井出草平の研究ノート

「社会不安障害」と「ひきこもり」と「摂食障害」

書きかけ


WikipediaからSSRIsの項目。

In a 1995 double-blind, placebo-controlled trial, the SSRI paroxetine was shown to result in clinically meaningful improvement in 55% of patients with generalized social anxiety disorder, compared with 23.9% of those taking placebo.[31] An October 2004 study yielded similar results. Patients were treated with either fluoxetine, psychotherapy, fluoxetine and psychotherapy, placebo and psychotherapy, and a placebo. The first four sets saw improvement in 50.8 to 54.2% of the patients. Of those assigned to receive only a placebo, 31.7 percent achieved a rating of 1 or 2 on the Clinical Global Impression-Improvement scale. Those who sought both therapy and medication did not see a boost in improvement.[32]


パロキセチン(パキシル)の投薬結果は、改善がパキシル群55%、プラセボ群23.9%。根拠となっている論文は以下。


フルオキセチン(プロザック)の投薬結果は、改善がフルオキセチン群50.8-54.2%、プラセボ群31.7%。根拠となっている論文は以下。


ちなみに、日本ではパロキセチンフルオキセチン社会不安障害への「適応」が認められていない。
日本で「適応」が認められているのは、フルボキサミン(ルボックス)のみである。


社会不安障害(SAD)を広めるためのキャンペーンが打たれている。


このキャンペーンのバックにあるのは、日本で社会不安障害への「適応」が唯一認められているフルボキサミンの販売・製造を行っている、アステラス製薬・ソルベイ製薬・明治製菓の3社である。(リンク先右下の製薬会社名を参照)

アステラス製薬株式会社(本社:東京都中央区、社長:竹中登一)、ソルベイ製薬株式会社(本社:東京都北区、社長:大岩幸治)、明治製菓株式会社(本社:東京都中央区、社長:佐藤尚忠)の3 社は、2005 年10 月、全国の10 代後半〜40 代の一般生活者の男女600 名を対象に、インターネットによる「社会不安障害(Social Anxiety Disorder/以下、SAD)に関する認識調査」を実施しました。


アステラス・ソルベイ・明治はこの件についてはいつもつるんでいるようだ。調査はインターネットによってなされている。インターネット調査は怪しいと言われることはあるが、実際にはサンプリングをすれば歪みの少ないデータを得ることが出来る。やはりどういう方法でどういうサンプリングをしたかということに調査の信頼性はある。


フルオキセチンについて


いわゆる「プロザック」。プロザックとはイーライリリーの商標である。日本で認可されていないので、入手するには処方してくれる医者を見つけるか個人輸入になる。

1錠(20mg)で80円という計算になる。ただ、メーカー名の書いていないジェネリックは避けるべきとの指摘があるので、もし飲むとするならばイーライリリーの作っているプロザックがよいだろう。

ここの個人輸入は1錠(20mg)で86円という計算になる。


わざわざ個人輸入する必要もない気がするが、フルボキサミンパロキセチン個人輸入もできるようだ。


摂食障害」との関連について


フルボキサミンは「摂食障害」にも使用される。(参照)
拒食症に関しては効かないが、過食症の過食行動を緩和したり、嘔吐行為を抑制したりすることができる。アメリカなどでは、フルオキセチン(プロザック)が使用されているが、日本では認可が下りていないので、実質の所、過食・嘔吐行為に関しては、フルボキサミンが日本での第一選択になる。

  • Goldstein DJ, et al., Long-term fluoxetine treatment of bulimia nervosa. Fluoxetine Bulimia Nervosa Research Group, The British journal of psychiatry, 1995 May;166(5):660-6.


過食症へのフルオキセチン(プロザック)の投与について。フルオキセチンがアメリカでの第一選択である。

Compared with placebo, fluoxetine treatment resulted in significantly greater reductions in vomiting (F[1,360] = 14.73, P < 0.0001) and binge-eating (F[1,360] = 14.39, P = 0.0002) episodes per week at endpoint and improvement in other outcome measures.


