大阪府公立中学校のいじめ被害実態調査

いじめ被害の実態 : 大阪府公立中学校生徒を対象にした意識・実態調査から
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 9, 155-184, 2010-01-31 
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007592770

まずは対象。

今回,大阪府下の公立中学校2 校の生徒さんたちの協力を得て,いやがらせ=いじめについての実態調査を実施した。調査票法(自計式調査票法)による集合調査法で行い,490 名中446 名から回答を得た。有効回答率は91.0%であった。


少し長い報告なので、まとめを掲載。

(1)いやがらせ被害の経験率
1.いやがらせの種類別被害率:「冷やかしやからかい,悪口を言われた」が最も多く,以下「たたかれたり,けられたりした」,「仲間はずれや集団で無視をされた」,とつづく。
2. いやがらせ被害の種類別内訳:「冷やかしやからかい,悪口を言われた」が最も多く,以下「たたかれたり,けられたりした」,「仲間はずれや集団で無視をされた」,とつづく。
3.いやがらせ被害経験の有無:「いやがらせ被害経験あり」が52.5%,「いやがらせ被害経験なし」が47.5%で,「いやがらせ被害経験あり」が過半に達している。


(2)最も傷ついたいやがらせ被害経験
1. 最も傷ついたいやがらせの選択数・内訳比・選択比:選択数・内訳比が最も多かった(高かった)のは「冷やかしやからかい,悪口を言われた」,選択比は「仲間はずれや集団で無視をされた」が最も高かった。選択比の2 番目は「冷やかしやからかい,悪口を言われた」であった。
2. 動揺の程度:「とても動揺した」が最も多かった。
3. いやがらせの相手(加害者):「クラスメイト」が最も多かった。
4. 相手(加害者)の人数:「一人」が最も多かった。
5. 場所:「教室」が最も多かった。
6. 継続期間:「1 回だけ」が最も多かった。
7. 対処法:「親に相談」が最も多く,次いで「誰にも相談しなかった」であった。
8. 対処の結果:「いやがらせがなくなった」が8 割強を占めた。
9. いやがらせがなくなった理由:「自然になくなった」が最も多く,次いで「先生が注意してくれた」であった。


(3)いやがらせ被害の男女間比較
1.「冷やかしやからかい,悪口を言われた」:「女子」のほうが被害経験率が高かった。
2.「たたかれたり,けられたりした」:「男子」のほうが被害経験率が高かった。
3.「仲間はずれや集団で無視をされた」:「女子」のほうが被害経験率が高かった。
4.「お金をとられたり,持って来いと言われた」:「男子」のほうが被害経験率が高かった。
5.「持ち物をかくされたり,こわされたり,ぬすまれたりした」:「男子」のほうが被害経験率が高かった(n.s.)。
6.「パソコンや携帯電話で悪口を書き込まれたり,いやなことをされた」:「女子」のほうが被害経験率が高かった。
7.「上の項目以外でいやがらせを受けた」:「女子」のほうが被害経験率が高かった。
8.「いやがらせ被害経験の有無」:「女子」のほうが被害経験率が高かった。
9.「最も傷ついたいやがらせ被害経験」:「たたかれたり,けられたりした」で「男子」,「仲間はずれや集団で無視をされた」で「女子」,「持ち物をかくされたり,こわされた
り,ぬすまれたりした」で「男子」のほうが被害経験率が高かった。
10.「動揺の程度」:「動揺した」の比率は「女子」のほうが高かった。11.「いやがらせの継続期間」:概して,「男子」は「1 回だけ」が多く,いやがらせを「繰り返し受けている」のは「女子」に多い
12. 「何もしないでいやがらせをされるまま」(対処法):「女子」のほうが多かった。
13.「一人でやり返した」(対処法):「男子」のほうが多かった。
14.「親に相談」(対処法):「女子」のほうが多かった。
15.「きょうだいに相談」(対処法):「きょうだいに相談」したのは「女子」のみであった。
16.「友だちに相談」(対処法):「女子」のほうが多かった。
17.「担任の先生に相談」(対処法):「女子」のほうが多かった(n.s.)。
18.「誰にも相談しなかった」(対処法):「女子」のほうが多かった(n.s.)。
19.「いやがらせがなくなった理由」(いやがらせがなくなった場合):「みんなで話し合いをした」では「女子」,「自然になくなった」では「男子」,「いやがらせをする子に抗議
をした」「自分の代わりに他の子がいやがらせを受けた」「友だちがとめてくれた」の3項目では「女子」の比率が高かった。


