312.81/312.82/312.89 行為障害(DSM-IV-TR)

行為障害 Conduct Disorder


診断的特徴
 行為障害の基本的特徴は,他者の基本的人権または主要な年齢相応の社会的基準や規則を無視する行動様式が反復または持続することである(基準A).これらの行動は大きく4群に分けられる:他の人々や動物に対して身体的危害を与えたり,与えようとする攻撃的行為(基準A1〜A7),攻撃的ではないが財産に損失または損害を与える行為(基準A8、A9),嘘をつくことや窃盗(基準A10〜A12),重大な規則違反(基準A13〜A15)である・3つ(またはそれ以上)の特徴的行動が過去12カ月間に存在していなければならず,またその1つは過去6カ月以内に存在していなければならない.その行動の障害は臨床的に著しい社会的,学業的,または職業的機能の障害を引き起こしている(基準B).行為障害の診断は18歳以上の者についても下してよいが,それは反社会性人格障害の基準を満たさない場合である(基準C).この行動様式は通常,家庭,学校,または地域社会など,種々の状況でみられる.行為障害をもつ者は行動上の問題を小さくみようとするので,臨床家はしばしば他の情報提供者に頼らなければならない.しかし,十分に監督していないことやその子供が行勤上の問題を言わないため,情報提供者もその子供の行為の問題をあまりよく知らないことがある.
 この障害をもつ子供あるいは青年は,他人に対して攻撃的行動をしかけたり,攻撃的に反応する.いばる,脅す,または威嚇する行動(基準A1),しばしば身体を使った喧嘩を始める(基準A2),重大な身体的危害を与えるような武器の便用(例:バット,煉瓦,割れた瓶,ナイフ,または銃)(基準A3),人(基準A4)または動物(基準A5)に対して残酷な身体的暴力を加える,被害者の面前での盗み(例:人に襲いかかる強盗,ひったくり,強奪,武器を侍っての強盗)(基準A6),性行為を強いる(基準A7)などをする・身体的暴力は強姦,暴行,まれには殺人の形をとることもある.
 他人の財産を故意に破壊することには,重大な損害を与えるために故意に放火したり(基準A8),故意に他人の財産をほかのやり方(例:車の窓を割る,学校を荒らす)で破壊すること(基準A9)が含まれるかもしれない.
 嘘をつくことや窃盗の行動には,他人の家,建物または車に侵入する(基準A10),または物や好意を得たりするため,または負債や義務を逃れるためにしばしば嘘をついたり約束を破ったり(例:他人を“だます”)(基準A11),被害者の気づかぬうちにかなりの物品を盗む(例:万引き,偽造)(基準A12)などが含まれる.
 また,この障害をもつ者は規則(例:学校の,親の)に対して重大な違反をすることがある.この障害をもつ子供は,親の禁止にもかかわらず,しばしば夜遅くまで外出する行為が13歳以前から始まる(基準A13).夜間,家を空けることもみられるかもしれない(基準A14).行為障害の症状とみなすためには,これが少なくとも2回起こらなければならない(または長期にわたって家に帰らない場合は1回だけでよい).身体的または性的虐待の直接的結果としての外泊は必ずしもこの基準に当てはまるものとはならない.この障害をもつ子供は,しばしば学校を怠けることがあり,それは13歳以前から始まる(基準A15).年長の者では,この行動は正当な理由なく,しばしば仕事を休むという形で表れる.


病型
 行為障害の2つの病型がこの障害の発症年齢に基づいて設けられている(すなわち,小児期発症型および青年期発症型).これらの2つの病型は行為に表れる問題の特徴的性質,発達過程と予後および性比に関して異なっている.どちらの病型も軽症,中等症,重症の形をとる.発症年齢を決める際,その若者や保護者から情報は得るのがよい.多くの行動が隠蔽されて述べられることがあるため,保護者は症状を少なめに報告したり,発症年齢を遅くとらえることがある.