すごく効いたそうだ。


DSMIV-TRには社会不安障害との関連の記述がある。

 神経性大食症の人に,抑うつ症状(例:低い自尊心)や気分障害(特に,気分変調性障害および大うつ病性障害)がみられる頻度が多い.多数の,またはほとんどの人で,気分の障害は神経性大食症の発症と同時に,あるいはそれが発症した後に始まり,しばしば気分の障害を神経性大食症のせいにする.しかし,人によっては,明らかに気分の障害が神経性大食症の発症に先行していることがある.不安症状(例:社会的状況への恐怖)や不安障害がみられる頻度が高いこともある.これらの気分の障害や不安性の障害は,神経性大食症の有効な治療後にはしばしば寛解する

つまり、摂食障害の場合には過食や嘔吐という症状を止めることによって、社会不安障害も除去が期待できるということだろう。


切池ガイドラインには次のような記述がある。

多くの研究で抑うつ症状の有無にかかわらず、抗うつ薬が神経性過食症の過食と嘔吐や,併存する気分や不安障害に対して有効であることが報告されている。これらのうちこ重盲検比較試験で有効性が報告されている抗うつ薬として, imipramine, desipramine、amitriptyline、mianserin、bupropion、trazodne、 phenelzine, SSRlであるfluoxetineなどがある。これらのうち米国のFDAで認可されているのはfluoxetineだけである。我が国で有効性が検証された抗うつ薬がなく認可もされていない。しかし、併存するうつ病強迫性障害パニック障害などに抗うつ薬を投与する機会が生じる。*1


米国でFDAが公けに認めているのは、フルオキセチン(プロザック)のみである。日本では、フルオキセチンはそもそも認可がされていないし、他の抗うつ剤で、摂食障害への適応が認められているものもない。ただ、だからといって、他の薬が効かないというわけではない。細金・生田論文に見られるように、多くの場合、第一選択はフルボキサミン(ルボックス)であると考えられる。


アメリカ精神医学会『米国精神医学会治療ガイドライン 摂食障害 (米国精神医学会治療ガイドライン)』での過食症への投薬については以下のように述べられている。

 二重盲検比較試験によると,イミプラミン(156,157),デシプラミン(158),トラゾドン(159),フルオキセチン(160,161)は,神経性大食症の症状を軽減するのに有効である。イミプラミンは,大多数の患者で過食回数をほぼ半減させ, 3分の1の患者を過食とパージから解放した。デシプラミンは,有効血中濃度となった患者の3分の2で過食症状を寛解させた。これは,薬物血中濃度と大食症における症状改善との関係を示した唯一の研究でもある。またデシプラミンの研究は,うつ状態を伴わない大食症患者だけを対象にしたものである。
 モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)のフェネルジン(162)とイソカルボキサジド(163)が,大食症の症状軽減に有効なことも知られている。最近の研究では,非定型的な抑うつや過食の患者では,イミプラミンよりもフェネルジンに選択的に反応する場合があるという(58)。患者によっては,チラミンを含む食物を避けるのが困難なこともあるので, MAO阻害薬を使うのにチラミン無含有の食事療法が必要な場合には,食事療法がどれだけ続けられるかという患者の信頼性を慎重に評価する必要がある(111, 164)。カルバマゼピン(165)とリチウムは,神経性大食症の症状を治療する効果はないとされており(166,167),摂食障害の患者には合併症を考慮しながら,ときに応じて補助的に使用すべきである。
 要約すると,抗うつ薬は神経性大食症の治療に有効である。神経性大食症の治療に用いる三環系抗うつ薬とMAO阻害薬の用量は,気分障害を治療する用量とほぼ同じである。フルオキセチンでは,低用量(20mg/日)よりも大量(60mg/日)のほうがより効果的である(160)。患者に適した薬物療法が決まるまでに,ときには何種類かの薬物を試さなくてはならないこともある(168,169)。


