うつ病の自記式尺度について潜在クラス分析を行った論文

今回取り上げるのは下記の論文。

Ulbricht CM, Rothschild AJ, Lapane KL. The association between latent depression subtypes and remission after treatment with citalopram: A latent class analysis with distal outcome. J Affect Disord. 2015 Dec 1;188:270-7. doi: 10.1016/j.jad.2015.08.039. Epub 2015 Sep 1. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26384013

論文の概要

潜在クラスを使用した論文。 元データはSTAR*Dであり、潜在クラス分析を行っているのはうつ病の自記式尺度であるQIDS-SRである。STAR*Dが実施されたのは10年くらい前のことだが、新しい分析手法であれば、データがやや古くても論文になるようだ。

この論文から読み取れる潜在クラス分析の特徴

精神医学の論文と潜在クラス分析は相性が良い

社会学もそうだが精神医学でもカテゴリカル変数をよく使用する。例えば「うつ/うつではない」といったような「診断」は2値データである。また精神障害の構造化面接(SCID)は、項目の基準を満たしたかどうかで判断する。DSMでは大うつ病では9項目の症状のうち6項目を満たすと診断される。それぞれの症状の項目は2値である。

潜在変数を求める技法として因子分析が伝統的に使われてきたが、カテゴリカル変数は扱えない。カテゴリカル変数をよく使う分野では潜在クラス分析が非常に強力なツールになりうるのだ。

質問項目が決まると再現性が高い

潜在クラス分析の欠点はいくつかあるが、その一つは計測する質問文やその構成によってクラスの分類が大きく変わる可能性があるということである。そういった点から考えると、この論文ではQIDSを使用しており、質問文は固定されている。質問項目が固定していれば再現可能性も高まるはずである。

分析方法

潜在クラス分析の結果

4つのクラスを導き出している。
1. 軽症
2. 中等度
3. 重症+過食
4. 重症+不眠

ただ、BICで判断すると5クラスモデルが支持されたとのことである。ただ男性が9%、女性が11%だったので4クラスモデルを選択したとのことである。BLRT(Bootstrap Likelihood Ratio Test)を行ったとは書かれていない。日本の文献を読むとBLRTを重視する人が多いように感じるが、クラス数の決定はもう少し自由に決定した方がよいのではないだろうか。

BLRTの検定でモデル改善がなかなか示されず、クラスが8つも9つにもなって解釈ができないというのでは、技法の持ち腐れである。理論的な根拠からモデル数を決定するというやり方が許容してもよいのではないだろうか。

共変量を伴った潜在クラス分析

f:id:iDES:20170626133500p:plain

Table3は他の精神障害と潜在クラスの関係を探ったものである。技法的には多項ロジスティック回帰分析と同じである。参照カテゴリは軽症(Mild)である。

中等度

男性 45歳以上-、PTSD- 、社交恐怖+
女性 45歳以上-、白人-、社交恐怖+

重症+過食

男性 過食症+、社交恐怖+
女性 過食症+、社交恐怖+

上昇+不眠

男性 45歳以上-、全般性不安障害+、PTSD
女性 白人-、全般性不安障害+、PTSD+、社交恐怖+

インプリケーションとしては重症度によって併存症が変化するというところだろうか。特に、重症の方不安障害の併存が高いのが重要そうである。

distal outcomesを伴った潜在クラス分析

タイトルにもふくまれている"distal outcomes"という言葉。これは、潜在変数を独立変数として顕在変数(観測変数)を従属変数とした分析方法の際に使う用語である。従属変数がdistal outcomesに相当する。このブログではまだ分析方法を紹介していないが、潜在変数を独立変数にして解析をするのは割と難しいのである。

従属変数はcitalopramによる寛解である。日本ではレクサプロ(escitalopram)として発売されている薬の光学異性体である(レクサプロはS(L)体のみ)。STAR*Dでは第1段階目に投薬する薬として使用されている。

distal outcomeを伴った潜在クラス分析にもいくつか方法があるがUlbricht et al.(2015)が使用しているのはLanza et al.(2013)である。僕はよく理解できていないが、ベイズ推定を用いてdistal outcomesの分布を導く方法らしい。

Stephanie T. Lanza, Xianming Tan and Bethany C. Bray, Latent Class Analysis With Distal Outcomes: A Flexible Model-Based Approach Struct Equ Modeling. 2013 Jan; 20(1): 1–26. Published online 2013 Jan 29. doi: 10.1080/10705511.2013.742377 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4240499/

統計パッケージはLanzaらが作っているSASのマクロPROC LCAにDziakらのdisrtal outcomeマクロを利用して計算したのではないかと思われる。

PLOC LCAマクロ
https://methodology.psu.edu/downloads/proclcalta  

LCA Distal Macro
https://methodology.psu.edu/downloads/distal

f:id:iDES:20170626133550p:plain

QIDSによって4つに分けられたクラスの軽症を参照カテゴリにして、残り3つのクラスの投薬による寛解(HRSD≦7)のオッズ比が示されている。 男性では「過食を伴った重症」で効果が弱く、女性では「過食を伴った重症」「不眠を伴った重症」で効果が薄かった。男性の「不眠を伴った重症」も95%信頼区間の端が引っかかっている程度なので、軽症と重症の寛解率は異なるということであろう。軽症の方が抗うつ薬によって寛解に至りやすい。 また、中等度のうつとの差は出なかった。

インプリケーションとしては、次の2点であろうか。

  1. 軽症に比べ、重症は投薬治療で寛解しにくい
  2. 中等度と軽症は投薬治療の効果(寛解率)に差異はない

うつ病の軽症に対しての投薬の効果に関しては論争的であるので、わりと興味深い結果ではある。