難治性うつ病への治療法

イギリスでの投薬ガイドラインモーズレイの最新版(10版)での指針。オーソドックスな方法で治らない、難治性うつ病への治療法の提案の箇所を翻訳した。日本語で出ている2001年度版(asin:4791104528)にも該当ページがあるが、かなり顔ぶれが変わっている。抗精神病薬が第3選択から第1選択へ移動していることと、第3選択の治療法がかなり追加されオプションの幅が広がっていることが主な変更点である。


The Maudsley Prescribing Guidelines, Tenth Edition

The Maudsley Prescribing Guidelines, Tenth Edition

第1選択 文献で一般的に支持されており、広く使われている治療

日本で認可されていない薬はイタリック体で表記してある。


治療 用法 長所 短所
リチウム付加 血漿濃度0.4-1.0mmol/Lを目安とする 十分に確立されている 血漿濃度レベルが高すぎることによってしばしば忍容性が低い
約半数に効果的 潜在的な毒性(NICEはECGを薦めている)
文献支持が十分 専門医への照会が必要
NICEによって推奨されている 血漿濃度モニタリングが不可欠
ECT(電気痙攣療法) 十分に確立されている 一般社会での評判が悪い
効果的である 一般麻酔科医が必要
文献支持が十分 専門医への照会が必要
通常最終的な療法とされる
通常他の療法と組み合わせる
トリヨードサイロニン(T3)付加 20-50μg/日
高用量で安全に使われている
通常忍容性は良好 TFTモニタリングが必要
文献支持が良好(STAR-D含む) いくつか無効とする研究がある
オランザピン(ジプレキサ)+フルオキセチン(プロザック) 12.5mg+50mg/日 研究が盛んである 高価
通常忍容性は良好 体重増加のリスクがある
オランザピン+三環系抗うつ薬も効果的かもしれない イギリスでの臨床経験が限られている
SSRI/SNRI+クエチアピン(セロクエル) 300-600mg/日 エビデンスは発展途上 低血圧、鎮静、便秘が問題になる可能性がある
通常忍容性は良好
抗うつ剤の効果にもっともらしい説明がある
リスペリドン(リスパダール)を抗うつ剤に付加 0.5-2mg/日 エビデンスは発展途上 低血圧、高プロラクチン血症
通常忍容性は良好
アリピプラゾール(エビリファイ)を抗うつ剤に付加 5-20mg/日 エビデンスは発展途上(良いRTCが含まれる) アカシジア、情動不安がよく起こる
通常忍容性は良好
ブプロピオンSSRIに付加 400mg/日まで STAR-Dによる支持 イギリスではうつ病に認可がない
通常忍容性は良好
SSRI or ベンラファキシン+ミアンセリン(テトラミド) or ミルタザピン(リフレックス) アンセリン 30mg/日
ミルタザピン 30-45ng/日
NICEによって推奨されている セロトニン症候群のリスク
通常忍容性は良好 アンセリンによる血液疾患のリスク
妥当な文献的支持がある
広く使われつつある


トリヨードサイロニン(T3、チロナミン)の代わりにサイロキシン(T4、チラーヂン)が使われることもあるが、臨床成績はトリヨードサイロニンの方が優れている。

NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)とはのことでイギリスの国民保険サービス(National Health Service)の特別保健当局(special health authority )のことである。

ECGとは心電図(Electrocardiogram)のこと、TFT(Thyroid function tests)とは甲状腺機能検査のことで特にfreeT3のモリタリング必要になる。


第2選択 出版された文献の中では評価が一致しておらず、あまり広くは使用されていない治療

治療 用法 長所 短所
ラモトリギン(ラミクタール)付加 200mg/日を目安に。ただし低用量でも効果的かもしれない 妥当な文献的支持がある ゆっくりとした滴定(増量に時間がかかる)
非常に広く使われている 発疹のリスク
おそらく双極性障害へのデータがより堅牢 適切な摂取量が不明確
ピンドロール付加 5mgを一日3回、もしくは7.5mgを一日一回 忍容性は良好 データは反応加速に主に関係している
プライマリケアで迅速に開始できる 難治性のものではデータに矛盾が生じている(いくつかのネガティブな研究がある)
良好と判断できる妥当な研究がある(ただし、SSRIトラゾドン(デジレル)、ベンラファキシンに限られる) 適切な摂取量が不明確、高用量がより効果的かもしれない
SSRI+ブスピロン 60mg/日まで STAR*Dによる支持 高用量での忍容性は低い(目まいが広汎にみられる)
ベンラファキシン高容量 >200mg/日 通常忍容性は良好 文献的支持は限定的である
プライマリケアで迅速に開始できる 吐き気・嘔吐が非常に広汎にみられる
NICEによって推奨されている 離脱反応がよく起こる
STAR*Dによる支持 血圧モニタリングが不可欠

