長時間のゲーム利用と遺伝子多型

過度なインターネット・ビデオゲームのプレイ(Excessive internet video game play)の遺伝子多型の研究。

www.ncbi.nlm.nih.gov Han DH, Lee YS, Yang KC, et al. Dopamine genes and reward dependence in adolescents with excessive Internet video game play. Journal of Addiction Medicine 2007;1:133-8.

この研究では4つの変数がある。

  1. 過度なインターネット・ビデオゲームのプレイ
  2. Temperament and Character InventoryのRDスケール
  3. ドーパミンD2受容体のTaq1A1対立遺伝子
  4. カテコラミン-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)のVal158Metの対立遺伝子

注意が必要なのは、ゲーム障害やインターネットゲーム障害ではなく、ゲームプレイ時間が長い人についてが対象になっていることである。

ドーパミンD2受容体のTaq1A1対立遺伝子(DRD2 Taq1A1)

f:id:iDES:20200324030039p:plain

依存症・嗜癖の研究ではDRD2_Taq1A1をターゲットにしている。病的賭博(Comings et al. 1996)に関する研究、アルコールに関する研究(Blum et al. 1990)、コカイン乱用者の研究(Noble et al.1993)でもA1対立遺伝子の保有率が高い。

薬理学的には、D2ドーパミン受容体結合部はTaq1A1対立遺伝子を持つ被験者で有意に減少することがわかっている。D2ドーパミン受容体結合部の減少は、中毒性、衝動性、および強迫性行動のリスクが高くなる素因となる可能性があるとBlum et al.(1990)は考えている。

Beuten et al.(2006)はタバコについて研究だが、この論文での議論をゲームに転用すると、Taq1A1対立遺伝子を持つEIGP群は、ドーパミン系の欠乏を補う手段としてビデオゲームのプレイを求めるということになる。

  • Comings DE, Rosenthal RJ, Lesieur HR, et al. A study of the dopamine D2 receptor gene in pathological gambling. Pharmacogenetics. 1996;6: 223-234.
  • Blum K, Noble EP, Sheridan PJ, et al. Allelic association of human dopamine D2 receptor gene in alcoholism. JAMA. 1990;263:2055-2060.
  • Noble EP, Blum K, Khalsa ME, et al. Allelic association of the D2 dopamine receptor gene with cocaine dependence. Drug Alcohol Depend. 1993;33:271-285.
  • Beuten J, Payne TJ, Ma JZ, et al. Significant association of catechol-Omethyltransferase (COMT) haplotypes with nicotine dependence in male and female smokers of two ethnic populations. Neuropsychopharmacology. 2006;31:675-684.

カテコラミン-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)のVal158Met対立遺伝子

カテコラミン-O-メチルトランスフェラーゼはドーパミン、アドレナリンおよびノルアドレナリンなどのカテコールアミン類を分解する酵素の一つである。ドーパミンの不活化に関与している。この仮説は不活化率が低いタイプでゲームの長時間使用が多いというものである。応報系の報酬が他の人より多く、長くあるため、依存的になりやすいという仮説である。

Beuten et al(2006)ではニコチン依存症との関連が示されている。Yoshimoto et al.(1991)では、エタノール誘発性の多幸感は大脳辺縁部におけるドーパミンの迅速な放出と関連しているとしている。

活性の低い {COM}^T対立遺伝子である {COMT}^Lドーパミンの不活化率を低くしていると考えられ、不活性化率の低さから、EIGP群は多幸感をより強く感じるようになると示唆される。

  • Beuten J, Payne TJ, Ma JZ, et al. Significant association of catechol-Omethyltransferase(COMT) haplotypes with nicotine dependence in male and female smokers of two ethnic populations. Neuropsychopharmacology. 2006;31:675-684.
  • Yoshimoto K, McBride WJ, Lumeng L, et al. Alcohol stimulates the release of dopamine and serotonin in the nucleus accumbens. Alcohol. 1991;9:17-22.

Cloninger's Temperament and Character Inventoryの報酬依存(RD)スケール

この研究で使用されているRDスケールについても解説しておこう。
過度なインターネット・ビデオゲームのプレイ(EIGP群)で対照群よりRDスケールが高かった。
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統計学的に有意な値になっているが、それほどの差ではなさそうだ。

en.wikipedia.org

Temperament and Character Inventoryにはいくつかのドメインがあるが、その一つが応酬依存とされるRDスケールである。以下のもので計測される。

報酬依存(RD)

  • 感傷(RD1, Sentimentality)
  • 愛着 (RD3, Attachment)
  • 依存(RD4, Dependence)

Temperament and Character Inventoryの日本語訳 木島伸彦ほか「Cloningerの気質と性格の7次元モデルおよび日本語版Temperamentand Character Inventory (TCI)」 https://www.institute-of-mental-health.jp/thesis/pdf/thesis-06/thesis-06-04.pdf

DRD2 Taq1A1対立遺伝子、COMT対立遺伝子保有者のRDスコアは対照群に比べて高かったという結果が出ている。

オッズ比の計算

どの程度の差があるのか把握しにくかったので、オッズ比を計算してみた。

DRD2 Taq1A1

DRD2 Taq1A1対立遺伝子保有者と過度なインターネット・ビデオゲームのプレイのクロス表を作成し、そこからオッズ比を求めた。

DRD2 <- matrix(c(61,18,46,29), nrow=2, ncol=2, byrow=T)
colnames(DRD2) <- c("A1","A2")
rownames(DRD2) <- c("EGP","Control")
library(epitools)
oddsratio.wald(DRD2)$measure

結果。

odds ratio with 95% C.I. estimate    lower    upper
                 EGP     1.000000       NA       NA
                 Control 2.136473 1.059154 4.309589

DRD2 Taq1A1の場合2.14倍のようである。

COMT Val158Met

COMT Val158Met対立遺伝子保有者と過度なインターネット・ビデオゲームのプレイのクロス表を作成し、そこからオッズ比を求めた。

COMT <- matrix(c(47,32,31,44), nrow=2, ncol=2, byrow=T)
colnames(COMT) <- c("COMTH","COMTL")
rownames(COMT) <- c("EGP","Control")
library(epitools)
oddsratio.wald(COMT)$measure

結果。

odds ratio with 95% C.I. estimate    lower    upper
                 EGP     1.000000       NA       NA
                 Control 2.084677 1.096322 3.964053

COMT Val158Metの場合2.08倍のようである。

考察

オッズ比2くらいだと有望な説明要因の一つになりうるといった位置づけだろうか。ただ、この研究とゲーム障害を結び付けるには、2つの条件を越えなければならない。

1つ目はドーパミンの遺伝子多型が直接的にゲーム障害を説明できるか、であろう。依存とゲームプレイ時間は異なった概念でプレイ時間と依存の関連があると指摘できた論文はないため、三段論法的につなげるのは誤りである。遺伝子多型とゲーム障害との関連を報告した論文があればクリアできるだろう。

2つ目はドーパミンが依存に関連しているのは、遺伝子多型の研究がなくても明らかであるが、どの程度、説明力があるか、ということである。この辺りはやや疑問が残るところである。あまり前例はないかもしれないが、他の精神障害、社会的因子などとともに、遺伝子多型含めた多変量解析をして、遺伝子多型の説明力がどの程度あるかは知りたいところである。一変量の分析では判断がつかないというのが実際のところである。