312.81 小児期発症型:この病型は10歳以前に行為障害に特徴的な基準の症状が少なくとも1つ始まっていると定義される.小児期発症型の者は通常男性で,しばしば他者に対して身体的攻撃性を示し,仲間との関係を乱し,小児期早期に反抗挑戦性障害であったことがあり,通常,思春期以前に行為障害のすべての基準を満たす症状をもっている.この病型をもつ子供の多くは,注意欠陥/多動性障害も同時にもつ.小児期発症型をもつ者は青年期発症型の者と比べて,持続的な行為障害をもつことが多く,成人期の反社会性人格障害に発展しやすい.
312.82 青年期発症型:この病型は10歳以前に行為障害に特徴的な基準の症状がないものと定義される.小児期発症型の者と比較して,青年期発症型の者は攻撃的行動を示すことは少なく,仲間との正常な関係ももちやすい傾向にある(他の者と組んでしばしば行為上の問題を示すが).青年期発症型の者では行為障害が持続することは少なく,または成人期の反社会性人格障害に発展することが少ない.小児期発症型に比べて青年期発症型では女性の割合が多くなる.
312.89 発症年齢特定不能:この病型は,行為障害の発症年齢がわからない場合に使用する.

重症度の特定用語
「軽症」:診断を下すのに必要な項目数以上の行為の問題はほとんどなく,行為の問題が他人に比較的軽微な害しか与えていない(例:嘘をつく,怠学,許しを得ずに夜外出する).
「中等症」:行為の問題の数および他者への影響が“軽症”と“重症”の中間である(例:被害者の目の届かないところで盗みをすること,破壊行為).
「重症」:診断を下すのに必要な項目数以上に多くの行為の問題があるか,または行為の問題が他者に対して相当な危害を与えている(例:性行為の強要,残酷な身体的暴力,武器の使用,被害者の面前での盗み,破壊と侵入).


関連する特徴および障害
[関連する記述的特徴と精神疾患]行為障害をもつ者は他者の感情,希望,幸福に対して感情移入や思いやりがほとんどない.特に,どちらともとれる状況では,この障害をもつ者はしばしば,他者の意図を実際よりも敵意のある,脅威的なものと誤って解釈し,攻撃的に反応し,それが当然と正当化する.この障害をもつ者は冷淡で,罪または良心の呵責の感情を十分もっていないであろう.この障害をもつ者の中には罪の意識を表現することで罰が減じられたり,免ぜられたりするかもしれないことを知っている者もおり,このためこの者達が表現する良心の呵責が純粋なものかどうかを評価することは困難なことがある.この障害をもつ者は仲間のことをすぐに告げ口し,自分の誤った行為を他者のせいにしようとする.“頑健さ”のイメージを与えているが,自己評価は低いかもしれない.他者には,自己評価が過度に高いと思われているかもしれない.欲求不満耐性の低さ,落ち着きのなさ,かんしゃくの爆発,向こう見ずさがしばしば随伴する特徴である.行為障害をもつ者で事故を起こす率は,この障害のない者と比べて高いようである.
 行為障害はしばしば,低年齢から,性行動,飲酒,喫煙,非合法な物質の使用,向こう見ずで危険な行動を伴う.非合法の薬物を使用することにより行為障害が持続する危険は増大する.行為障害による行動によって停学,放校,仕事への適応の問題,法的問題,性行為感染症,望まない妊娠,事故や喧嘩による身体的外傷に至ることがある.これらの問題によって通常の学校への出席,親または里親のもとでの生活ができなくなることもある.自殺念膚,自殺企図または完遂自殺も一般の頻度より高率である.行為障害は平均以下の知能(特に動作性IQに関して)と関連する場合がある.学業成績,とりわけ読むことや他の言語能力がその者の年齢や知能から期待される水準より低いことがしばしばあり,学習障害またはコミュニケーション障害の追加診断が妥当であることもある.注意欠陥/多動性障害は行為障害をもつ子供によくみられる.行為障害は以下の精神疾患の1つまたはそれ以上を伴うこともある:学習障害,不安障害,気分障害,物質関連障害.以下の要因が行為障害の発症素因となることがある:親の拒絶や無視,乳児期の気難しさ,厳しいしつけと一貫性のない養育の仕方,身体的または性的虐待,監督の不足,早期からの施設での生活,保護者の頻繁な交替 大家族,妊娠中母親の喫煙の既往,仲間からの拒絶,不良仲間との交流 近隣で暴力にさらされること,ある種の家族性の精神病理(例:反社会性人格障害,物質依存または乱用).
[関連する検査所見]いくつかの研究で,行為障害をもつ者はこの障害のない人と比較して,心拍数と皮膚の電気伝導度が低いということが報告されている.しかし,生理学的覚醒レベルがこの障害の診断に役立つわけではない.


