トリンテリックス(ボルチオキセチン)のレビュー

トリンテリックスが11月27日発売ということなので、トリンテリックスのレビュー論文を簡単に紹介しておこう。適応の大うつ病性障害以外に全般性不安症にも使用されている。

トリンテリックスのレビューはなぜかたくさんあって、適切なものを選ぶのが難しい。最近のもので内容が広く浅いものということでSowa-Kućma et al.(2017)を抜粋して紹介しよう。薬理の部分ほとんど訳出していない。

www.ncbi.nlm.nih.gov

以下はレビューの抜粋である。

うつ病性障害(MDD)

トリンテリックスは多くの系統的レビューがある(Citrome et al. 2014,Baldwin et al. 2016, Berhan et al. 2014, Pae et al. 2015, Meeker et al. 2015, Fu et al. 2015, Thase et al. 2016)。統合された結果によるとトリンテリックスによる抑うつ症状の改善はあまり大きくない(約0.2の標準化平均差, Pae et al. 2015)。

2.5〜20mg/日の用量で用量反応関係は観察されなかった(Meeker et al. 2015)。
(注: つまり効果がみられなかったので容量を増やせば効くようになるというわけではない可能性がある。もしくは少量で効果がみられる場合がある。)

最も一般的な副作用は、悪心、嘔吐、下痢および口渇である(Pae et al. 2015, Meeker et al. 2015)。

トリンテリックスは大うつ病性障害患者の認知にもプラスの効果があることが示唆されている。Rosenblat et al.(2015)によるシステマティックレビューでは、トリンテリックスが精神運動速度、実行機能、および遅延想起(SMD 0.2~0.3)の領域を改善する可能性が示されている。

これまでのところ、トリンテリックスと他の抗うつ薬との直接的な比較研究は少ない。

Llorca et al. (2014)が実施したメタ回帰分析では、トリンテリックスと、作用機序の異なる他の7つの抗うつ薬の有効性および忍容性が間接的に比較されている。

有効性に関してはこれらの薬と差異はなかった。忍容性に関しては、ベンラファキシンよりも忍容性が高く、アゴメラチンよりも忍容性が低かった。

Li et al.(2016)による系統的レビューでは、サインバルタの方がトリンテリックスよりも有効である可能性を示唆している。一方、トリンテリックスで治療した患者は副作用(例えば、悪心、下痢、多汗症、便秘、口渇、食欲減退)の発生リスクが低い。

トリンテリックスとイフェクサーを比較したRCTでは効果の差は認められなかった(Wang et al. 2015)。Montgomery et al.(2014)は、SSRISNRIで好ましい反応を得られなかった場合、トリンテリックスの方がアゴメラチンよりも有効である可能性があると述べている。

全般性不安症(GAD)

全般性不安障害へのトリンテリックスの効果は多くの研究がされており、最近出版されたPae et al. (2015)らメタアナリシスでは4つが解析の対象にされている。

  • Bidzan L, Mahableshwarkar AR, Jacobsen P, Yan M, Sheehan DV. Vortioxetine (Lu AA21004) in generalized anxiety disorder: results of an 8-week, multinational, randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial. Eur Neuropsychopharmacol 2012;22:847-57.
  • Mahableshwarkar AR, Jacobsen PL, Chen Y, Simon JS. A randomised, double-blind, placebo-controlled, duloxetine-referenced study of the efficacy and tolerability of vortioxetine in the acute treatment of adults with generalised anxiety disorder. Int J Clin Pract 2014a;68:49-59.
  • Mahableshwarkar AR, Jacobsen PL, Serenko M, Chen Y. A randomized, double-blind, fixed-dose study comparing the efficacy and tolerability of vortioxetine 2.5 and 10 mg in acute treatment of adults with generalized anxiety disorder. Hum Psychopharmacol 2014b;29:64e72.
  • Rothschild AJ, Mahableshwarkar AR, Jacobsen P, Yan M, Sheehan DV. Vortioxetine (Lu AA21004) 5 mg in generalized anxiety disorder: results of an 8-week randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial in the United States. Eur Neuropsychopharmacol 2012;22:858-66.

