認知の発達,年齢に相応した自己管理能力,(対人関係以外の)適応的行動,小児期における環境への好寄心などに関して,臨床的に明らかな遅れがない(基準E).生後3年までの,早期の言語や認知機能は正常範囲にあるため,この時期には、,親や世話をする者はたいてい子供の発達について心配しないが,詳しく聞くと異常な行動を思い出す場合もある.子供は歩く前に話したと許され,実際親は子供が早熟であると信じているかもしれない(例:豊富な,あるいは“大人”の語彙を使える).微妙な対人的問題はあるかもしれないが,親や世話をする者は,子供が保育園へ行くまで,あるいは同年齢の子供と接するようになるまでは心配しない.しかし,そのときになって初めて,子供が同年齢の仲間との間に対人的困難をもつことが明らかになる.
 定義によれば,他の特定の広汎性発達障害または精神分裂病の基準が満たされる場合,この診断は下されない(しかし,アスペルガ一障害の発症が精神分裂病の発症に明らかに先行している場合,アスペルガ一障害と精神分裂病の診断が併記されるかもしれない)(基準F).


関連する特徴および障害
 自閉性障害と対照的に,アスペルガ一障害では精神遅滞は一般的にみられない,しかし時々,軽度精神遅滞のある症例が認められている(例:明らかな認知・言語的遅れは生後1年間みられなかったが,精神遅滞が学齢期になって初めて明らかになる場合).認知機能には変異があるかもしれないが,言語領域の能力は高く(例:語彙,丸暗記する聴覚記憶),非言語領域の能力は低い(例:視覚−運動,視覚−空間能力).運動の不器用さ・ぎこちなさがあるかもしれないが,たいてい比較的軽度である,しかし,運動機能の因雉のため仲間から拒絶されたり対人的に孤立したりする場合もある(例:集団でのスポーツに参加することができない).アスペルガ一障害では多動・不注意の症状はよくみられ,実際この障害を有する者の多くは,アスペルガ一障害の診断を受ける前に注意欠陥/多動性障害の診断を受ける.アスペルガ一障害は,うつ病性障害を含む多くの他の精神障害と関連があることが報告されてきている.


特有の年齢および性別に関する特徴
 異なった年齢では臨床像も異なって表れることがある、この障害をもつ者の対人的障害は,呼がたつにつれ,しばしばより目立つようになる.青年期までに,この障害をもつ者の中には,弱点を補うため長所を利用すること(例:丸暗記する言語能力)を学ぶようになる者もいる.アスペルガ一障害をもつ者は,他の者からいじめを受けるかもしれない.このことと,対人的孤立,そして自己を認識する能力が増大することにより,青年期や成人期早期に抑うつや不安が発現する場合がある.この障害は,女性よりも男性にずっと多く(少なくとも5倍)診断される.


有病率
 アスペルガ一障害の有病率に関する明らかな資料は得られていない.


経過
 アスペルガ一障害は持続的で一生続く障害である.学齢期の子供では,言語能力が高いため,その子供の重篤な対人的機能障害はある程度まで覆い隠され,世話をする者や教師にも誤解されるかもしれない.つまり,世話をする者や教師は,子供の高い言語能力に注呂し,他の領域の問題に十分気がつかないかもしれない(特に対人的適応の問題).子供の比較的高い言語能力のため,教師や世話をする者は誤って,行動上の障害をその子供のわがままや頑固さのせいにしてしまう場合もある.自分の障害に,より適応的に対応するいくつかの方法が身につくにつれ,青年期には対人関係を作ることへの興味が増してくるかもしれない−例えば,ストレスの高い状況では,明確な言語的表現のきまりや手順を当てはめることを学ぶようになるかもしれない.より年長の者は友情に関心をもつかもしれないが,対人的相互反応の慣習への理解に欠けるため,自分よりずっと年長か年下の者との関係を作る傾向がある.予後は自閉性障害に比べて明らかによく,予後研究によると,多くの者は成人すると賃金の得られる仕事につき,自給自足が可能であることが示唆されている,


家族発現様式
 得られているデータは限られているが,アスペルガー障害をもつ者の家族成員間で,この障害の頻度が高いようにみえる.より一般的な対人的困難や,自閉性障害に対する危険が増大するかもしれない.


