井出草平の研究ノート

精神障害

精神障害の神経イメージング研究

www.ncbi.nlm.nih.gov 全脳機能神経イメージング研究のメタアナリシス。参加者11,221人(患者5,493人、対照5,728人)を対象とした251件の論文から283件の試験を対象としている。 対象となった精神障害 精神病性障害は、統合失調症、統合失調感情障害、統合失…

ゲームをすると脳細胞が死滅・萎縮すると主張する人たちが引用する論文には何が書いてあるのか

鈴木裕美(香川大学医学部助教) 鈴木裕美さんは「過剰なドーパミン放出が報酬系を壊し、神経を死滅させる」と述べている。 観音寺市議会の合田隆胤議員のページ(参照)で紹介。 一応、注釈を入れておくと、報酬系が壊れる?のはダウンレギュレーション仮説であ…

「性同一性障害」は病気なのか? 厚労省に当事者クレーム→削除の影にみられる複雑な事情(BuzzFeed News)

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/gid-tg-mhlw https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/gid-tg-mhlw 「しかし、医療的対応を求める方も多く、医療により心身の状態が改善する方も多いため、医療が必要な状態として取り扱うことが必要なことは確…

ガチャの支出はゲーム障害の症状とは関連しない

www.sciencedirect.com 原題は「フォートナイトのアイテム課金支出は仲間の購買行動と関連していたが、ゲーム障害の症状とは関連していない」である。 ガチャとギャンブル障害との関連は支持する論文がいくつかあるが、ゲーム障害と関連があるか、はまた別問…

日本におけるギャンブル障害

篠原菊紀さんのブログ(参照)で紹介されていた論文。 秋山久美子ほか,2018,「日本におけるギャンブリング障害の障害疑い率とその比較 : 方法論による重みづけを用いた検討」『アディクションと家族』34(1): 75-82. https://ci.nii.ac.jp/naid/40021753389 …

ゲーム依存はギャンブル依存より強いのか

四国新聞2020年1月21日朝刊で和田秀樹氏は次のように述べている。 特にゲーム依存はギャンブルやアルコール以上に依存性が指摘されている。 香川(訂正, 2020/02/16)四国新聞:ほっとけない「ゲーム依存」=全国初の対策条例 専門医や識者ら評価 尾木氏、社会…

ネット・ゲーム依存とオピオイド拮抗薬

久里浜の樋口進さんのインタビューでオピオイド拮抗薬の話が出ていたので、少しまとめておこうと思う。 medical.jiji.com この記事で出てくるオピオイド受容体拮抗薬とはナルトレキソンとナロキソンのことである。 ネット・ゲーム依存とオピオイド拮抗薬の効…

インターネットゲーム障害の研究

国立病院機構 久里浜医療センターの三原聡子さんと樋口進さんのゲーム中毒のレビューから。 onlinelibrary.wiley.com リスク うつと不安症はゲーム中毒のリスク Brunborg GS, Mentzoni RA, Frøyland LR. Is video gaming, or video game addiction, associat…

トリンテリックス(ボルチオキセチン)と性機能障害

トリンテリックス(ボルチオキセチン)について一つ気づいていなかったことがある。下記の記事を読んで気付いた。 www.mdmag.com 性機能障害が他の抗うつ薬に比べて低いという補足記述が2018年10月22日にFDAに受理されたという記事である。 研究 元になった研…

トリンテリックス(ボルチオキセチン)のレビュー

トリンテリックスが11月27日発売ということなので、トリンテリックスのレビュー論文を簡単に紹介しておこう。適応の大うつ病性障害以外に全般性不安症にも使用されている。 トリンテリックスのレビューはなぜかたくさんあって、適切なものを選ぶのが難しい。…

心理療法の介入研究の問題点と展望

オープンダイアローグのエビデンス オープンダイアローグはエビデンスが弱いと言われる。 また、オープンダイアローグはエビデンスを作るのに向いていないとも言われる。 では、介入の科学的エビデンスを作るにはどのようにすればよいか? ということを考え…

単純型統合失調症のまとめと8050問題

単純型について過去にエントリを入れたが、その中で書き残している項目をまとめてこのエントリに入れておきたい。 疫学 単純型統合失調症に該当する症候を持つ者の疫学調査が存在するようだ。アイルランドの一地方で実施されたもので、DSM-IIIから基準Aを除…

統合失調症(単純型)の典型例

www.seiwa-pb.co.jp 仙波純一,神山園子,2012,「統合失調症(単純型)の典型例」『精神科治療学』27(7): 897-901. 「統合失調症(単純型)の典型例」という論文があるため、少し長くなるが症例込みで見ていきたい。 単純型とは下記のように定義されている。 …

