- 作者: 林玲子,天野雅敏
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 単行本
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今回は世界への影響について。
まずは、醤油は江戸時代から主要な輸出品であったことから触れていこう。
輸出の開始
オランダ東インド会社が日本醤油をはじめて輸出したのは1647年だった。10樽(1斗6升入り)を台湾商館に送ったという。そしてそこから東南アジア諸地方に運ばれたようだ。まだ日本での生産が少なかった時代だが、輸出はその後もずっとつづけられたらしい。田中氏の調査によると、1)タイワン、2)トンキン、3)シャム、4)バタビア、5)マラッカ・カンボジア、6)コロマンデル・ベンガル、7)セイロン、8)スラッタ(インド西海岸)、9)アンボイナ・テルナテ(モルッカ諸島)・マカッサル(セレベル島)などに販売されたという。
17世紀半ばに既に輸出が開始されている。初期なので、まだ量は少なく、輸出先は醤油が買えなかった中国外に住む中国人であったようだ。
輸出量の増大
時代により瓶も変化したと思うが、現在まで残っているのは「コンプラ」とよばれる長崎県波佐見産の物である。近世初頭にポルトガル人貿易商が長崎出島に移住させられた時、オランダ人に日用品を売りこむ特権を与えられたのがコンプラ仲間であった。株が認められ、その売買もなされたようだ。このコンプラ仲間の最大の取引は醤油だったそうで、海外輸出もかれらの手をへたのかもしれない。
こういう由来を持つコンプラの名称は会社名となったらしく、幕末にコンプラ会社と特約を結んだ日本商人が輸出商品容器として陶製瓶を扱った。最盛期には1カ年40万本ぐらい取引されたという。1本には3合つめられたから、輸出量が推算できるだろう。
コンプラというのは次のような瓶。
醤油の輸出量が増えたのは、国内のシェア競争が関係していたという。日本の近代化を支えた波佐見がここでも登場するのは興味深い。
関東醤油は19世紀に生産量が伸び、江戸・東京の需要に応えたが、幕末には生産過剰となる。醤油という商品は一定以上の個人消費量が望めない性格を持っており、一方で、 蔵造りは生産量の調整を簡単にはできない。しかも野田・銚子をはじめ、遠隔地市場を対象とする醸造業者の増加や、一軒あたりの生産高の増大がみられた。このため、大手業者は輸出高を伸ばすことに努力を払うようになる。
キッコーマンに代表される野田、ヤマサ醤油に代表される銚子が関東での販路開拓には成功するものの、関西への販路開拓にはまだ成功しておらず、シェアを取り崩せないままであった。もちろん、関西では淡口醤油が好まれるという好みの違いもあった。関東の醤油が余剰気味になり、そこから新たな販路の開拓として、海外への輸出がされたようである。
ヨーロッパと醤油
長崎ではオランダ人や欧州各国の人びとが商館に勤務していたので、醤油がヨーロッパ各国に浸透してくると、その製法や味などについての記述が文献にみられるようになる。フランスのディドロが編纂した『百科全書』(1765年刊)に醤油の項があり、日本産の一種のソースで、オランダからフランスにもたらされ、よい味で中国産よりはるかにすぐれているなどと書かれていた。そのほかにもいくつかの書物に記述されており、19世紀に入ると日本醤油はヨーロッパでは相当有名になったらしい。ただし、窓口がオランダだったため、現在でも欧米でソイとかソイ・ソースといわれている醤油の訳語の語源はオランダ語だ。オランダ語のsoya(ソヤ)が英語のソイ(soy)、フランス語のソヤ(soya)になったという。もっとも、このソヤは醤油原料の大豆を同時に意味したようだ。当時のヨーロッパには大豆がなかったからだという。
大豆のsoyが醤油からきているという話は有名かもしれない。正確に言えば、現在の長崎県にあたる肥前で醤油をソヤと呼んでおり、オランダにソヤと伝わり、各国言語に変換されていった。
中国の醤油
醤油は中国で作られ日本に持ち込まれたというのは間違いない。醤油が日本のオリジナルなわけではない。
中国では明の時代に大豆、小麦を原料とする醤油の製法が確立し、醤油という名称もこのころから一般化したのではないかとされている。日明貿易によって、中国南部の浙江省、福建省の沿岸から日本の堺などに中国醤油が渡来し、その製法も伝えられ推測されている。もっとも、中国の伝統的な醤油は濃厚なうま味をもつが、色はそれほど澄んでおらず、日本の醤油とはおのずから距離があり、日本の醤油にはその後の工夫と改んでおらず、日本の醤油にはその後の工夫と改良のあとがうかがえる。
中国醤油の代表は老抽王だろう。
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中国醤油は老抽王の他、あと何種類か日本に輸入されている。日本に輸入されている醤油しか知らないが、いずれもドロッとしていて不透明でありコクがある。
中国全体で言うとこの種の醤油が多いようだが、広東省や香港においてのトップブランドである李錦記は日本式の醤油を採用している。
李錦記は中国のみならず、世界の中国調味料のトップブランドである。日本で進化した本醸造醤油が、世界に移り住んだ中国人を通して広まっているのである。
東南アジアの醤油
また、タイやベトナムといった東南アジアの醤油も日本式の醤油がベースになっている。
タイを例にとろう。タイの醤油というと日本では、魚醤のナンプラーが有名だが、シーユーカオ、シーユーダム、シーズニングソースがある。ナンプラーも日常的に使うが、味のベースになるのはシーユーカオである。
シーユーカオは日本式の醤油である。
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薄口醤油とも言われるが、シーユーダムに比べて薄いだけであり、日本でいう濃口醤油である。
シーユーダムは老抽王に似ている。ドロッとしていて不透明な醤油である。ブラックスイートソースと呼ばれることもあり、老抽王にはない甘さがある。ちなみに甘さは醤油の製造工程で生まれるのではなく、事後的に砂糖を入れてつけている。
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シーズニングソースはシーユーカオに砂糖などを混ぜたミックスソースである。余談だが、シーズニングソースはタイ料理以外にもいろいろと使えるので家に置いておくと非常に便利だ。
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こちらも余談だが、タイではオイスターソースもよく使う。中国文化圏の影響も強いことがうかがえる。
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ここでは例としてタイの代表的な調味料を見たが、中国南部含め、東アジアで日本式の醤油が広がっていることが確認できたと思う。