井出草平の研究ノート

自閉症は左脳、アスペルガー症候群は右脳の障害で連続的なものではない


自閉症は左脳の機能不全、アスペルガー症候群は右脳の機能不全。神経行動学上では同じ障害ではないと言われているようだ。このことは、自閉症からアスペルガー症候群などへ連続的に障害がつながると考える自閉症スペクトラムの考え方への反証になる。自閉症スペクトラム説は根拠が薄弱という趣旨の事が言われる(たとえばこれ)のも基礎系の研究からの支持が芳しくないということもあるのだろうか。


アスペルガー症候群と非言語性学習障害

アスペルガー症候群と非言語性学習障害

 いまだにこの分野ではほとんど見解の一致がみられないが、自閉症は左半球の機能不全と考えられ(Dawson et al 1986)、したがって(右脳の機能障害と考えられているアスペルガー症候群とは:訳者注)同じ神経行動学上の障害ではないため、自閉症アスペルガー症候群が同じものであるはずがないと考える研究者もいる。
 高機能自閉症アスペルガー症候群非言語性学習障害の特徴に関するクリン・ヴォルクマー・スパロー・シチュッティ・ロルケらの研究では(1995)、高機能自閉症アスペルガー症候群の間にかなりの違いをみいだしている。

キャサリン・スチュワートの本は第三部が非常に実践的な内容。非言語性学習障害というものは日本ではあまり広まっていないように思えるが、訳者によると、アスペルガー症候群と似たものであり、教育現場での呼称を非言語性学習障害で、医療現場での呼称をアスペルガー症候群と考えるとわかりやすいと説明されている。しかし、非言語性学習障害は性差はないという説明もあり、これは男性が多いアスペルガー症候群とは異なる。教育と医療の用語の違いのみならず、母集団が異なるのではないかと思われる。


この本は自閉症スペクトラム説を批判しているところがいくつかある。

 本書は非言語性学習障害アスペルガー症候群についての−一つの見方を示しているもので、異なった見方もある。本書の結論は、非言語性学習障害アスペルガー症候群は別の障害だが、関連性のある障害としてとらえるべきである、というものだ。


この2つの障害の関連性について正確なことは不明だが、この2つが同じ延長線上にある連続体であり、自閉症スペクトラムとは別のものである可能性がある。しかしこのような考え方はまだ証明されたものではなく、現在のところほとんどの人たちはアスペルガー症候群自閉症スペクトラムに属する障害であると考えており、アスペルガー症候群の子どもをしばしば自閉症の子どもと呼んでいる。本書はそのような考え方に異議を唱えるものであるが、異なる研究分野を越える一貫した理解を発展させるための知見については、今後の研究を待たなければならない。


ちなみに、原著は自閉症スペクトラム説批判をしているが、訳者は自閉症スペクトラム説を支持しているらしく、批判のたびに訳者注で再批判が行われているのが興味深い。


アスペルガー症候群周りの定義・用語の氾濫と主張の行き違いは当分無くなりそうにない気がした。


参照:
非言語性学習障害についてはこちらのHP(英語)が詳しい
http://www.nldline.com/
http://www.nldontheweb.org/