鑑別診断
 アスペルガ一障害は他の広汎性発達障害から区別されなければならない.これらはすべて対人的相互反応に問題があるという特徴をもつ.アスペルガ一障害は自閉性障害からいくつかの点で区別される.自閉性障害では,定義上,対人的相互反応,言語,遊びの領域で明らかな異常がみられるが,アスペルガ一障害では早期の認知および言語能力に著明な遅れはみられない.さらに,自閉性障害における限定的,反複的,常同的な興味や行動は,動作の独特な癖,対象物の部分に強くこだわること,儀式を行うこと,変化に強い苦痛を感じること,がみられることによって特徴づけられるのに対し,アスペルガー障害では,これらは主に,情報や事実を集めるために莫大な時間を費やすような話題を含む,限定された関心だけを追求することの中でみられる.この2つの状態の鑑別が問題となる症例もある.自閉性障害では,典型的な対人的相互反応の様式は,孤立あるいは著明に融通のきかない対人接近法が日立っているが,一方アスペルガー障害では,非常に風変わりで,一方的で,冗長で,無神経な方法であるものの,他者に接近しようとする意欲はあるようである.
 アスペルガー障害は自閉性障害以外の広汎性発達障害ともまた,鑑別されなければならない.レット障害は,その特徴的な性差・障害の様式によってアスペルガ一障害と異なっている.レット障害はこれまで女性だけに診断されており,一方,アスペルガ一障害は男性にずっと多く起こる.レット障害では特徴的な頭部発達の減速,以前に獲得した合目的的な手の技能の喪失,協調不良の歩行と体幹の動きの外見といった特徴的様式がみられる.レット障害は著明な精神遅滞や言語・コミュニケーションの粗大な障害ともまた関連している.
 アスペルガ一障害は,少なくとも2年間の正常な発達の後に起こる発達的退行の明確な様式をもつ小児期崩壊性障害とも異なる.小児期崩壊性障害をもつ子供は著明な精神遅滞や言語の障害も示す.対照的に,アスペルガ一障害では発達的退行の様式や,また定義上,認知・言語の著明な遅れはみられない.
 小児期発症の精神分裂病は,正常かほぼ正常な発達が何年か続いた後に起こり,幻覚,妄想,解体した会話を含むこの障害に特徴的な症状がみられる.選択性緘黙では,子供は特定の状況では適切なコミュニケーション技能をたいてい示し,アスペルガ一障害に関連するような対人的相互反応の高度な障害や制限された行動の様式はみられない.逆にアスペルガ一障害をもつ者は,典型的には冗長である.表出性言語障害や受容−表出混合性障害では言語の障害はあるが,対人的相互反応における質的な障害や限定的,反復的,常同的な行勤の様式は伴っていない.アスペルガ一障害をもつ者の中には,強迫性障害を思わせるような行動様式を示す者もあるかもしれない.しかし,アスペルガ一障害の没頭・活動と強迫性障害の強迫観念・強迫行動との鑑別には,特別な臨床的注意を払うべきである.アスペルガ一障害では,これらの関心は明らかな喜びや満足の源であるが,一方,強迫性障害では不安の源である.さらに,強迫性障害は典型的にはアスペルガー障害にみうれるような対人的相互反応や対人的コミュニケーションの障害と関係しない.
 アスペルガ一障害と分裂病人格障害との関係は明らかでない.一般的にはアスペルガー障害の対人的困難はより重篤でより早期に発症する.アスペルガー障害をもつ者の中には,社会恐怖や他の不安障害のように,対人的場面で強く衰弱させるほどの不安を経験する者もあるかもしれないが,後者には,アスペルガー障害に特徴的な対人的発達の広汎な障害や限定された関心はみられない.アスペルガー障害は正常な対人的不器用さや正常な年齢相応の関心・趣味とも鑑別されなければならない,アスペルガ一障害では対人的障害は非常に重篤で,没頭はすべてにわたり,基本的技能の獲得を妨害する.

診断基準 299.80 アスペルガー障害


A.以下のうち少なくとも2つにより示される対人的相互反応の質的な障害:
 (1)目と目で見つめ合う,顔の表情,体の姿勢,身振りなど,対人的相互反応を調節する多彩な非言語的行動の使用の著明な障害
 (2)発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗
 (3)楽しみ,興味,達成感を他人と分かち合うことを自発的に求めることの欠如(例:他の人達に興味のある物を見せる,持って来る,指差すなどをしない)
 (4)対人的または情緒的相互性の欠如
B.行動,興味および活動の,限定的,反復的,常同的な様式で,以下の少なくとも1つによって明らかになる.
 (1)その強度または対象において異常なほど,常同的で限定された型の1つまたはそれ以上の興味だけに熱中すること
 (2)特定の,機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである.
 (3)常同的で反復的な街奇的運動(例:手や指をばたばたさせたり,ねじ曲げる,または複雑な全身の動き)
 (4)物体の一部に持続的に熱中する.
C.その障害は社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を引き起こしている.
D.臨床的に著しい言語の遅れがない(例:2歳までに単語を用い,3歳までにコミュニケーション的な句を用いる).
E.認知の発達,年齢に相応した自己管理能力(対人関係以外の)適応行軌および小児期における環境への好奇心について臨床的に明らかな遅れがない.
F.他の特定の広汎性発達障害または精神分裂病の基準を満たさない.