井出草平の研究ノート

学問バトン


id:seijotcpさんから回ってきた学問バトンです。
もともとはこちら→http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20070716/p1


7月16日のエントリなので1ヶ月ほど放置(;´Д`) すんません・・・・> chikiさん
ともかく、書きました!

  • あなたの専門・専攻・得意教科は?

社会学理論社会学。
理論社会学と言っても、学説研究・紹介ではなく、現象の原因探求(理解)をやっています。

  • あなたは、どのようなテーマに関心がありますか?

ひきこもり・不登校摂食障害を具体テーマにしています。
これらの共通点は何かというと、現代的逸脱現象であること。「ひきこもり」は「不登校」から生まれるものであり、1970年代から生まれた現代的現象です。また、大半が男性という特徴もあり、この点では大半が女性であるという摂食障害と対照的な姿を見せます。この3つの現代的な逸脱現象から、日本の現代を描き出すことを社会学徒としての研究目的としています。

  • あなたは、なぜその専門・分野を選んだのですか?

社会学の入り口は宮台真司の本を読んだことだったと思います。
決定的だったのは、大学が社会学専攻だったこと。学説の勉強を始めたのは大学で大村英昭先生の授業を受けてから。

  • あなたが最も影響を受けた人と、その理由を挙げてください(複数人可)。

社会学の入り口となったという意味で宮台真司宮台真司の著作だと『社会学の基礎』(ISBN:4641059373)に含まれる行為についての論文が秀逸だと思います。
社会学者としては、エミール・デュルケームに最も影響を受けました。

  • あなたが影響を受けた本とその理由を、何冊か挙げてみてください。

社会学の古典からは2冊。
エミール・デュルケーム『自殺論』ISBN:4122012562
マックス ヴェーバー社会学の根本概念』ISBN:4003420969


デュルケームの方は社会学を学ぶ上での必読書だと思います。
ヴェーバーの方は代表作でもないし、面白いわけでもありません。個人的に思い出深い本だったとして。


斎藤環『社会的ひきこもり』。ISBN:4569603785
現在の研究テーマの入り口になった本。


藤井誠二宮台真司『美しき少年の理由なき自殺』(この世からきれいに消えたい。)ISBN:4889919341

社会学部に入学した春に読んだ本。当時、衝撃的でした。

  • 入門者に、その分野の「入門書」として一冊お勧めするとしたら何を薦めますか?

社会学には入門書として万人に薦められるような本が存在しないような気がします。強いて言うならば、井上俊・大村英昭社会学入門』ISBN:4595120842放送大学の教科書です。記述が簡潔なところが良点です。古典に属する学説が収録されています。


追記:入門書をいくつかみてきました。院試の参考書としても上げられることのある『クロニクル社会学ISBN:4641120412。また、ここ数十年の社会学の動きを押さえるものとして、新睦人編『新しい社会学のあゆみ』ISBN:4641123020えました。ギデンズ(宮本孝二)やルーマン馬場靖雄)などの解説も入っています。



社会学の教科書というと、アンソニー・ギデンズの『社会学』という本が有名ですが、個人的にはあまり良い本ではないと思っています。経済学におけるマンキューやスティグリッツの『経済学』のような位置にある著書ではないと思われます。マンキューの『経済学』を読むと経済学がよく分かりますが、ギデンズの『社会学』を読んでも社会学についてあまりよく分かりません。入門書としては他の本を選び、ギデンズの学説に関しては『近代とはいかなる時代か?』(ISBN:4880591815)を読むのがいいと思います。

  • あなたが考える、その専門・分野の「武器」はなんですか?

社会学は社会科(世界史や日本史)と混同される事がありますが、経済学や心理学と親戚関係にある社会科学の一つで、「社会」を「科学」する学問です。科学ですので、根拠のある話をしなくてはいけません。根拠があるということは、それだけ話に説得力が生まれますので、説得力という部分は社会学の武器だろうと思います。
また、社会政策の基礎的な研究をする学問でもあります。社会学ほど役にたつ学問も無いと個人的には思っています。この「役に立つ」という面は社会学の一つの大きな武器の一つだろうと思います。社会政策に関しては、マックス・ヴェーバー『社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」』(ISBN:4003420926)が必読です。価値自由(Wertfreiheit)のテーゼは社会学徒として守らなければならない鉄則です。

  • 他人に「君、大学では何を研究してたの?」等と聞かれた場合、なんと答えるようにしていますか?

社会学」と答えます。
ただ、社会学の認知度が低いので、この一言で納得してもらえることがほとんどありません。


次の答え方は「社会現象を文化や価値と言った社会的変数で説明する学問です」と答えるようにしています。
これが「社会学とは?」の模範解答。ただ、一般的には通じる言葉ではないので、これでも、納得はしてもらえることはあまりありません。


次の手が「経済学」や「心理学」とのアナロジーで説明する仕方です。
同じ現象を説明するにしても、心理学的な説明をする方法もあれば、経済学的な説明をする方法もあって、その一つが社会学的説明なのだという回答です。具体例として一番分かり易いものは「自殺」だと思います。経済学的には、「不景気で自殺が増えた」という説明が成り立ち、心理学的には「社会不安が広がったために自殺が増えた」という説明が成り立つように、社会学的にも「自殺」は説明できます。


この方法とは違った説明としては「政策」を作る学問という説明だと思います。
政策というものは、社会学者や経済学者の研究を行って、政治家が政治を行い、官僚が事務作業を行うというプロセスが踏まれます。このように「政策」が生まれる中での社会学者の役割について説明をします。政策と社会学の説明にもなりますし、社会学の存在意義の説明にもなるので、この説明をすることは多いです。

  • あなたがその専門・分野に関して、一般の方に知ってもらいたいところは何ですか?

高校までの教科には存在していないのでイメージしにくいですが、社会の中で非常に重要な役割を背負っている学問です。
また、社会学を学ぶ過程の中で、人は個人で生きているのではなく、社会の中で生きていることを実感出来るようになると思います。


生きづらさを抱えている人ならば、その生きづらさの原因を自分のなかに見つけるのではなく、社会と自分が関わっている中で生きづらさが生まれてきていることを発見出来ると思います。生きづらさは「自分の問題」という捉え方ではなく、「自分と社会の齟齬によって生まれてきている問題」だと、捉え直すことによって、より生きやすい人生へのヒントを見つけるのに役立つという能力も社会学にはあると感じています。

  • あなたがその専門・分野に今後期待することはなんですか? あるいはあなたがその分野で達成したい目標はなんですか?

達成したい目標としては2点あります。


・「ひきこもり」現象の解決
・日本における近代化論の再構成


前者は政策的な面で社会と関わる点での目標です。後者は研究者としての目標です。経済学が資本主義を研究対象にしているように、社会学は近代化を学問の研究対象に選んでいます。「近代化」を解き明かすことは、どんな社会学徒にとっても最終的な目標地点になるのではないかと思います。