香川のネット・ゲーム条例関連。
条例では、ゲームプレイがゲーム依存に発展することが疑われていないようだが、ゲームをしたからといって、ゲーム依存者にはならいことは、多くの人たちは実感として持っているはずである。
また、実際にエビデンスも存在している。このエビデンスを今日は紹介したい。
www.ncbi.nlm.nih.gov Scharkow M, Festl R, Quandt, Longitudinal patterns of problematic computer game use among adolescents and adults--a 2-year panel study. T.Addiction. 2014 Nov;109(11):1910-7.
ドイツの研究で、調査の対象になっているのは一般人口ではなく、ゲームをプレイしている人たちである。
参加者は14歳から18歳までの合計112人の青少年、19歳から39歳までの363人の成人、40歳以上の427人の成人である(全体で902人)。計3回にわたって計測がされている。
- 研究開始時点
- 1年後
- 2年後
つまり、2年間にわたりゲーム依存の状況について観察した研究である。計測はGASスコア(Gaming Addiction Short Scale)である(下記の文献参照)。
結果
表3を日本語訳した。
GASスコアでゲーム使用に問題がなかった者を問題「無」、ゲーム使用に問題があった者を問題「有」としている。
タイプ | 開始時点 | 1年後 | 2年後 | 人数 | % |
---|---|---|---|---|---|
問題無安定 | 無 | 無 | 無 | 826 | 91.6 |
問題有へ変化 | 無 | 無 | 有 | 13 | 1.4 |
無 | 有 | 有 | 2 | 0.2 | |
問題有安定 | 有 | 有 | 有 | 9 | 1 |
問題無へ変化 | 有 | 有 | 無 | 2 | 0.2 |
有 | 無 | 無 | 22 | 2.4 | |
一貫せず | 無 | 有 | 無 | 16 | 1.8 |
有 | 無 | 有 | 1 | 0.1 |
結果をまとめると次のようになる。
- ゲームをプレイしていても、91.6%は依存の問題を抱えない。
- もともと問題がなかったのに、問題を抱えるのは15名(1.7%)。これがゲーム依存予防の対象者。
- 安定してゲーム依存であった者は1%。ゲーム依存治療対象者。
- ゲーム依存ではなくなったもの24名(2.7%)。ゲーム依存であり続ける者より自然に治る人の方が多い。
- 一時的に依存(1年後時点)だけゲーム依存だったものは16名(1.8%)。こちらも自然に治っている。
従ってゲーム依存の介入対象は以下の人たちであろう。
- ゲーム依存治療はゲームプレイヤーの1%。
- ゲーム依存予防は問題有に推移した1.7%。
問題があるのはこの3%程度の人たちである。
ゲームがある限りそれに依存する人はいるし、ゲームがなければゲーム依存も存在しないのは事実だが、ゲームをしている人たちに9割以上はゲーム依存にはならない。
また、この調査はゲームプレイヤーの中での割合であり、ゲームをしない人たちも多いため、ゲームで問題を起こす人たちは一般人口ではもっと少ない。
ゲーム依存の対策をするのであれば、問題が起きそうな3%程度のゲームプレーヤーに対して行うべきである。残りの9割以上の人たちには関係のないことなのだから、一律、時間制限を設けるというのは、対策としてばかげているとしか言えないだろう。
まず必要なのはゲーム依存に関係がある3%の人たちを発見することである。香川の条例ではそのことについて何も書かれていないし、どのように介入をしていくか、といったことも書かれていない。ゲーム依存対策の要点を全く含んでいないと言ってよいだろう。
ゲーム障害対策というのは目くらましのようなもので、ゲームを一律に制限することが本当の目的なのだろう。
参加者の募集
Festl et al.(2013)のデータの二次利用である。
最初のステップでは、4500人のコンピューターゲームユーザーがドイツの代表的なオムニバス調査(n = 50,012)から募集された。2011年にWave1でインタビューした4500人の回答者のうち、約1年後に2190人の回答者が調査に参加し、2013年に902人の回答者がWave 3に参加した。すべての調査は、ドイツの市場調査会社によるコンピューター支援の電話インタビューを使用して実施された。
文献
GASスコア
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/15213260802669458
Lemmens J. S., Valkenburg P. M., Peter J. Development and validation of a game addiction scale for adolescents. Media Psychol 2009; 12: 77-95.
この論文の元データ。
www.ncbi.nlm.nih.gov Festl R., Scharkow M., Quandt T. Problematic computer game use among adolescents, younger and older adults. Addiction 2013; 108: 592-9.