井出草平の研究ノート

定型および非定型うつ病の臨床的特徴

いまさらながらに非定型話。福西勇夫は「新型うつ病」と「非定型うつ病」を同じ用語として使っている(と僕には見える)。

定型および非定型うつ病の臨床的特徴 (特集 うつ病診療最前線) -- (うつ病の症候・診断・治療) 
福西勇夫 
治療 91(8), 2016-2019, 2009-08-00

気分反応性の話。気分反応性についてはまだ議論をする価値はあると思う。

また,非定型うつ病の最たる特徴は,今から仕事に出かけるというときに,前述の精神症状や自律神経系症状が出現し,仕事終了後や休日には症状は顕在化しない.嫌なことが眼前に控えると症状が顕在化し,嫌なことが眼前から消えると症状も潜在化する.定型うつ病では,どんなに好きなことであっても抑うつ症状は消えない.ここが最大の相違である.「わがまま病」でありり,うつ病の範躊に入れるべきでないと論じる人もいる.

ちなみに気分反応性をもったうつ病(非定型うつ病)をうつ病に入れるべきか否かは坂元薫の論文で議論されている。

非定型うつ病うつ病か? (特集 うつ病周辺群のアナトミー) -- (うつ病周辺群への考察) 
坂元 薫
臨床精神医学 37(9), 1159-1162, 2008-09-00 

もちろん「わがままか病」などと坂元は言っていない。

診断書目的の会社員。

 これに対して,非定型うつ病の患者の場合,とても休職をとるレベルではないにもかかわらず,休職の診断書の発行を求める.ひどい場合,診断書を発行したら自ら治療を勝手に中断する人もいて,診断書目的であることは明白である.たとえそうでなくても,傷病手当金を期限限度いっぱい使用したり,公的制度の利用など,使えるものはすべて使うという人もいて驚かされる.(pp.2018)

説教をすると怖いおじさんになる話。「若者は温室育ち」という若者論に結局のところ接続する。この接続回路が怖いんだよね。

会社の上司のような形で頭ごなしに「これはこうこうだから…」と理詰めで説明すると,女性の非定型うつ病患者は「恐いおじさんに叱られた」と理解され,泣き出すかもしれない.精神的に免疫のない温室育ちの人が多く,腫れ物を触るような対応を求められることもある.(pp.2019)