ICDとDSMにおける単純型統合失調症の扱い

ICDとDSMにおける単純型統合失調症の扱いについてメモをしておこう。

ICDでの扱い

1977年のICD-9の段階でも「可能であれば控えめに行うべき」と書かれている。1970年代の段階で国際的にこの診断基準は推奨されていなかったことがわかる。

1990年のICD-10での記述はさらに否定的であり、懐疑的な位置づけである。

単純型統合失調症(F20.6)
このカテゴリーは,いくつかの国々でまだ使われていること,およびそれ自体の本質の不明確さや統合失調質パーソナリティ障害と統合失調型障害との関連性にあいまいさがあり,その解明のためにさらに情報を付加する必要があろうと考えられるので,残されてきた.その診断基準は,実際的な用語でこの障害群の全体の相互の境界を定める問題を強調した鑑別として提示されている.

この診断名を使うな、という警告のようにも読める。
ICD-9での診断基準は以下のものである。

F20.6 単純型統合失調症 Simple schizophrenia
これは行動の奇妙さ,社会的な要請に応じる能力のなさ,そして全般的な遂行能力の低下が,潜行性だが進行性に発展するまれな障害である.妄想と幻覚ははっきりせず,破瓜型,妄想型および緊張型の統合失調症よりも,精神病的な面が明瞭でない.明らかな精神病性症状の先行をみることなく,残遣統合失調症に特有な「陰性」症状(たとえば,感情鈍麻,意欲低下)が少なくとも1年以上にわたって進行する.社交(対人)機能低下が増大するにつれ,放浪することがあり,自分のことだけに没頭したり,怠惰で無目的になる.

診断ガイドライン
単純型統合失調症は,確信をもって診断することが困難である.なぜなら,先行する精神病性エピソードとしての幻覚,妄想,あるいは他の症状の病歴がなく,残遺統合失調症に特有な「陰性」症状(上記F20.5を参照)が緩徐に進行性に発展することを確認しなければならないからである.
〈含〉単純統合失調症(schizophrenia simplex)

なお、現在のICD-11では削除されている。

DSMでの扱い

アメリカ精神医学会の診断基準DSMが単純型を掲載していたのはDSM-IIまでである。

DSM-IIIでは統合失調質パーソナリティ障害として診断をすることになり、IIIおよびIII-Rでは掲載がない。再び掲載されたのは、DSM-IVである。ただし診断基準ではなく、今後の研究の基準案として単純型荒廃性障害(単純型統合失調症)として掲載されている。

DSM-IVでは,病像がこの研究用基準案を満たす人は,特定不能精神疾患と診断されるであろう.」と書かれ、正式に診断する際にこの診断名は使用ではないとされている。この診断名に限らず研究の基準案は研究用に用意されるもので、まだ研究とエビデンスが少ないなどの理由から予備的に掲載され、後の正式に診断基準の候補と位置づけられるものと、過去に使われていた診断基準を掲載し、後に削除といった経過を辿るものが多い。

この病型は,顕著な陽性精神病症状が欠如している点で,「統合失調症および他の精神病性障害」の章に含まれる障害から区別される.それらの障害とは,統合失調症,統合失調感情障害,統合失調症様障害,短期精神病性障害,妄想性障害,共有精神病性障害,および特定不能精神病性障害を含み,これらすべてはある期間に最低1つの陽性症状が存在することを必要としている.提案されているこの障害は,パーソナリテイの明確な変化と機能の顕著な荒廃が必要であるという点で,他のパーソナリテイ障害だけでなくスキゾイドパーソナリティ障害および統合失調型パーソナリティ障害から区別される.(DSM-IV-TR)

重点が置かれているのは、1)パーソナリテイの明確な変化、2)荒廃であることがわかる。もちろん、陽性症状が1度も確認されていないというところも重要である。現代の精神医学では、統合失調症精神病性障害となるには、陽性症状が少なくとも1度は経験されることが必要である。その点からいっても、単純型荒廃性障害(単純型統合失調症)は精神病性障害統合失調症として認められることはない。

また、パーソナリティに変化がなく、荒廃を伴わないものは、統合失調質パーソナリティ障害となるため、DSM-IIIとも実は矛盾がない。なお、現在のDSM-5では単純型荒廃性障害も削除されている。

最新のICD、DSMでは単純型の掲載はなく、診断基準としては認められないのが現状である。