結果は、トリンテリックスがプラセボよりも有効であった。注目すべき薬剤は、重度のGAD患者のサンプルにおいて良好な結果(SMD=0.338)を示しているということだ。

4つのRCTすべてで最も多くみられた副作用は吐き気、頭痛、めまい、口渇であった。

容量

うつ病の患者で5〜20 mg/日。5mg/日からの投与をEU保健局は推奨している(European Medicines Agency 2013)。

半減期

トリンテリックスの血漿濃度のピークは7〜11時間(Tmax)、半減期は66時間程度。

代謝

トリンテリックスの代謝にはCYP2D6、CYP3A4 / 5、CYP2C9、CYP2C19、CYP2A6、CYP2C8、CYP2B6が関係している。CYP2D6が3-methyl-4-(2-piperazine-1-yl-phenylsulfanyl)-benzoic acid (Lu AA34443)への代謝に関連しているので、CYP2D6が主たる代謝酵素ということになる。

薬理学的特徴

このデータはSowa-Kućma et al.(2017)ではなくWikipediaから引用した。トリンテリックスの薬物のプロファイルはビラゾドンに比較的よく似ている。 ("Lundbeck's "Serotonin Modulator and Stimulator" Lu AA21004: How Novel? How Good? - GLG News". Archived from the original on 2011-07-24.)

ターゲット 親和性 機能活性 アクション
K i(nM) IC 50 / EC 50(nM) IA(%) IA (%)
SERT 1.6 5.4 阻害
NET 113 阻害
5-HT_1A 15 200 96 作動薬
5-HT_1B 33 120 55 部分作動薬
5-HT_1D 54 370 拮抗薬
5-HT_3 3.7 12 拮抗薬
5-HT_7 19 450 拮抗薬
β_1 46 拮抗薬

雑感など

以下はレビューに含まれない感想などである。あくまでも感想なので科学的な根拠は言うまでもない薄弱である。

投薬の方針

今までの抗うつ薬とは少し異なった機序が含まれるため、抗うつ薬の選択肢が広がる可能性があるのかもしれない。Montgomery et al.(2014)は、現在までSSRISNRIで十分な効果が得られなかったケースでの有効性を示唆しているので、今までの薬では改善されなかった患者への投与を検討してもよいかもしれない。

やはり、狙い目としては以前にエントリを入れた高齢者への投与であろう。
参考:トリンテリックス(ボルチオキセチン)と高齢者のうつ病

高齢者にサインバルタは有効だとはいえ、副作用で飲めないことがあったり、Poop-Out(へたばり、腰折れ)がある。長期間の投与が必要な高齢者のうつ病にはトリンテリックスはフィットする可能性がある。

追記
トリンテリックスには性機能障害の副作用が出にくいという特徴があるらしい。
この件についてエントリをした。
トリンテリックス(ボルチオキセチン)と性機能障害 - 井出草平の研究ノート  

全般性不安症

比較研究はないがSSRIの方が優れているとみて間違いないだろう。重度の全般性不安症に有効ということだが、このようなケースにはうつ病などの他の症状が併存していることが多く、全般性不安症をターゲットにしているというよりもEmotional Disorderをターゲットにしていると捉えた方がおそらく適当だろう。Emotional Disorderは昔風に言うと神経症が一番近い言葉である。

余談だがバルドキサンもSADのRCTがなく、GADのRCTがあるという似たような状況である。この種の薬剤は不安に直接作用しているとうよりも、Emotional Disorderへのアプローチをして全般的な精神健康度を上げることによって不安を低減していると考えた方が良いように思う。軽症のGADにトリンテリックスはあまり有効ではないという結果とも符合する。

