井出草平の研究ノート

「ゲーム条例を廃止したかった」と香川県議を脅迫 宮城県の大学生を逮捕(KSB)

news.yahoo.co.jp

脅迫の疑いで逮捕されたのは仙台市の大学生の男(21)です。 警察によると男は今年4月、大山一郎香川県議のホームページに「ナイフでめった刺しにして殺す」などと書き込んだ疑いが持たれています。

みだらな行為容疑、看護師を書類送検 糸島署 /福岡(毎日新聞)

mainichi.jp

少年(当時17歳)にみだらな行為をしたとして糸島署は25日、飯塚市の女性看護師(44)を県青少年健全育成条例違反容疑で書類送検した。2人はオンラインゲーム「荒野行動」を通して知り合っていた。

荒野行動では香川県高松市で似たような事件があった。

www.jprime.jp

Appleが中国向けApp Storeから未認可ゲーム2万本以上を削除するとの報道(スラド)

Appleが中国向けApp Storeから未認可ゲーム2万本以上を削除するとの報道 https://apple.srad.jp/story/20/06/25/1847254/

中国では2016年以降、有料またはアプリ内購入のあるゲームをリリースするには中国政府の認可が必要になっている。ところが、2018年には認可プロセスが完全に停止。2019年には再開されたものの、認可されるゲームの数は少なく、長い時間がかかるようになっている。中国企業が運営するAndroid向けアプリストアでは未認可ゲームの公開を中止しているが、Appleは認可を必須としていなかったため、認可前または認可が得られそうもないゲームを中国国内でリリースする抜け穴になっていた。

中国国内の規制がまた一つ増えた。

【図解・行政】休日にゲームをする時間(時事通信)

www.jiji.com

 同センターの樋口進院長は「ゲーム時間が長くなるほど依存行動や起因する問題の割合が高くなっていることが、数値として初めて示された」と調査の意義を説明した。

ゲーム障害と白質に関する簡単なメモ

先日のJILISのシンポジウムで、森昭雄さん(『ゲーム脳の恐怖』)や雷皓さんの研究を引用したについて岡田尊司さん(『岡田尊司『脳内汚染』など)らが引用している、中国の雷皓さんの研究の評価に質問があったので、簡単にメモをしておこう。

jilissymposium4-5.peatix.com

岡田尊司さんの引用

岡田さんが雷皓さんの研究を引用しているのは『インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで』の冒頭である。

やはり脳が壊されていた! 麻薬中毒患者と同じ異変が
 二〇一二年、ある衝撃的な研究結果が発表された。中国科学院大学武漢物理・数学研究所の雷皓(レイハオ)教授らは、インターネット依存(インターネット・ゲーム依存が中心だが、それ以外のインターネット依存も含む)の若者18名とそうでない若者17名を対象に、DTI(拡散テンソル画像)という方法で、脳の画像解析を行った。
 DTIMRI(核磁気共鳴画像法)を応用して、神経線維の走行を調べることのできる画期的な検査法で、それまで描出が困難だった大脳白質などの神経線維の束を、まるで一本一本の糸の走行を追うように映像化することができる。
 結果は驚くべきものであった。インターネット依存の被験者では、健常対照群に比べて、眼窩前頭葉、前帯状回、外包、脳梁などの大脳白質で、神経ネットワークの統合性の低下(言い換えると、走行の乱れの増加)が認められたのである。実は、同じような状態が、コカインや大麻覚醒剤、ヘロインなどの麻薬中毒の患者で認められることが報告されており、この論文の著者らは、インターネット依存の若者の脳では、麻薬中毒患者の脳に起きているのと同じことが起きていると、強く警鐘を鳴らしたのである。

ちなみに、雷皓さんらの論文というのは林富春(Fu-Chun Lin) さんが第一著者の以下の論文である。

journals.plos.org

Lin et al.,“Abnormal white matter integrity in adolescents with internet addiction disorder: a tract-based spatial statistics study.”PLoS One, 7(1), 2012

岡田さん「ゲームと覚醒剤は同じ」(参考)というデマを流している人で、雷皓さんの研究の扱いも似たような物なのだが、一応確認しておこう。

ゲーム障害と白質/灰白質

Weinsteinのレビューでは下記のように評価されている。

www.ncbi.nlm.nih.gov Aviv M. Weinstein, 2017, An Update Overview on Brain Imaging Studies of Internet Gaming Disorder, Front Psychiatry. 8: 185

インターネットゲーム障害の参加者は、衝動や感情行動の調節に関与する領域の灰白質密度(GMD)も低かったが、本研究の結果から因果関係は推測できない。
Participants with IGD had also lower gray matter density (GMD) in areas involved in urges and the regulation of emotional behavior but no causality can be inferred from the results of this study.