第3選択 他の治療法

補足は原文にはなく保険適応と過去のモーズレイ・ガイドラインの説明等を付け加えた。

治療 用法 コメント 補足
アマンタジン(シンメトレル)付加 300mg/日まで データが限定されている インフルエンザ治療薬
カルベルゴリン(カバサール) 2mg/日回 非常にデータは限られている ドパミン受容体作動薬、抗パーキンソン病
クロナゼパム(リボトリール)付加 0.5-1.0mg/日 ベンゾジアゼピンの使用は広くなされているが、あまり良い支持はされていない てんかん
メカミラミン付加 10mg/日まで 21人へのパイロット研究が1例のみ ニコチン拮抗薬
メチラポン(メトロピン)付加 1000mg/日 データが難治性のものではない クッシング症候群治療薬
トリプトファン付加 1日3回2-3g 長きにわたる成功使用例 代謝されセロトニンの前駆体となる。ヒドロキシル化した5HTPが現在は一般的。難治性うつ病に使用するには効力がマイルド。臨床実験はMAO阻害薬もしくは三環系抗うつ薬との併用に集中している
ヨヒンビン付加 30mg/日 データが難治性のものではない 勃起不全治療薬、α受容体拮抗薬、サプリメント
亜鉛付加 25mg Zn+/日 難治性ではないケースで良い結果を出している臨床試験(60人)がある
ジプラシドン 160mg/日まで 妥当な支持がある 抗精神病薬
MAO阻害薬+三環系抗うつ薬 例トリミプラミン(スモンチール)+フェネルジン 長きにわたる成功使用例。ただし高度の注意が必要 60〜70年代年代に広く使用された。潜在的相互作用に注意。
デキサメサゾン 3-4mg/日 4日までの使用。データは限定的 ステロイド
ケトコナゾール 400-800mg/日 稀に使われる。肝毒性のリスク 抗真菌薬。日本では外用薬のみ。
モダフィニル(モディオダール) 100-400mg/日 データが難治性のものではない ナルコレプシー睡眠時無呼吸症候群、交代勤務睡眠障害の治療薬
通常抗うつ剤に付加される
不安を悪化させるかもしれない
Nemifitide 40-240mg/日(SC) 25人へのパイロット研究が1例のみ メラニン生成抑制剤、5-HT2A アゴニスト
ノリトリプチリン(ノリトレン)±リチウム うつ再燃治療
エストロゲン 様々な処方 データは限定的
オメガ-3-トリグリセリド
エイコサペンタエン酸
1000-2000mg/日 データの蓄積は発展途上。通常は抗うつ剤に付加される。 高脂血症治療薬
プラミペキソール(ビ・シフロール) 0.125-5mg/日 難治性の単極性うつ病に関するデータがある 抗パーキンソン剤
リルゾール(リルテック) 100-200mg/日 かなり限定されたデータ。高価。 筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬
S-アデノシル-L-メチオニン 400mg/日(筋肉注射)、1600mg/日(経口) 難治性うつ病に関してはデータは限定的 ビタミンL(活性メチオニン)
SSRI+三環系抗うつ薬 以前は広く使われていた
rTMS(反復性経頭蓋磁気刺激) 多くのデータの蓄積がある
三環系抗うつ剤高用量 以前は広く使われていた
テストステロン・ゲル テストステロンレベルが低い者に効果的 男性ホルモン
迷走神経刺激 データの蓄積は発展途上
ベンラファキシン高用量 600mg/日まで 心機能のモニタリングが不可欠 SNRI
ベンラファキシンクロミプラミン(アナフラニール)点滴 心機能のモニタリングが不可欠 SNRI+三環系抗うつ剤




最後に少しだけ感想を追記。ブプロピオン、ブスピロン、ベンラファキシンという世界標準の薬が日本で認可されていないのでそれらを使うなら個人輸入するしかない。個人輸入に関しては意見が分かれると思うが、少なくとも日本で認可されている薬でリストアップされている薬が多いことは注目されてもいい(イタリック体以外は日本で使うことができる薬)。要するに、使えるのに使われていない方法が多く残されているように思うのだ。