半減期

血中濃度が上がるのがとても遅く、半減期がとても長い薬である。3日ほど飲み忘れても対して影響がないもしれない。

服薬量

容量依存性がないらしいので少量(5mg)でも反応する確率は十分にあるだろう。EU保健局が推奨するように5mg/日で始めるのがよいように思う。ただ、発売されるのは10mgと20mgなので、カッターで切らないと5mg錠は用意できない。EU保健局の言いつけを守るには錠剤をカッターで切断せざるを得ない。アメリカで発売される錠剤を見る限りカッターで割っても問題なさそうではある。


Vortioxetine - Wikipediaより

追記 日本で発売される錠剤の写真がウェブにアップされていた。 f:id:iDES:20191127143800j:plain

もともと半分に割る線が入っていた。アメリカで流通している錠剤より利便性が高い仕上がりとなっているようだ。

日本での薬価が高くない(10㎎錠: 168.9円/20㎎錠: 253.4円)らしい。5mgで効果が出る人は20㎎錠を4分割すると3割負担で532円/28日である。10mgでもその倍くらいである。新薬とは思えないくらい経済的である。ただ、そんなケースが多発すると、製薬会社に利益が出るだろうかと少し心配になる。

名前

アメリカではBrintellixという名前だったが、血液減量薬Brilintaと混同しやすいということで、Trintellixへ名前を変更したそうだ。EUではBrintellixのままである。(https://en.wikipedia.org/wiki/Vortioxetine#Names)

副作用の対策

副作用としてよく見られているのは悪心、嘔吐、下痢である。抗うつ薬でこれらの症状が出る場合は5-HT3レセプター関連だと相場は決まっている。SSRIなどの抗うつ薬は5-HT3作動薬なので、逆の作用を持つ拮抗薬であるイリボー(ラモセトロン)の投与をして副作用を抑制する。

今回もそのパターンかと思いきや少しイレギュラーかもしれない。SERTがメインの効果なのでSSRIと同様なので、5-HT3レセプターに作動薬として消化管症状が起こっている可能性が高いが、薬物のプロファイルをみるとトリンテリックスは、5-HT3の拮抗薬でもあり、しかもKi値は3.7と比較的強力である。どちら方向にに傾いてこれらの症状がでているか正直よくわからない。

なみに5-HT3に対してピンポイントで作動薬として働く薬はない(https://en.wikipedia.org/wiki/5-HT3_receptor#Agonists)。一覧にはないがベンゾジアゼピンには5-HT3作動薬の効果があるものの、不十分である。 5-HT3作動薬として働きやすい薬はフルボキサミンくらいだろう。副作用のために抗うつ剤を追加するのは奇妙な話なので、通常はこんなことはせずに他の薬にスイッチする。しかし、有効な薬がトリンテリックスしかなく、副作用で飲めないという場合に限っては、フルボキサミンの追加は検討してみてもよいかもしれない。

注意が必要なのは5-HT1Aレセプターも悪心、嘔吐は関係することがある点だ。フルボキサミンの追加案は5-HT3レセプター関連だと仮定しての話で、5-HT1Aが犯人であれば、フルボキサミンの追加は意味がない。

5-HT1Aの拮抗薬(https://en.wikipedia.org/wiki/5-HT1A_receptor#Antagonists)で現実的なのはβ拮抗薬である。しかし、トリンテリックスにはβ拮抗作用もあって、このあたりもよくわからない所である。

副作用としてめまいが上がっている。めまいはβ拮抗作用でよく起こる副作用である。もちろん他の作用でも起こりうるが、トリンテリックスのβ拮抗作用で発現しているならば、副作用の発現のメカニズムは少しややこしい薬だと言えよう。

ちなみに悪心・嘔吐だけであれば、プリンペランナウゼリンといったドパミン関連の薬を入れるのが通常の対応である。このパターンの副作用であればそれほど難しく考える必要はない。

