宮本輝のエッセイに「パニック障害がもたらしたもの」というものがある。
- 作者: 宮本輝
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2017/10/20
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
宮本輝がパニック発作を初めて経験した時は次のように書かれてある。
もうじき淀駅に着くというころ、私は自分がいつもの自分とは違うことに気づいた。自分が自分でないような、神経の焦点が合っていないような、理由もなくかすかな恐怖感が心のなかでかすかに波立っているような、そんな感覚がつづいたあと、私は不意に全身が地の底に沈んでいきそうになって、慌てて電車の座席に両手を突いて支えた。
電車は何の支障もなく走りつづけている。何等かの事故が起こったのではなく、異変が生じたのはこの自分なのだとすぐにわかった。
その途端、どうにも抑えようのない、耐えられないほどの不安と恐怖がせりあがってきた。視界が白っぽかった。
自分にいったい何事が生じたのか、さっぱりわからなくて、とにかくいっときも早く電車から降りたいと思っているうちに、眩暈(めまい)と耳鳴りがして、不安感はさらに強まり、動悸(どうき)が頭の芯にまで響き始めた。全身から血の気が引き、掌が汗で濡れていくのも感じた。
電車の中でパニック発作を初めて経験したようだ。
翌日、私は会社の近くにある病院で診てもらった。
(中略)
「何か悩み事はない?」
「借金がありますねェ。秋に結婚するんですが、その費用を使い込んで、結婚相手にばれんうちに穴埋めしようと思って、きのう競馬場に行こうとしてたんです」
なかなかいい感じのクズっぷりである。
ここで終わると宮本輝をディすってるるようにも読めるので、一応全体の骨子を述べると、パニック障害になってサラリーマンが続けられなくなり、小説家になるしかないと考えた。必死に頑張って小説を仕上げて、世の中に評価されるようになったという感じの流れである。パニック障害があるから小説家として大成したという良い?話。