井出草平の研究ノート

アスペルガー症候群と仕事

クライン、ヴォルクマーら編の『総説 アスペルガー症候群』から編者であるアミー・クラインとフレッド・ヴォルクマーによる成人期についての記述。職業訓練のところ。

職業訓練


 アスペルガー症候群を持つ成人は、面接が苦手で、社会的困難性があり、変わっている、不安な状況に弱いなどの理由から、進学や就職に必要な最初の条件をクリアできないことが多い。したがって、職業訓練の際に重要なのは、進学や就職の最初の段階で必要なあらゆるソーシャル・スキルを身につけさせることである。ターゲットとすべき技能には、身だしなみ、自己演出、応募の手紙の書き方、さらに面接過程のあらゆる側面における技能が含まれる。同様に大切なのは、神経心理学的障害が関係しない領域の仕事、ある程度支援や援護が受けられる仕事に威かせること、そういった仕事の訓練を受けさせることである。大学では個人指導システムによって技能経験を積ませる。その際、教師や仲間の学生が直接彼らの相談に乗ったり、頻繁に、定期的に連絡をとるなどして、彼らの進歩の度合いや問題がないかどうかなどの経過観察を行うのがよい。就職に際しても同様の環境が用意されていることが必要である。少なくとも最初は、具体的な仕事の見習い以外にも彼らの指導が必要だということを監督者または同僚のひとりに理解させ、個人的な指導と援助を行う必要がある。また 一般に、対人的な要求があまり多くない仕事の方が望ましい。
 最初にアスペルガー(Asperger 1944)が強調したように、現在ある才能や特別な興味の対象を一般に通用する能力に育て上げることは必要である。しかし、これは仕事を確保する(そして維持する)ために必要な課題の一部に過ぎない。食事休憩時の振る舞いや、一般の人々や同僚との接触、その他社会適応または臨機応変な態度が要求されるあいまいな状況での行動など、仕事の件質によって決まる対人的な要求にも同様の注意を払うべきである。職業面の可能性と職業訓練の戦略に関する優れた論文が出ている(Gerhardt & Holmes,1997;Van Bourgondien & Woods,1992など)が、現時点では、仕事に関する指導のできる知識豊富な専門家や、この分野の公共サービスや情報源の数はごく限られている。同様に、適切な人学や職業訓練、自立生活プログラムをうまく組み合わせたものがないことも不満である。これらはいずれも、アスペルガー症候群を持つ成人とその家族にとってなくてはならない重要なものであるが、今のところ自力で探さなければならないのが実情である。できれば家族支援団体や臨床家が、サービスや情報源、知識などの蓄積を重点的に行い、アクセスしやすい媒体で提供してほしいと思う。


文中で出てくる論文は以下の2つ。どちらも書籍の所収。

  • Gerhardt, P. F., & Holmes, D.L. (1997). Employment: Options and issues for adolescents and adults with autism. In D. J. Cohen & F. R. Volkmar (Eds.), Handbook of autism and pervasive developmental disorders (pp.650-664). New York: Wiley. http://books.google.co.jp/books?id=r6z7CT5v8L4C


実際の援助に沿った形の記述。インクルージョンのまわりではいろいろな議論はあるものの、実践的にはこのような形が一番まっとうなのだと思う。