井出草平の研究ノート

広汎性発達障害の有病率と英国自閉症協会(NAS)


Fombonneのコメンタリ。1997年の記事。NAS(英国自閉症協会)が声明として出した自閉症スペクトラムの有病率についての検討をしたもの。

Eric Fombonne 
Prevalence of Autistic Spectrum Disorder in the UK
Autism, Vol. 1, No. 2, 227-229 (1997)
http://aut.sagepub.com/cgi/content/citation/1/2/227


NAS(英国自閉症協会)の声明によると、イギリスの自閉症スペクトラム障害を持つ人は、子供から大人まで合わせると最低でも51万8500人になる。


NASの主張する値だと1万人あたり91人に自閉症スペクトラムがみられることになるが、この値に近い値は一部の疫学調査ではいくつか出ている数字である。現在においても、全国規模の調査となるとイギリスで行ったFombonne et al.(2001)の調査ということになり、この調査では1万人あたり29.9人(広汎性発達障害全体)であり、90年代のNASの主張は現在においても高い値である。よくあることだが、この団体の都合によって高い値を主張する必要があるのであろう。


Fombonneはこのコメンタリにおいて過去の8つの疫学調査を検討し、NASの声明にあった数字の検討を行っている。97年の段階でもっとも信用のおける自閉症の有病率として1万にあたり5人(Fombonne 1997)を出してイギリスでの推定をしている。18歳以下の自閉症の子供たちは6500人、他の広汎性発達障害の子供たちは1万3000人。同じ割合で、成人にもこの疾患がみられるとすると、自閉症2万2000人、その他の広汎性発達障害4万4000人ということになる。イギリスでは、自閉症を抱える人は2万8500人、その他の広汎性発達障害を抱える人は5万7000人という推計になるとしている。


日本では、広汎性発達障害はたくさんいるんだという雰囲気か流れがあるためか、数値をあまり検討せずに紹介するものがたくさんある(この声明に関しては、こちらなど)。しかし、英語のジャーナルに書かれたものを読むと、冷静に数値を扱っていて(ジャーナルなので当たり前だが)、疫学調査研究者自身が調査法の限界と、高い値を差し引いて読むように警告していたりする。日本語文献ではジャーナルであっても、学術的妥当性の高いもの(低値になるため?)は掲載せず、支援団体が集めたもの(人口比2%や3%)という数字が書いてあったりする。おそらく、わざとなのだろうと思うのだが、国際的に流通しているものと国内で流通しているものの温度差があるように感じる。


  • FOMBONNE, E. (1997)- 'Epidemiological Surveys of Infantile Autism', in F. VOLKMAR (ed.) Autism and Pervasive Developmental Disorders . Monographs in Child Psychiatry No. 2. Cambridge: Cambridge University Press. ISBN:0521553865
  • E Fombonne, H Simmons, T Ford, H Meltzer, R , Prevalence of Pervasive Developmental Disorders in the British Nationwide Survey of Child Mental Health. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry. 40-7:820-827, July 2001. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11437021