井出草平の研究ノート

ひきこもりはネット依存か

一般的には、ひきこもり=ネット依存的なイメージが強いらしい。
そういわれてみれば、メディアイメージのひきこもりはネットをしているし、ネットで語られるひきこもりのステレオタイプもネットばかりしている人である場合が多いように思える。

そこで、実際にはひきこもりの人たちがどの程度ネット利用をしているのか調べてみた。
使用するのは内閣府の2015年調査(15-39歳)、2018年調査(40-64歳)である。

若者の生活に関する調査報告書
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/h27/pdf-index.html

生活状況に関する調査
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html

両方の調査で「ふだんご自宅にいるときに、よくしていることすべてに○をつけてください。」というマルチアンサーの質問があり、インターネットとゲームの選択肢が含まれている。
この質問に対する答えを集計してみたい。

若年(15-39歳, 2015年調査)

テレビ ラジオ ゲーム ネット
ひきこもり 61.2% 12.2% 46.9% 59.2%
一般群 75.7% 4.8% 38.8% 59.6%

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ひきこもりのラジオ利用率が高いことがわかる。テレビは一般群の方がみている。ゲームは8%ほどひきこもりの方が使用率は高い。ネット利用率は一般群は差はない。
2000年代からひきこもりのラジオ利用率は高かったが、その傾向は近年でも変わっていない。一般的にはひきこもりといえばネットやゲームかもしれないが、個人的にはラジオ視聴が特徴的だと思っている点である。

ただ、ラジオはテレビよりも古いメディアなので、社会的な拒否感というのは低いだろう。ネットやゲームは数十年くらいの歴史しかないので、高齢者にとっては「よくわからない存在」であり、「気持ちの悪いもの」であり、叩きやすいものでもある。そのため、異常な行為だとみなされやすい。ひきこもりも社会的には異常な行動なので、両者は結び付けられやすいのだろう。しかし、残念ながら、実態としては、ひきこもりがとりわけネットをよく利用しているわけではなさそうである。

中年(40-64歳, 2018年調査)

テレビ ラジオ ゲーム ネット
ひきこもり 74.5% 12.8% 14.9% 29.8%
一般群 82.5% 7.9% 18.6% 43.3%

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中年でもラジオ使用率が高い。テレビは若年と同じく一般群より1割ほど低い。ゲーム、ネットはいずれも一般群の方が高い。
ネット使用というのは、社会性とある程度の相関があると思われる。現代のオフィスワークではネット利用なしに仕事はできない。
仕事でネットを利用していれば、プライベートでもネットを利用するようになるはずである。

ひきこもりの中のヘビーユーザー

全体的にみるとひきこもり=ネット依存ということではないことが確認できた。
若年調査では一般群と使用率が同程度であった。中年調査では一般群の方がネット使用率は高かった。

ネットがあまり普及していなかった2000年代の調査では、ひきこもりのネット利用率は1割程度だったが、現代では一般群とほぼ変わらなくなったと言えるだろう。

とはいえ、ひきこもりの中にネットやゲームのヘビーユーザーがいないかというと、そうでもない。 仕事をしながら余暇のすべてをゲームやネットにつぎ込んでいる人もいるので、ひきこもりだけの問題だけではないのだが、ひきこもりとネット・ゲーム依存についても検討していかなければならないだろう。

2015年調査の問33に「パソコンや携帯ないと落ち着かない」という質問がある。内閣府の調査では、この質問くらいしかネット依存を計測できそうな質問がないが、その質問に該当したからと言って依存だということにはならない。
依存とはもう少し深刻な状況を指す。
スマホを常に持っていてLINEがくるので気になるくらいの人でもこの質問では引っかかるレベルである。
よって、下記の値は参考値くらいに捉える必要がある。

一般群とひきこもり群を比較すると、ひきこもり群の方が割合が高い。

2015年調査 パソコンや携帯ないと落ち着かない
ひきこもり 28.6%
一般群 10.5%

2018年の中年調査では割合がぐっと低くなる。

2018年調査 パソコンや携帯ないと落ち着かない
ひきこもり 8.5%
一般群 4.5%

こちらもひきこもり群の方が多い。引き上げているのは40代である。60代の一般群は1.8%と低い。

ある程度、推測は混じるが、依存という点では、一般群よりも、ひきこもり群の方が割合は多いのかもしれない。
間違えてはいけないのは、これはあくまでも割合の話である。
そもそもひきこもりは人口の1~2%程度と少数派である。
ひきこもりの方が割合として多かったとしても、ネット・ゲーム依存になっている大半の人は就労・就学をしながらの人であるということは確認しておきたい点である。