文中で言及されている論文は以下。

  • 156. Pope HG Jr, Hudson JI, Jonas JM, Yurgelun-Todd D : Bulimia treated with imipramine : a placebo-controlled, double-blind study. Am J Psychiatry 1983 ; 140 : 554-558 [A]
  • 157. Agras WS, Dorian B, Kirkley BG, Arnow B, Bachman J : Imipramine in the treatment of bulimia : a double-blind controlled study. Int J Eating Disorders 1987 ; 6 : 29-38 [A]
  • 158. Hughes PL, Wells LA, Cunningham CJ, Ilstrup DM : Treating bulimia with desipramine : a double-blind placebo-controlled study. Arch Gen Psychiatry 1986; 0 : 182-186 [A]
  • 159. Pope HG Jr, Keck PE Jr, McElroy SL, Hudson JI : A placebo-controlled study of trazodone in bulimia nervosa. J Clin Psychopharmacol 1989; 9: 254-259 [A]
  • 160. Fluoxetine Bulimia Nervosa Collaborative Study Group : Fluoxetine in the treatment of bulimia nervosa : a multicenter, placebo-controlled, double blind trial. Arch Gen Psychiatry 1992 ; 49 : 139-147 [A]
  • 161. Freeman CP, Morris JE, Cheshire KE, Davies F, Hamson M : A double-blind controlled trial of fluoxetine versus placebo for bulimia nervosa, in Proceedings of the Third International Conference on Eating Disorders, New York, 1988 [J]
  • 162. Walsh BT, Stewart JW, Roose SP, Gladis M, Glassman AH : Treatment of bulimia with phenelzine : a double-blind, placebo-controlled study. Arch Gen Psychiatry 1984 ; 41 : 1105-1109 [A]
  • 163. Kennedy SH, Piran N, Warsh JJ, Prendergast P, Mainprize E, Whynot C, Garfinkel PE : A trial of isocarboxazid in the treatment of bulimia nervosa. J Clin Psychopharmacol 1988 ; 8 : 391-396 [A]
  • 164. Pope HG Jr, Hudson JI : Antidepressant drug therapy for bulimia : current status. J Clin Psychiatry 1986 ; 47 : 339-345 [I]
  • 165. Kaplan AS, Garfinkel PE, Darby PL, Garner DM : Carbamazepine in the treatment of bulimia. Am J Psychiatry 1983 ; 140 : 1225-226 [A]
  • 166. Hsu LK : Treatment ofbulimia with lithium. Am J Psychiatry 1984 ; 141 : 1260-1262 [E]
  • 167. Hsu LK, Clement L, Santhouse R, Ju ES : Treatment of bulimia nervosa with lithium carbonate : a controlled study. J Nerv Ment Dis 1991 ; 179: 351-355 [A]
  • 168. Mitchell JE, Pyle RL, Eckert ED, Hatsukami D, Pomeroy C, Zimmerman R : Response to alternative antidepressants in imipramine nonresponders with bulimia nervosa. J Clin Psychopharmacol 1989 ; 9: 291-293 [E]
  • 169. Pope HG Jr, McElroy SL, Keck PE Jr, Hudson JI : Long-term pharmacotherapy of bulimia nervosa (letter). J Clin Psychopharmacol 1989;9:385-386 [J]
切池信夫,1995,
「SSRI摂食障害」
『神経精神薬理』17: 275-282.

*1:切池信夫,2003,「摂食障害の標準的治療法の開発とそのガイドライン作成と治療体制のあり方について」『厚生労働科学研究研究費補助金 こころの健康科学分野研究事業『摂食障害の標準的治療汝の開発とそのガイドライン 作成と治療体制のあり方についてに関する研究』平成14年度 総括・分担研究報告書: 1-93