井出草平の研究ノート

KHJのひきこもり160万人説の計算式には間違いが2つある


ひきこもりの「推計値」として全国引きこもりKHJ親の会は160万人という数字をホームページに掲載している。


この数字は明確に間違えた数値と根拠なく書かれている数値から出されている。KHJの示している推計の計算式は以下のようなものである。



そもそもこの計算式は妥当ではない(科学的ではない)のだが、明確に間違えた数値と根拠なく書かれている数値がそれぞれ1カ所ずつあることは指摘できる。一つ目として、赤線を引いた8割という数値は誤りである。この8割(推定残存率)というのは、不登校のうちどのくらいがひきこもりになっているかという数値である。


今のところ目安として使用できる数値は現代教育研究会「不登校に関する実態調査」の調査で出た2割というものである。この調査は、中学不登校児童の5年後を追った全数調査である。その中で不登校から5年後の時点で「就学・就労ともにしていない者」は23%である。23%は社会参加に成功しなかった者として考えられる。2割が社会参加に失敗している訳だが、逆に残りの8割程度は就学・就労に成功している。不登校になると必ずひきこもりになると考えるのは誤りである。不登校からひきこもりに移行する者は多数派ではない。従って、上記の計算式で使われている推定残存率8割という数値は現実離れした値であると考えられる。


残存率2割で計算しなおしてみると、以下のようになる。

時期 人数
中学生 95,000
高校生 251,000
18才〜20人 195,000
思春期から持ち上がりの引きこもり 240,000
大人から発生のひきこもり 122,000
41才〜 13,000


数値を2割に直すと91万6000人になる。ひきこもりは推定160万人となっていたが、数値を訂正すると半分強くらいに減少する。


もう一つの問題の数値は「文部科学省発表の85% 9万5000人」というところである。まず、細かい所であるが、中学不登校児童数は10万人程度なので85%は8万5000人になり、不登校児童数が微妙に変である。また、不登校率は2000年まで増加して、その後10万人程度で安定という挙動をとるので、ずっと一定であったように考えるのは、まずい(この推計式がそもそもまずいのだが)。


また85%という数値の方だが、これを解釈すると不登校児童の85%程度はひきこもりだということだろう。このようなデータを文部科学省が発表したことはない。文部科学省が発表している不登校児童のうち85%程度はひきこもりではなかろうかとKHJが適当に数値を書いているのだと思われる。試しにこの85%を50%に変えてみて、中学不登校児童数を10万人に訂正して計算すると以下のようになる。

時期 人数
中学生 50,000
高校生 132,000
18才〜20人 103,000
思春期から持ち上がりの引きこもり 127,000
大人から発生のひきこもり 64,000
41才〜 7,000


これを足し合わせると48万3000人ということになる。160万人からずいぶんと減るものである。岡山大学の疫学調査では、41万人、32万人という数字がでているので、このあたりにはなるのではないかとは思うが、重要なところはこの部分ではなく以下の2点である。

  1. KHJが推計の計算に使っている数字には間違った数値と根拠がない数値が使われている
  2. 根拠のなく書かれている数字を少し変えて計算してみると160万人という数字は激変する