特有の文化,年齢,性別に関する特徴
 好ましくない行動の様式を防衛的なものとみなす状況(例:脅迫される,貧窮,高い犯罪率)で行為障害の診断がしばしば誤って適用されることがあると懸念されてきた.DSM-IVにおける精神疾患の定義にのっとり,行為障害という診断は,問題となる行動がその人に潜在する機能不全による症状であり,今現在おかれている社会的状況に対する反応ではない場合にのみ適用されるべきである.さらに,戟争で荒廃した国々から移民してきた若者で,そのような状況を生き抜くために必要であったかもしれないような攻撃的行動がみられる者には,必ずしも行為障害の診断が妥当であるとは限らない.臨床家にとって,望ましくない行動を引き起こした社会的経済的状況を考慮することが有用である.
 年齢とともに身体的強さ,認知能力,性的成熟を増すにつれて,この障害の症状は変化する.重症度の低い問題行動(例:嘘をつく,万引き,喧嘩)が最初に顕在化する傾向にあるのに対して,他の問題行動(例:夜盗)は後に現れる傾向にある.典型的には最も重症の行為の問題(例:強姦,被害者の面前での盗み)は最後に現れる.しかし,低年齢からひどく損害を与える行動をとる者もあり(これはより重い予後を予測させる),人により大きなばらつきがある.
 行為障害,特に小児期発症型は男性に多い.行為の問題はそれぞれの型により性差がみられる.行為障害の診断が下された男性はしばしば,喧嘩,窃盗,破壊行為,学校の規則違反を示す.行為障害の診断が下された女性には,嘘をつく,怠学,家出,物質使用,売春がみられる.男性では面と向かっての攻撃がより多いが,女性ほ面と向かってではない行動をとる傾向がある.


有病率
 行為障害の有病率はこの20年の問に増加してきたように思われ,地方より都市部で高いかもしれない.標本となった人口の性質と確認の方法によって有病率は大きくばらつく.研究によれば一般人口中ではその率は1%未満から10%以上に及んでいる.有病率は女性より男性で高い.行為障害は小児の精神保健外来・入院施設で最もしばしば診断を下される障害の1つである.


経過
 行為障害の発症は就学前の年齢であることもあるが,最初の明らかな症状は,たいてい小児期中期から青年期中期までの期間に現れる.反抗挑戦性障害は行為障害,小児期発症型の一般的な前駆型である.16歳以降の発症はまれである.行為障害の経過にはばらつきがある.大多数でこの障害は成人期までに寛解する.しかし,かなりの率の者が成人期に達してもなお,反社会性人格障害の基準を満たすような行動が持続する.行為障害をもつ者の多く,特に青年期発症型および症状の数が少なく軽症である者は成人として十分に社会的・職業的に適応する.早期発症は予後が悪く,成人後に反社会性人格障害および物質関連障害となる危険率が高いことをが予想される.行為障害をもつ者は後に気分障害,不安障害,身体表現性障害,および物質関連障害となる危険がある.


家族発現様式
 双生児および養子研究による評価によれば,行為障害は遺伝的および環境要因の両方の影響を受けることが示されている.行為障害の危険は反社会性人格障害をもつ生物学的両親または養父母,または行為障害の同胞をもつ小児で高い.この障害はアルコール依存,気分障害または精神分裂病をもつ生物学的親の子供,または注意欠陥/多動性障害の病歴のある生物学的親の子供により多くみられる。


