藤川洋子「少年犯罪と軽度発達障害--家裁調査官の視点から」

藤川洋子,2007,
「少年犯罪と軽度発達障害--家裁調査官の視点から」
『現代のエスプリ』(474),218〜224


広汎性発達障害と犯罪の関係についての論文。他の2本の要約。


少年犯罪の中における広汎性発達障害の割合である。

・広汎性発達障害が診断、もしくは診断されうると思われる‥24件(2.8%)
ADHDが診断、もしくは診断されうると思われる‥49件(5.7%)
・知的障害(中・軽度精神遅滞)が診断されうると思われる‥19件(2.2%)


症状はしばしば併存するのでこの3つを足してしまって良いのかわからないが、少年犯罪の1割程度に発達障害を持っている少年が含まれていることになる。


調査概要。

 二〇〇四年、東京家庭裁判所でプロジェクトを組んでこころみた疫学調査である。同年七月一日から十月末日までの四カ月間に東京家裁が受理し、調査官が通常の面接調査をした全ケース八大二人について、保護者、学校数師らの情報も加えて広汎性発達障害ADHD、知的障害が疑われるものを抽出した。

 単純比較は難しいが、前二者の出現率は文部科学省が二〇〇三年に発表した調査結果を二〜三倍上回っている。司法領域においてこれうを鑑別する必要性の高さを示しているといえよう。


この調査についてはこちらの方が詳しいようだ。


次の調査は広汎性発達障害の犯罪傾向についてである。

 広汎性発達障害と診断あるいは鑑別された三二の非行事例を、性別、行為別、動機別に分類して、処遇上の留意点を論じたものである。性別では、男子二九例、女子三例であった。行為別では、性犯罪が一四例(四三・八%)と最も多く、傷害・暴行が六例(一八・八%)、放火が二例(六二二%)、窃盗が五例(一五・六%)、その他が五例であった。
 ちなみに、司法統計の主要な罪名別人員では、窃盗と横領を併せた件数が全体の八割を占めており、性非行は一%に満たず、放火は〇二%に過ぎない (平成一五年)。
 こうしてみると、性非行と放火の割合が突出しており、診断上も注意が必要であることがわかる。
 性犯罪の内訳では、強制わいせつが一四件中九件(六四二二%)を占め、条例違反(痴漢行為)が二件、あとは、強姦未遂、性器露出、性的内容の脅迫が各一件ずつであった。これらの非行態様は、いずれも完全な一方通行であって被害者の反応を期待しておらず、一般の非行少年が、被害者の恐怖心や羞恥心を利用して性犯罪に及ぶのとは本質的に発生機序が異なっていた。
 放火についても、同様である。放火は、圧倒的な破壊力を持つために重罪と見なされているが、広汎性発達障害を有する少年では、物質による燃え方の違いが知りたいとか、ゴミ袋に火を点けて、炎上するときに出る音が聞きたいといった実験的関心によるものと考えられた。障害のない少年の場合、その動機が、特定の人や集団に対する腹いせであったり、何らかの目的を達するための手段(例えばテスト用紙を燃やしたいために学校に放火する等)であったりするのとは、印象がまったく異なっていたのである。


性非行と放火が非常に多いという結果になっている。以下は動因による分類。

(1)対人関心接近型……二一例(六五・五%)
 家裁が扱う十四歳から十九歳という年齢では、異性の存在や性的な行動に関心が向く。アダルトビデオや漫画をそのままコピーした強制わいせつ事例、肩を抱き合う男女の姿に触発され、見ず知らずの女性とそれをしようと暴行を加えた事例や、パソコンで遊ぶうち援助交際が成立し、プロ顔負けの淡々としたやり方で売春を重ねた少女の事例、タレントにストーカー行為を行った少女の事例など


(2) 実験型
①人体実験……二例(六二二%)
 かねて画鋲に強く執着していた少年が、柔道場に画鋲を上向きに多数埋め込んだ事例や、実験的に性犯罪の手口をエスカレートさせた事例
②物理実験…・‥二例(六二二%)
 燃焼、爆音といった物理現象に関心を持った放火の事例


(3) パニック型
①偶発……一例(三・一%)
 感覚過敏のある女子大生が電車内で辞書を読みふけっていたところ、電車が揺れて隣の中年女性がもたれかかってきたことでパニックを起こして、その女性の顔をひっかいた事例
②フラッシュバック……三例(九・四%)
 いずれも、幼少時に激しい体罰や庖丁を突きつけられるなどを経験しているが、チャンネル争いで父親を殴り出すと止まらなくなり、死亡させた事例、弟に馬鹿にされてカッとなり、台所の庖丁で弟の腹を刺した事例など


(4) その他、障害本来型……三例(九・四%)
 武家姿が好きな少年が、腰に模造刀あるいは十手を差して銃刀法違反に問われた例、親に叱られて家出した先の交番で、好きな刑事ドラマのストーリーをそのまま申告した例(軽犯罪法違反)、屋外の方が気持ちがいいからという理由で人目のある場所で自慰行為をした例であった。


対人関心接近型が多い。やはり対人関係での問題が(本人は意図していないうちに)犯罪に発展するケースが多いようだ。


こちらの調査は以下の論文に詳しい。

  • 藤川洋子・阿曽直樹・須藤明ほか,2004,「広汎性発達障害事例についての実証的研究--調査及び処遇上の留意点」『家裁調査官研究紀要』(1),92〜116(Webcat)