井出草平の研究ノート

町田女子高生刺殺:少年の責任能力2審も認定 東京高裁

 東京都町田市で05年11月、都立高1年の古山優亜(こやまゆうあ)さん(当時15歳)が刺殺された事件で、殺人罪に問われた元同級生の少年(19)=当時16歳=の控訴審判決が2日、東京高裁であった。中山隆夫裁判長は、懲役11年の実刑とした1審判決(07年7月)を支持し、弁護側の控訴を棄却した。1審に続いて責任能力の有無が主な争点となったが、判決は「精神障害の影響で相当興奮した状態だったが、完全責任能力はあった」と認定した。


 弁護側は「少年は広汎性発達障害の影響で著しいパニック状態に陥っていた。当時は心神喪失心神耗弱状態で、殺意もなかった」と主張した。


広汎性発達障害の裁判。弁護側は心神喪失心神耗弱を主張してるが、裁判所は完全責任能力を認定している。もし、心神喪失心神耗弱が認められれば、広汎性発達障害の犯罪者は医療観察法の対象にもなりえるので、慎重な判断が必要とされる事案。裁判所は「刑務所でも一定の療育効果は期待できる」と言っているが、これがどのくらい妥当なのかは、詳しく知らないので分からない。そもそも裁判所にとっては、妥当かどうかは、おそらくあまり問題ではないように思われる。裁判所にとっての関心事は広汎性発達障害心神喪失心神耗弱を認めるか否かにあるのだから。


それはそうと、広汎性発達障害を持つ者による犯罪(性犯罪など連続して繰り返される犯罪)に対して、療育に失敗した論文は読んだことがあるが、成功した論文はぱっと思いつかない。刑務所に入れるより、療育したほうが良いという(この事件での弁護側の主張しているようなことの)根拠になる論文を見つけようとずっと思っているのだが、まだ出会えていない。そういうエビデンスがあったらあったで医療観察法の対象にする後押しにもなるので、それはそれで皮肉な結果にはなる訳だが。




町田女子高生刺殺:少年の責任能力2審も認定 東京高裁


 東京都町田市で05年11月、都立高1年の古山優亜(こやまゆうあ)さん(当時15歳)が刺殺された事件で、殺人罪に問われた元同級生の少年(19)=当時16歳=の控訴審判決が2日、東京高裁であった。中山隆夫裁判長は、懲役11年の実刑とした1審判決(07年7月)を支持し、弁護側の控訴を棄却した。1審に続いて責任能力の有無が主な争点となったが、判決は「精神障害の影響で相当興奮した状態だったが、完全責任能力はあった」と認定した。

 弁護側は「少年は広汎性発達障害の影響で著しいパニック状態に陥っていた。当時は心神喪失心神耗弱状態で、殺意もなかった」と主張した。

 中山裁判長は(1)凶器の包丁を意識して台所から持ち出している(2)十分に認識して首を切り裂いている(3)犯行後、包丁を捨てる証拠隠滅をしている−−などから「確定的な殺意が認められる上、善悪を判断して行動する能力に欠けたり、著しく減退した状態になかった」と完全責任能力を認めた。

 また、弁護側は「障害を持った少年は少年院に収容し、治療すべきだ」として保護処分が妥当と主張したが、中山裁判長は「障害の程度は重いとまでは言えず、刑務所でも一定の療育効果は期待できる。顔や首を多数回切りつける際立って残忍な犯行であり、事件の重大性からすると、更生のみに重きを置くことで社会の納得を得ることはできない」と退けた。

 判決によると、少年は05年11月10日夕、町田市本町田の古山さん方を訪問し、古山さんの顔や首を台所にあった包丁で切り付けて殺害した。中山裁判長は「犯行の経緯や動機は不明とせざるを得ない」と述べた。 

 最後に中山裁判長は「(判決は)不本意かもしれませんが、あなたがすべてありのままに語っているとは思えませんでした。被害者やその母親に心からわびてほしい。事件に向き合い、自分のしたことを見つめ直してほしい」と少年を諭した。【伊藤一郎】

 ◇優亜さんの母「棄却当然」
 優亜さんの母君子さんは「控訴棄却は当然だと思います。被告には、自らの罪に真摯(しんし)に向かい合ってほしいです」とのコメントを出した。

 【ことば】広汎性発達障害 自閉症アスペルガー症候群など、自閉症障害の総称。対人関係を築くのが苦手で、限られた人物に執着する傾向がある。共感性や集団行動に困難が伴うとされる一方、記憶力など優れた能力を発揮する場合もある。

毎日新聞 2009年3月2日 11時55分(最終更新 3月2日 13時22分)