井出草平の研究ノート

西澤章弘ほか「摂食障害と知的機能」

西澤章弘・井原裕・稲葉裕・新井平伊,
「摂食障害と知的機能」『臨床精神医学』 (Japanese journal of clinical psychiatry)
33(1) 2004.1 p77-87.


摂食障害と知的能力の関係についての論文。摂食障害の当事者の家庭環境がどちらかと中から上であることから知的能力が高いと言われてきたが、重症例では知的能力が低下するという趣旨。海外では研究の蓄積があるとのこと。


抄録:

DSM-Ⅳにて診断された摂食障害患者22名(神経性無食欲症8名,神経性大食症12名,特定不能の摂食障害2名)にWechsler Adult Intelligence Scale-Revised(WAlS-R)を施行し,年齢,発病年齢,雁病期間,過食・排出行為など知的機能に影響を及ぼす諸国子との関係を検討した。対象象全体としては,言語性IQ83.9,動作性IQ82.5,全検査IQ80.9と境界知能の水準にあり,中でも「知識」「単語」「算数」「理解」「絵画完成」「組合せ」の各下位項目が低得点であった。過食・排出行為のある群(n=14)は,ない群(n=8)に比較して有意に知的機能が低かった(全検査IQ,p<0.05)。また,年齢や発病年齢が高く,雁病期間が長いほど,知的機能が低くなる可能性があることが示唆された。WAIS-Rの全検査IQ,言語性IQ,動作性IQを基準変数とし,発病年齢,罹病期間,脳波異常,脳萎縮,精神科合併症,過食・排出行為を説明変数とした重回帰分析を行ったところ,過食・排出行為,高い発病年齢が知的機能に密接に関係していることが明らかになった。


原因類推

そうした場合,知的機能力が低下する原因としては種々考えられるが,認知障害で指摘されてきたように,ビタミンの欠乏,電解質異常,高コルチゾール血症,甲状腺機能低下,脳内の神経伝達物質異常,脳代謝の異常などの関与や,それに伴う記憶障害や性格変化など脳器質性精神症候群の要素が修飾した可能性が考えられる。また,疾病の持続により精神生活や生活環境が狭小化するという心理的要因なども考えられるが,今後,知的機能検査に影響する要団をさらに検討する必要があると思われる。

  1. 摂食障害が身体に与える影響から知的能力に影響した仮説
  2. 摂食障害によって社会との距離が出来、社会性の低下が知的能力に影響した仮説


但し書き

本研究では症例数が十分なものとはいえず,症例も重篤な例が多く,すべての摂食障害者に当て嵌まるとはいえない点は斟酌しなければならない。