崎濱盛三,2006, 「高機能自閉症・アスペルガー障害における虐待の問題」 『季刊 こころのりんしょうa・la・carte』第25巻2号
アスペルガー障害と虐待についての論文。アスペルガー障害の当事者が虐待をするケースと家族(親)が虐待をするケースの2つの大別される。
まずは、当事者を親が虐待する場合。
そして,広汎性発達障害の子どもに対する虐待のうち,一部は「二次災害」,すなわち保護者側に〈育てにくさ〉や養育上の自信喪失を生み,反応性に虐待行動が発生したと考えられる。身体的虐待を受けた側は,発達障害の有無によらず,過敏な〈警戒状態〉や防衛反応を発達させやすく,保護者との間に悪循環が成立する。
十市元三氏の記述を引きながら記された部分。
細かい点だが、「二次障害」ではなく、「二次災害」という言葉が使われている。「二次障害」という言葉は二次的に精神障害が出る場合(発達障害で社会世活に支障を来たし、うつ状態になるというような場合など)は使う必然性があるが、そうではない場合にはわざわざ使う必要もないのだろう。加えて「障害」という言葉の語感もあまり良いものではない。
面接をしてみるとA子には夫との問題以上に大きな問題があった。子育ての問題である。A子は子どものしつけのことで夫の両親から責められ,保育園の先生から愛情不足と責められてきた。そして子どもを育てることに恐怖ざえ覚え,もはや子育てが出来る状態でなかった。
長男を診断し広汎性発達障害であることを告げると,自分のせいでなかったことに安堵したようであるが,もはや子育ての自信は回復できる状態ではなく,結局夫とは離婚し子どもも夫に引き取ってもらうこととなった。
広汎性発達障害の特性を「子育ての失敗」として取られ夫の両親から攻められたというケース。
親が発達障害で子どもを暴行をしたケース。
M男は,6年前の両親の離婚により,父親(D男)に引き取られている。この6年間,父親は躾のためだけに限らず日常的に暴力的態度があり,木刀や酒瓶でM男を殴打している。同居の祖母が木刀を取り上げるという場面もあった。M男は何度か父親に,母親のところへ行きたいと言ったが拒否され続けてきたのだが,高校を卒業すれば父親から離れられると考えてきた。
木刀や酒瓶を使った暴行。
E子によると,妊娠中はそれなりに生まれてくる子を楽しみにしていたという。しかし出生した長男を一目見るや否や,一瞬にして興味がなくなり,その後は全く関わりをもとうとしなかった。E子に理由を聞いても自分でも答えることが出来ないようで,好きとか嫌いという以前の問題で,全く無関心という感じである。今でもほとんど施設に長男の面会に行くことはない。
今度は母親が広汎性発達障害の場合。子どもに興味を失うというケースが紹介されている。
発達障害や広汎性発達障害の概念が広まらないことには、こういう暴行・虐待は少なくなりそうにない。一般的にも知られるようになったとはいえ、やはりまだまだという感じがある。