鑑別診断
 反抗挑戦性障害では行為障害でみられるいくつかの特徴(例:権威者に対する不服従および反抗)を含むが,他人の基本的人権や年齢相応の社会的基準や規則を無視するようなより深刻な行動様式の持続を含むことはない.その人の行動様式が行為障害と反抗挑戦性障害の両方の基準を浦たす場合は,行為障害の診断が優先され,反抗挑戦性障害の診断は下されない.
 注意欠陥/多動性障害の子供では多動性または衝動性の行動がしばしばあり,それが破壊的であることがあるが,この行動はそれ自体年齢相応の社会的基準を軽視しておらず,それゆえ,通常は行為障害の基準を満たさないことになる.注意欠陥/多動性障害と行為障害の両方の基準を満たす場合には両方の診断を与えておくべきである.
 落ち着きのなさと行為の問題は気分障害をもつ小児や青年にしばしば起こる.このような症状は,通常その挿話性の経過と随伴する気分障害に特徴的な症状に基づいて,行為障害でみられる行為の問題の型から鑑別できる.その両方の基準を満たす場合には,行為障害と気分障害の両方の診断を下してもよい.
 他の特定の精神疾患の基準を満たさないが臨床的に著しい行動上の問題が,明らかに心理社会的ストレスの始まりと関連して現れた場合,適応障害(行為の障害を伴う,または情動と行為の混合した障害を伴う)の診断を考慮するべきである.行為障害または適応障害の基準を満たさない孤発性の行為の問題は,小児または青年の反社会的行動と記載してよい(「臨床的関与の対象となることのある状態,追加」,704頁参照).行為の問題が社会的,学業的,または職業的機能における障害と関連して反復的かつ持続的な形で現れる場合にのみ,行為障害と診断される.

行為障害


 他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で.以下の基準の3つ(またはそれ以上)が過去12カ月の問に存在し,基準の少なくとも1つは過去6力月の間に存在したことによって明らかとなる.


〈人や動物に対する攻撃性〉
(1)しばしば他人をいじめ.脅迫し,威嚇する.
(2)しばしば取っ組み合いの喧嘩を始める.
(3)他人に重大な身体的危害を与えるような武器を使用したことがある(例:バット,煉瓦,割れた瓶,ナイフ,銃).
(4)人に対して残酷な身体的暴力を加えたことがある.
(5)動物に対して残酷な身体的暴力を加えたことがある.
(6)被害者の面前での盗みをしたこと力ある(例:人に襲いかかる強盗,ひったくり,強奪,武器を使っての強盗).
(7)性行為を強いたことがある.
〈所有物の破壊〉
(8)重大な損害を与えるために故意に放火したことがある.
(9)故意に他人の所有物を破壊したことがある(放火以外で).
〈嘘をつくことや窃盗〉
(10)他人の住居,建造物,または車に侵入したことがある.
(11)物や好意を得たり,または義務を逃れるためしばしば嘘をつく(すなわち,他人を“だます”).
(12)被害者の面前ではなく.多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き,ただし破壊や侵入のないもの:偽造).
〈重大な規則違反〉
(13)親の禁止にもかかわらず,しばしば夜遅く列出する行為が13歳以前から始まる.
(14)親または親代わりの人の家に住み,一晩中,家を空けたことが少なくとも2回あった(または,長期にわたって家に帰らないことが1回).
(15)しばしば学校を怠ける行為が13歳以前から始まる.

 この行動の障害が臨床的に著しい社会的,学業的,または職業的機能の障害を引き起こしている.
 その者が18歳以上の場合,反社会性人格障害の基準を満たさない.

▲発症年齢lこよる病型でコード番号をつけよ
 312.81行為障害,小児期発症型:10歳になるまでに行為障害に特徴的な基準の少なくとも1つが発症
 312.82行為障害,青年期発症型:10歳になるまでに行為障害に特徴的な基準はまったく認められない.
 312.89行為障害,発症年齢特定不能:発症年齢が不明である.
▲重症度を特定せよ
軽症 診断を下すのに必要な項目数以上の行為の問題はほとんどなく,および行為の問題が他人に比較的軽微な害しか与えていない.
中等症 行為の問題の教および他者への影響が“軽症”と“重症”の中間である.
重症 診断を下すのに必要な項目数以上に多数の行為の問題があるか.または行為の問題が他者に対して相当な危害を与えている.

18歳以上の者に対しては,反社会性人格障害の基準をも刑たさない場合にのみ,行為障害の診断が下される.18歳末粥の者に対しては,反社会性人格障害の診断は下されない.