向精神薬の処方制限についての解説

読売新聞で向精神薬の大量処方を制限するという報道があったが、正確ではないので整理しておきたい。

向精神薬の大量処方を制限へ、診療報酬を認めず   社会   YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140307-OYT1T00823.htm
(2014年3月7日17時35分  読売新聞)

読売新聞では「抗不安薬睡眠薬などの向精神薬を数多く処方した場合、診療報酬を原則認めない仕組み」と書いてあるが、これは間違いである。


今回の改定で変わるのは、所定の種類以上の向精神薬を処方した場合に、病院・クリニック・薬局の収入が減額されるようにペナルティが課されるというというのが正しい。


患者側が抗不安薬睡眠薬などを何種類も求めても、病院・クリニック・薬局側は収入が減るため、医師は患者の要求することを断るためのインセンティブが設けられたのである。ただ、治療に必要がありこの規定以上の種類の薬を処方した場合には、病院・クリニック・薬局側が減算分をかぶるということも起こりうる。


今回の改定で大きく変わるのは「精神科継続外来支援・指導料」の部分だ。健康保険では行う治療の種類ごとに保険点数といわれる病院側の収入が定められている。精神科の通院治療では、初診・再診料(270点/69点)、通院・在宅精神療法(330点)、処方料(42点)/処方せん料(68点)などで構成されていている。この保険点数の一つである「精神科継続外来支援・指導料」の請求が改定の主な対象となる。


今回の改定の骨子は下記の資料113〜115ページに記載されている。

正確な厚生労働省の診療報酬
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000032996.html
第2 改定の概要 1.個別改定項目について

「精神科継続外来支援・指導料」とは「入院をしていない精神科外来で、患者・家族等に対して、病状、服薬状況及び副作用の有無等の確認を主とした業務」*1のことを指している。「精神科継続外来支援・指導料」は1日あたり55点であり、外来1回あたりに請求できるのは1日分55点、病院・クリニックの収入は550円に相当する。


「精神科継続外来支援・指導料」をとっているクリニックもあれば、とっていないクリニックもある。これは、領収書で「精神科専門療法」や「精神療法」などと表記されているところをみると確認できる。精神療法が合算されて請求されることもあるので、通院・在宅精神療法330点(5分以上30分以内)、400点(30分以上の場合)を引くと、「精神科継続外来支援・指導料」の有無が判明する。*2


厚生労働省の資料から改定される項目を下記に抜き出した。


現行 改定案
【精神科継続外来支援・指導料】
当該患者に対して、1回の処方において、3剤以上の抗不安薬又は3剤以上の睡眠薬を投与した場合には、所定点数の100分の80に相当する点数により算定する。 当該患者に対して、1回の処方において、3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類

以上の抗うつ薬又は4種類以上の抗精神病薬を投与した場合は算定しない。

55点 0点
【処方料】
(新規)



3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬又は4種類以上の抗精神病薬

の投薬を行った場合 20 点(新)
0点 20 点
 

7種類以上の内服薬の投薬(臨時の投薬であって、投薬期間が2週間以内のものを除く。)を行った場合
 

1以外の場合で、7種類以上の内服薬の投薬(臨時の投薬であって、投薬期間が2週間以内のものを除く。)を行った場合
29 点 29点


1以外の場合


1または2以外の場合
42点 42点
【処方せん料】
(新規)

3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬又は4種類以上の抗精神病薬の投薬を行った場合
(新)

0点 30 点


7種類以上の内服薬の投薬(臨時の投薬であって、投薬期間が2週間以内のものを除く。)を行った場合


1以外の場合で、7種類以上の内服薬の投薬(臨時の投薬であって、投薬期間が2週間以内のものを除く。)を行った場合
40 点 40 点


1以外の場合
 

1または2以外の場合
68点 68 点
【薬剤料】
(新規) 注1

3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬又は4種類以上の抗精神病薬の投薬を行った場合には、所定点数の 100 分の 80 に相当する点数により算定する
注 1

種類以上の内服薬の投薬(臨時の投薬であって、投薬期間が2週間以内のものを除く。)を行った場合には、所定点数の100分の90に相当する点数により算定する
注2 

1以外の場合で、7種類以上の内服薬の投薬(臨時の投薬であって、投薬期間が2週間以内のものを除く。)を行った場合には、所定点数の100分の90に相当する点数により算定する


「精神科継続外来支援・指導料」は先に示した通りだが、「処方料」「処方せん料」「薬剤料」の3つに関しても改定されている。


「処方料」とは病院内で薬剤を出してもらう場合に請求できる*3。42点の処方料が20点に減算されるので、病院側は220円分の減収となる。7種類以上の規定は精神科に限ったことではないので、精神科で関係するのは、抗不安薬睡眠薬抗うつ薬抗精神病薬の種類である。


「処方せん料」とは院外の薬局で薬を出す場合に請求できる。68点が30点に減算されるので、病院・クリニック側は380円分の減収となる。


「薬剤料」は病院や薬局が出す薬剤の代金に相当するもので今回の改定で100分の80に減算される。薬剤料は処方されている薬の種類、量によって異なる。例えば薬材料が1000円だった場合、今回の改定で病院・薬局が受け取る額は800円に減額される。


精神科のクリニックでは、処方せんを出し、院外の薬局で薬を調剤するところが少なくないため、薬剤料の減算は薬局の収入減となる。この改定の規定にかかる処方がされた場合に、減収額が最も多いのは薬局かもしれない。


経過措置として半年間猶予があり、実際に導入されるのは平成26年10月1日からである。また、他院で多剤処方された患者が受診した場合の一定期間、薬剤を切り替える際の一定期間等は除外とされている。例えば、抗うつ薬を切り替える際には元の薬の量を減らして、新しい薬の量を徐々に上げる方法(クロステーパー)が推奨されているものもある*4。このような場合は除外規定に該当し、薬種が増えても減算が適用されることはない。


厚生労働省のいう抗不安薬ベンゾジアゼピン系の薬剤がほとんどである。ただし、クロナゼパム(リボトリールランドセン)は抗不安薬には入っていない*5。また、ベンゾジアゼピン系ではないタンドスピロン(セディール)は抗不安薬に入っている*6

*1:http://shirobon.net/24/ika_2_8_1/i002-2.html

*2:http://shirobon.net/24/ika_2_8_1/i002.html

*3:http://shirobon.net/24/ika_2_5_2/f100.html

*4:『モーズレイ処方ガイドライン 第10版』234-237ページ
http://www.amazon.co.jp/dp/4901694456/

*5:保険適応がてんかんであるため

*6:使用薬剤の薬価(薬価基準)に収載されている医薬品について(平成23年9月12日現在)(抗不安薬)・・・別紙1
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001tjq1-att/2r9852000001tjwy.pdf