アメリカニュージャージー州の自閉症スペクトラムの疫学調査

J Bertrand, A Mars, C Boyle, F Bove, M Yeargin
Prevalence of Autism in a United States Population: The Brick Township, New Jersey, Investigation
Pediatrics, 2001 - Am Acad Pediatrics
http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/108/5/1155


アメリカニュージャージー州ブリック・タウンシップ自閉症スペクトラム疫学調査。対象年齢は3〜10歳で、調査は1998年に行われている。自閉症スペクトラムの有病率は6.7人(千人あたり)。区間推定値は5.1〜8.7人(千人あたり・信頼区間95%)。割合にして、0.67%である。自閉性障害(小児性自閉)は4.0人(千人あたり)、特定不能の広汎性発達障害アスペルガー障害は2.7人(千人あたり)だった。DSM-IV-TRでは広汎性発達障害に含まれる、レット障害と小児崩壊性障害はこの調査の自閉症スペクトラム(ASD: Autism Spectrum Disorders)の定義からは除かれている。自閉症スペクトラムには、自閉性障害とアスペルガー障害と特定不能の広汎性発達障害が含まれることになる。この3つの診断はDSM-IV-TRの診断基準に準拠している。


情報は教特別教育記録、地域の臨床家、地域の親の会のリスト、家族の4つ。71パーセントは医療機関からのものだった。


自閉症スペクトラムの疑いが持たれたのは75人。そのうちDSM-IV-TRの診断基準を満たしたのは60人だった。この60人のうち60パーセントにあたる36人が自閉性障害の診断基準を満たしている。60人のうち44人(73%)は男性であった。は自閉性障害の58パーセントが精神遅滞であり、42パーセントが通常範囲だった。13人のアスペルガー障害+特定不能の広汎性発達障害は高い知能指数を示し、平均は81.5(SD:18.2)で、4人が精神遅滞であった。


移住についての検討箇所があったので訳出しておく。

この調査では自閉症スペクトラムや他の精神障害を持つ子供たちの移住についての検討をしていない。しかし、おおよそ3分の1にあたる36%の子どもたちはブリック・タウンシップ(翻訳者注:調査の対象になった町)の外で生まれたことを記しておきたい。この割合は、一般的な子どもたちや他の精神障害の子どもたちが生後この街に移住してきた状況の中での位置づけをすることに有用である。この種の情報は疫学の研究にとっては非常に重要である。なぜならば、特定のコミュニティにおける自閉症スペクトラムの子どもたちや他の精神障害を持つ子供たちの有病率が、通常とは異なっているかどうかを示せるからである。通常とは異なる移住とは、家族が特別な教育や医療サービスを求めて移住をしてきたというような形で起こる。不幸にもこのようなデータの比較が、この研究では不可能だった。私たちは、将来的に他のコミュニティの有病率研究との比較が可能なように、他の町からブリック・タウンシップに移住をしてきた自閉症スペクトラムの率を示すことにする*1


自閉症スペクトラムや広汎性発達障害疫学調査は特定の地域に絞ったものがほとんどである。今のところ、全国規模での調査をしたものはFombonne(2001)*2のみで、2.99人(千人あたり)と90年代以降に行われた調査の中ではやや低い。


このような結果が出る大きな理由の一つが地域性の問題である。大がかりな疫学調査の場合には、何万人という子どもたちに対して診断をつけなければいけないので、広汎性発達障害を鑑別できる人材が多く必要になる。このような人材がたくさんいる地域はそもそも広汎性発達障害への取り組みが盛んな地域である。従って、この種の調査がされている地域というのは、教育・医療サービスを含めて環境が整ったところなのである。このような地域には、整った環境を目当てに、他の地域から広汎性発達障害の子どもを抱える親が引っ越しをしてくることがしばしばある。


仮定の話ではあるが、この調査では10家族がこの地域のサービスに魅力を感じて引っ越しをしてきたと考えると、千人あたりの有病率には1.1人の違いが出てくる。この調査の有病率は6.7人(千人あたり)だったので、10家族の引っ越しで1.1人の違いが出てくるとすると、16%の数値のズレが発生する。この調査では生後に移住をしてきたのは22人。この22人(家族)がすべてこの地域のサービスに惹かれて引っ越しをしてきたと仮定する*3と、有病率は6.7人から4.2人(千人あたり)に減少する。


広汎性発達障害というものはそもそもあまり多くないため、10家族程度の引っ越しでも有病率にかなり影響を与えるのである。特定の地域の疫学調査を見る時にはこの移住問題を忘れてはならない。

*1: Although this was not a study of migration patterns of children with autism, or other disabilities, we did note that about one third (36%) of the children lived outside Brick Township at birth. It would be helpful to be able to put this rate of moving into the town within a context of the rate of children in general or even the rate of children with other disabilities who moved into Brick Township after birth. Such information could be important for epidemiclogic studies, because it would tell if the prevalence of autism or other disabilities for particular communities was the result of differential migration, such as when families move to find particular educational or medical services. Unfortunately, such comparison data were not available for this study. We present the rate of children with autism who moved into Brick Township so that prevalence studies of other communities can be compared in the future.

*2:E Fombonne, H Simmons, T Ford, H Meltzer, R , Prevalence of Pervasive Developmental Disorders in the British Nationwide Survey of Child Mental Health. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry. 40(7):820-827, July 2001.

*3:引っ越しのすべてが教育・医療サービスの質を求めてのものだとは考えにくいが