(4)いやがらせ被害の背景要因
1.「保護者は回答者の話を真剣に聞いてくれる」と「いやがらせ被害経験の有無」との関係:「保護者は回答者の話を真剣に聞いてくれる」場合,「いやがらせ被害経験なし」が多い。
2.「1 番悩んだり心配していること」と「いやがらせ被害経験の有無」との関係:「友人関係」「その他」「母親との関係」に悩んだり心配している場合は「いやがらせ被害経験あり」が多く,「悩みや心配はない」場合と「塾や習い事」「きょうだいとの関係」に悩んだり心配している場合とでは「いやがらせ被害経験なし」が多い。
3.「悩み・心配の有無」と「いやがらせ被害経験の有無」との関係:「悩み・心配がある」場合は「いやがらせ被害経験あり」が多く,「悩み・心配はない」場合は「いやがらせ被害経験なし」が多い。
4.「休み時間や放課後などに多くの友だちより,決まった友だちと一緒にいる」と「いやがらせ被害経験の有無」との関係:「決まった友だちと一緒にいる」と答えた生徒の場合は「いやがらせ被害経験あり」が多く,「いない」と答えた生徒の場合は「いやがらせ被害経験なし」のほうが多かった。


(5)「現在の心理的状況」といやがらせ被害経験の有無
1. 生徒の「現在の心理的状況」:肯定的な心理的状況において比率が最も高いのは「どんな人でも無理なく仲良くできる」で,次いで「将来に希望が持てないときがない」であった。逆に,否定的な心理的状況において比率が最も高いのは「自分に自信が持てないときがある」で,次いで「今の自分に満足していない」であった。
2.「現在の心理的状況」の分布:「心理的損傷やや少ない」(38.6%),「多い」(25.6%),「少ない」(20.6%),「やや多い」(15.2%),の順であった。
3.「現在の心理的状況」のいやがらせ被害経験の「有無」間での比較:「いやがらせ被害経験なし」のグループでは現在の心理的状況が「良好」であり,「いやがらせ被害経験あり」のグループでは「不良」であることが,統計的に立証された。


(6)いやがらせの原因といやがらせへの対応策
1. いやがらせの原因:多いほうから順に,「いやがらせをする人に問題がある」,「いやがらせをされる人に問題がある」,「いやがらせをする子の親のしつけに問題がある」,「学級の生徒全体に問題がある」,「社会全体に問題がある」,「先生や学校の指導に問題がある」,「その他」,となっている。
2. いやがらせへの対応策:多いほうから順に,「先生がいやがらせをする子に注意する」,「学校で話し合いをする」,「家庭でのしつけの見直しをする」及び「社会で許さないというきまりをつくる」,「学校に相談窓口をつくる」及び「学校で道徳などの授業をする」及び「地域で子どもを育てる環境をつくる」,「その他」,となっている。

興味深い事実がいくつか発見されているが着目したいのは2点。
「母親との関係」について最も悩んだり心配している生徒はすべて「いやがらせ被害経験あり」である点だ。片方のセルがゼロなので統計的手法は使えないが、家庭の問題がどういう経路かを通して影響していると示唆される点だ。一方で「父親との関係」に関しては関連が特に見られない。


もう一つはいじめの収束方法である。別の生徒がいじめられたという経過をたどったものと男女をクロス集計表にしたものが下記である。

性別 別の生徒へ 他の経緯 合計
男性 1 85 86
女性 4 99 103
合計 5 184 189
フィッシャーの正確確率有意検定の結果、p-value = 0.3786(95%C: 0.0058-3.0328)という結果。5パーセント水準で有意ではないのだが、信頼区間を見る限りn不足が原因である。サンプルサイズが倍ほどあれば確実に検定は通るだろう。つまり、何が言いたいかというと、いじめが生徒間が回っていくという形態は「女子」に見られるものであることである。そして頻度は3.2%。ないわけではないが、「よくあることではない」。


「いじめに参加しないと私がいじめられる」といったことはよく聞くのだが、それはこのデータの上では稀な現象であるように思われる。別のデータでは別の傾向が出るかもしれないが、それほど頻繁に起こっているわけではないかもしれない。被害者になることを避けるために加害者になるというストーリーは「物語」として非常に面白い。そのことから、一部の社会学者やマスコミがそういったいじめを強調しすぎている可能性は少なからずあるのではないだろうか。