インターネットゲーム障害の人の灰白質を計測をしたところ、密度が低かった。しかし、元々なのか、ゲームが原因で生じたかはわからない。つまり、事前の計測がないと、因果関係というのはよくわからない、ということだ。

ゲーム障害とADHD

白質/灰白質の研究は精神障害の研究では比較的多い。特に気になるのは、ゲーム障害に併存するADHDである。例えば、下記の論文など。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ADHDのとの併存はインターネット依存でも指摘されている。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ADHDには白質/灰白質の異常についての多くの研究がある。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

多動ではなく、注意欠陥-衝動性が白質の異常に関係しているという報告もある。

www.biorxiv.org

多動が、ゲームに没頭するリスクになるとは考えづらく、関連があるのは注意欠陥-衝動性であろうと推測できるため、この仮説は比較的説得力が高いように感じられる。

要するに、もともと白質/灰白質の密度が正常値ではないADHDの人がゲームに没頭していて、脳の画像を撮ったという可能性は少なからずあるということだ。

岡田さんが「やはり脳が壊されていた!」「麻薬中毒患者と同じ異変が」と煽り立ててるほどのエビデンスは存在しない。

よくわからないのは、岡田さんがゲームを麻薬や覚醒剤と同じと主張したい理由である。ゲームに恨みでもあるのか、文筆家として派手な花火を打ち上げないといけないのといけないのだろうか。

白質に関しては説明不足なので、後日、もう少し詳しくエントリを入れて行きたいと思う。

関連リンク

雷皓さんの写真

www.x-mol.com

世界が注目した武漢の研究所に籍を置いているらしい。

2012年10月のシンポジウム

こちらはゲーム脳森昭雄さんのページ。雷皓さんが日本に来て発表をしたらしい。

mori-brainscience.la.coocan.jp

デリーの都市部の学童における近視の有病率と危険因子

前回記事は「進行」がテーマだったが、今回はリスクである。前回記事で紹介した論文の1年前の調査を論文にしたものである。

www.ncbi.nlm.nih.gov

対象

デリーには9つの地区があり、そのうち2つの地区(南と西)を無作為に選んだ。デリーのこの2つの地区に登録されているすべての学校から10校が無作為に選んだ。選ばれた20校の学校に登録された児童の総数は10,114人で、97.7%の9884人の児童が調査対象となった。政府系の学校が11校、私立の学校が9校であった。調査対象となった児童の平均年齢は11.6±2.2歳(5~15歳の範囲)で、男子は6602人(66.8%)であった。男児と女児の割合は同程度であった。

近視の定義

近視は球相当径<-0.5Dと定義されている。

有病率

調査対象となった9884人の子供のうち、572人(5.8%)には、良眼で6/12未満の視力が認められ、そのうち455人(79.5%)が近視であった。軽度の視力障害(良眼で6/12-6/19未満の視力)は322人(3.3%)に認められ、249人(77.3%)が近視であった。

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属性別の有病率

近視の有病率は、公立学校(7.9%)に比べて私立学校(17%)で高く(p<0.001)、男子12.4%(821/6602)に比べて女子14.5%(476/3282)で高く(p=0.004)、年長児(≧11歳)で高かった(p<0.001)。

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多変量分析

近視の子供(n = 1297)と無作為に選ばれた近視でない子供(n = 1153)の両方について、人口統計学的および行動学的危険因子を分析し、すべての危険因子の修正オッズ比値を推定した。