ADHDへのトライアル

NETの阻害に関してのKi値が掲載されているので、ADHDに有効性があるのではと思ったところ、既に成人ADHDへの臨床研究がされていた。 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02327013 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30843450

結果はダメだったようだ。ストラテラ(アトモキセチン)のNETのKi値は5に対して、トリンテリックスは113なので、結果はやる前からわかっていたのでは?という気もしないでもない。きっとお金がどこかから降って来たのだろう。

文献

  • European Medicines Agency: BRINTELLIX (vortioxetine)1. http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/EPAR-Public_assessment_report/human/002717/WC500159447.pdf. In: Agency EM, editor. 2013.
  • Citrome L. Vortioxetine for major depressive disorder: a systematic review ofthe efficacy and safety profile for this newly approved antidepressant ? what is the number needed to treat, number needed to harm and likelihood to be helped or harmed. Int J Clin Pract 2014;68:60-82.
  • Baldwin DS, Chrones L, Florea I, Nielsen R, Nomikos GG, Palo W, et al. The safety and tolerability of vortioxetine: analysis of data from randomized placebocontrolled trials and open-label extension studies. J Psychopharmacol 2016;30:242-52.
  • Berhan A, Barker A. Vortioxetine in the treatment of adult patients with majordepressive disorder: a meta-analysis of randomized double-blind controlledtrials. BMC Psychiatry 2014;14:276.
  • Pae CU, Wang SM, Han C, Lee SJ, Patkar AA, Masand PS, et al. Vortioxetine: ameta-analysis of 12 short-term, randomized, placebo-controlled clinical trialsfor the treatment of major depressive disorder. J Psychiatry Neurosci2015;40:174-86.
  • Meeker AS, Herink MC, Haxby DG, Hartung DM. The safety and efficacy of vortioxetine for acute treatment of major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis. Syst Rev 2015;4:21.
  • Fu J, Chen Y. The efficacy and safety of 5 mg/d Vortioxetine compared to placebo for major depressive disorder: a meta-analysis. Psychopharmacology (Berl) 2015;232:7-16.
  • Thase ME, Mahableshwarkar AR, Dragheim M, Loft H, Vieta E. A meta-analysis of randomized, placebo-controlled trials of vortioxetine for the treatment of major depressive disorder in adults. Eur Neuropsychopharmacol 2016;26:979-93.
  • Rosenblat JD, Kakar R, McIntyre RS. The cognitive effects of antidepressants in major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Int J Neuropsychopharmacol 2015;2015.
  • Llorca PM, Lancon C, Brignone M, Rive B, Salah S, Ereshefsky L, et al. Relative efficacy and tolerability of vortioxetine versus selected antidepressants by indirect comparisons of similar clinical studies. Curr Med Res Opin 2014;30:2589-606.
  • Li G, Wang X, Ma D. Vortioxetine versus duloxetine in the treatment of patients with major depressive disorder: a meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Drug Investig 2016;36:509-17.
  • Wang G, Gislum M, Filippov G, Montgomery S. Comparison of vortioxetine versus venlafaxine XR in adults in Asia with major depressive disorder: a randomized, double-blind study. Curr Med Res Opin 2015;31:785-94.
  • Montgomery SA, Nielsen RZ, Poulsen LH, Haggstrom L. A randomised, doubleblind study in adults with major depressive disorder with an inadequate response to a single course of selective serotonin reuptake inhibitor or serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor treatment switched to vortioxetine or agomelatine. Hum Psychopharmacol 2014;29:47-82.
  • Pae CU, Wang SM, Han C, Lee SJ, Patkar AA, Masand PS, et al. Vortioxetine, a multimodal antidepressant for generalized anxiety disorder: a systematic review and meta-analysis. J Psychiatr Res 2015;64:88-98.
  • Wang G, Gislum M, Filippov G, Montgomery S. Comparison of vortioxetine versus venlafaxine XR in adults in Asia with major depressive disorder: a randomized, double-blind study. Curr Med Res Opin 2015;31:785-94.