単純型・寡症状性統合失調症

単純型よりもさらにマニアックな類型になるが寡症状性統合失調症にもついて見ていきたい。 ci.nii.ac.jp 田中伸一郎,2012,「継往開来 操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ 単純型・寡症状性統合失調症」『精神医学』54(7…

ICDとDSMにおける単純型統合失調症の扱い

ICDとDSMにおける単純型統合失調症の扱いについてメモをしておこう。 ICDでの扱い 1977年のICD-9の段階でも「可能であれば控えめに行うべき」と書かれている。1970年代の段階で国際的にこの診断基準は推奨されていなかったことがわかる。 1990年のICD-10での…

Blankenburgの『自明性の喪失』-単純型統合失調症かアスペルガー症候群か

和田信,2016,「『自明性の喪失』にみるBlankenburg, W.の姿勢 : 単純型統合失調症か,それともアスペルガー症候群か」『精神科治療学』 31(6): 755-761. ci.nii.ac.jp 「単純型統合失調症か,それともアスペルガー症候群か」という副題にあるようにBlankenb…

素行障害の特定用語

素行障害とはConduct Disorderのことであり、以前は行為障害と翻訳されていた。翻訳が変化しただけで、同じものを指している。素行障害特定用語が4つあるのでDSM-5から引用しておこう。 サイコパスは様々な意味を含むが、その中核症状は、DSM-5では素行障害…

宮本輝「パニック障害がもたらしたもの」

パニック障害になった有名人の一人として宮本輝がいる。 宮本輝のエッセイに「パニック障害がもたらしたもの」というものがある。 いのちの姿 完全版 (集英社文庫)作者: 宮本輝出版社/メーカー: 集英社発売日: 2017/10/20メディア: 文庫この商品を含むブログ…

精神科の選び方3 ベンゾジアゼピン

以前のエントリの続きである。 精神科の選び方1 ガイドライン 精神科の選び方2 血液検査 今回はベンゾジアゼピン系の薬剤についてである。 最近はベンゾジアゼピンの処方がやり玉にあがることが多い。ベンゾジアゼピンとされる薬剤は主に下記の薬剤である…

精神科の選び方2 血液検査

イントロダクション 前回に引き続き精神科の選び方について。 前回はガイドラインと自分の受けている治療を比較するということだったが、今回は血液検査についてである。 前回は精神疾患以外のほとんどの疾患に応用できる方法だったが、今回はうつ病に限定し…

精神科の選び方1 ガイドライン

イントロダクション 精神科の選び方について相談をされることが度々あるので、まとめてみたい。 精神科選びというのはかなり難しい。治療方法が複雑なので説明が尽くせないということもあるが、一般的に悪手とされているものでも、会心の一手であることも稀…

ヒステリー性パーソナリティ障害

時折、ヒステリーの話であったり、ヒステリック・パーソナリティ障害の話をするのだが、いまいち伝わらないことが多いので、ヒステリー性パーソナリティ障害にいついてまとめておきたい。 ヒステリー性パーソナリティ障害とは古典的ヒステリーの特徴を持った…

PTSDの諸症状への薬物療法

フラッシュバックなどのPTSDの症状にトピナ(トピラマート)が有効なのかという問い合わせをいただいたので、これを機にPTSDへの薬理学的介入について少しまとめてみることにした。 まずはファースト・ラインの薬物から。イギリスNHSが出しているNICEガイドラ…

看護師のチームリーダーと一般の看護師のストレスの比較

チームリーダーと一般の看護師のストレス因子を比較した論文。結果は統計的に有意な差はなかったというもの。看護師のストレスはリーダーか否かでは変わらない、もしくはこの研究で使われているNJSSという尺度が両者の違いを測るものとしては妥当ではなかっ…

江戸時代の精神障害

精神障害者をどう裁くか (光文社新書)作者: 岩波明出版社/メーカー: 光文社発売日: 2009/04/17メディア: 新書購入: 3人 クリック: 169回この商品を含むブログ (37件) を見る 本の本筋の記述ではないが江戸時代の精神障害についての記述が面白かった。江戸時…

3匹の鳥

こちらは私信みたいなもの。 3匹の鳥がいます。ロナセンはD2受容体の遮断作用と5HT2受容体遮断作用を併せ持つのでSDAに分類されるとのこと。

寛解と回復と反応率

今回は授業へのフィードバックのエントリ。今週の授業でうつ病について喋っていたのだが、寛解と回復の違いを説明しなかったせいか、どうも混乱したようなので、授業プリントを作るついでにこちらにも書いておこうと思う。内容自体は授業に密着したものでは…