井出草平の研究ノート

非言語性学習障害症候群の特徴


非言語性学習障害は概してアスペルガー症候群に似た特徴を持っている印象を持つが、アスペルガー症候群の臨床像とは異なっているのは音韻処理障害においてである。視空間認知スキルと身振りによるコミュニケーションには問題があるが、言語能力は比較的保持できている臨床像という要約になろう。


総説 アスペルガー症候群

総説 アスペルガー症候群

  • 作者: アミー・クライン,サラ・S・スパロー,山崎晃資,フレッド・R・ヴォルクマー,小川真弓,徳永優子,吉田美樹
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2008/05/30
  • メディア: 単行本
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非言語性学習障害症候群の特徴

 われわれが徹底的な臨床検査を経て確認した非言語性学習障害の主要な臨床症状(概念の内容)は、以下の通りである。

1.両側の触知覚障害。通常左半身の方が著しい。単純な触知覚の欠如や抑制の徴候は年齢とともに治まる傾向にあるが、複雑な触覚的入力の処理障害は続くことが多い。
2.両側の精神運動協調障害。しばしば左半身の方が著しい。指タッビングや静止安定など比較的単純な運動スキルは、年齢とともに正常になることが多い。複雑な精神運動スキルは、とりわけ未経験の状況で要求される場合、年齢的な標準と比較して悪化する傾向にある。
3.視空間構成能力の著しい欠如。単純な視覚弁別は、特に言語化できる素材の場合、通常年齢とともに正常レベルに近づく。複雑な視空間構成スキルは、特に未経験の状況で要求される場合、年齢的な標準と比較して悪化する傾向にある。
4.未経験な状況、あるいは複雑な状況への著しい適応困難。そうした状況では、想像力に欠ける機械的な(そのため、しばしば不適切となる)行動に過度に依存してしまう。新しい経験に対処する能力は、年を経ても乏しいままか、あるいは衰えることさえある。
5,非言語性の問題解決、概念形成、仮説検証における著しい障害、また、未経験あるいは複雑な状況での肯定的、否定的情報フィードバックの利用能力の著しい障害。その中には、因果関係への対処が相当に困難である、場違いなことを理解する能力に大きな障害がある(年齢相応のユーモアがわからないなど)といったことも含む。こうした障害は年を経ても継続するか、あるいは悪化する傾向にある。
6.時間感覚の歪み。この歪みは、通常の活動をする際の所要時間の推定や、一口の時刻の推定が難しいことに視れる(この障害は自発的には現れないこともあり、顕在化させるには通常、直接的な働きかけを必要とする)。
7.よく発達した機械的言語能力。なかでも機械的言語記憶スキルには非常に優れる。複雑な言語的素材の「記憶」は通常劣るが、これは、そうした素材の最初の理解が十分ではないからであると思われる。
8.反復的で単調、機械的な話し方で非常に鏡舌。言語の内容理解に障害があり、心理言語学的な語用に劣る。口まねを除けば、話し言葉に韻律がほとんどないか、あるいは全くない。社会的関係や情事別文集、不安解消のための主たる手段として、言語に過度に依存する。
9.機械的計算の相対的な欠陥が著しく、対照的に読字(語彙の理解)やスペリングに熟達していること。スペリングに誤りがあるとしても、音声上は正確な場合がほとんどである。複雑な文章の内容理解は、その機械的記憶とは反対に、年を経ても改善しないと思われる。
10.社会認知、社会的判断、社会的相互作用スキルの有意の障害。就学前や学齢早期にはしばしば「多動」と見られる。だが年齢とともに寡動になる傾向が目立ち、社会的引きこもりや社会的孤立にさえ至ることも少なくない。学齢後期や青年期には、社会心理的障害、とりわけ「内面化」型の精神障害が進行する危険性がかなりある。


非言語性学習障害についての提唱はMyklebust(1975)。


Progress in Learning Disabilities: v. 3

Progress in Learning Disabilities: v. 3

  • HR Myklebust, 1975, Nonverbal learning disabilities: Assessment and intervention, Progress in learning disabilities