  • 公立学校と比較して私立学校に通う者と近視の正の関連があること
  • 眼鏡を着用している正の家族歴(両親、兄弟)があること(両方ともp<0.001)
  • 社会経済的地位が高いこと(p=0.037)
  • 1日5時間以上の勉強・読書(p < 0.001)
  • 1日2時間以上のテレビ視聴(p < 0.001)
  • コンピュータ・ビデオ・携帯ゲーム(p < 0.001)
  • 屋外での活動/遊びとの逆の関連は、1日に2時間以上遊ぶ子供で観察された(近視でない子供では47.4%であったのに対し、近視の子供ではわずか5%で観察された;p < 0.001)
  • 子どもの年齢や性別、母親の教育到達度は、子どもの近視リスクの増加とは関連はない。

**近視の人口統計学的および行動学的危険因子のロジスティック回帰分析の結果 f:id:iDES:20200619044406p:plain

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雑感

テレビを3時間/日みるとオッズ比は12.3倍と非常に高い。勉強時間は8時間/日で3.8倍、コンピューターとゲームは4時間/週で8.1倍である。ゲームはさておき、テレビのリスクがここまで強い効果として現れているのはこの研究だけだろう。

この研究には大きな問題が一つある。
回帰分析をする際に、対象となる近視の子どもと同じくらいの禁止ではない子どもを対照群としている点である。
近視の子どもが1割程度なのが実態なのだが、この分析法では人口の半分が近視という標本になっており、推定結果が大きくゆがむ可能性がある。医学分野では標本の代表性はあまり気にされないので、同数くらいの対照群を置いておけばよいという発想が出てくるのはわかる。しかし、ほぼ同数の対照群を設定するのは実験デザインであり、この研究は代表性を持った標本の分析なのだから、研究デザインが理解できていなと言わざるを得ない。

デリーの都市部の学童における近視の発生率と進行因子

journals.plos.org

北インドの研究。インドでは学童の近視の有病率は13.1%と他のアジア地域よりも低い(Saxena qt al. 2015)。

方法

デリーにある20の学校に通う5歳から15歳までの児童が対象。1年間の間隔をおいてスクリーニングを行い、1回目に近視と診断された子供たちの新たな近視の進行を観察した。近視は球相当径<-0.5Dと定義されている。

結果

再検査を受けたのは97.3%の9,616人。近視の年間発生率は3.4%で、平均視度変化率は-1.09±0.55であった。近視の発生率は、年長児に比べて年少児で有意に高く(P = 0.012)、女児は男児に比べて有意に高かった(P = 0.002)。

進行した児童(n = 629)について調整オッズ比値を推定した。コントロールに使用した変数は、性別、学校の種類、社会経済的地位、遠距離眼鏡の保護者による使用、学校と家庭での読み書きの時間、テレビの視聴、コンピュータ/ゲームの使用、野外活動である。

影響があったのは、下記の項目。

  • 読書時間(週)(p<0.001)
  • コンピュータ/ゲームの使用(p<0.001)
  • テレビの視聴(p=0.048)

保護的に作用したのは下記の項目。

  • 屋外活動(週14時間以上の野外活動)(P<0.001)

雑感

知っている限り、コンピューターやゲームが近視に影響を及ぼしているという結果が明確に出ている唯一の論文。近視の原因として揺るがないレベルで確定している原因は親からの遺伝である。この論文では、コントロール変数に親がメガネをかけているという項目があり、先行研究は踏まえられているが、この変数が有意になっていない。遺伝は近視のリスクではあるが、進行には関連しないということだろうか。うまくデータの解釈ができない。

近視は都市的な生活によって生じると推測されているが、インドは先進国に比べて都市的な生活がまだ進んでいない。ほとんどの研究は近視が社会問題化されるほど広く見られるようになった社会でされている。中国や日本などは近視が一般化しすぎて、コンピュータやゲームの影響を測定できないようになっているのかもしれない。

仮説はいくつか立てられるが、他の研究との齟齬を説得的に説明することは難しそうだ。

文献

  • Saxena R, Vashist P, Tandon R, Pandey RM, Bhardawaj A, Menon V, et al. Prevalence of myopia and its risk factors in urban school children in Delhi: the North India Myopia Study (NIM study). PloSOne. 2015;10: e0117349

www.ncbi.nlm.nih.gov